研究課題/領域番号 |
23K01043
|
研究種目 |
基盤研究(C)
|
配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分04030:文化人類学および民俗学関連
|
研究機関 | 京都先端科学大学 |
研究代表者 |
渡部 圭一 京都先端科学大学, 人文学部, 准教授 (80454081)
|
研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2027-03-31
|
研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
|
配分額 *注記 |
4,160千円 (直接経費: 3,200千円、間接経費: 960千円)
2026年度: 1,040千円 (直接経費: 800千円、間接経費: 240千円)
2025年度: 1,040千円 (直接経費: 800千円、間接経費: 240千円)
2024年度: 1,040千円 (直接経費: 800千円、間接経費: 240千円)
2023年度: 1,040千円 (直接経費: 800千円、間接経費: 240千円)
|
キーワード | はげ山 / 千葉徳爾 / 環境民俗学 / 地域環境史 / ローカルコモンズ |
研究開始時の研究の概要 |
本研究は、伝統的な日本の村落(ムラ)を主体とした環境改変とそれによる災害の実態を解明し、従来の調和的な「里山」像を批判的に再考することを目的とする。 ムラの共有地における濫獲の結果が「はげ山」をもたらしたことは、千葉徳爾『はげ山の研究』[千葉 1991(原版1956)]の先駆的な見解があるが、その後の研究は停滞している。これに対して本研究では、①「はげ山はどこにあったのか」、②「はげ山を作り出したのは誰か」、③「ムラははげ山にどう応答したのか」という観点で千葉の研究を再検討し、資源の過剰利用を視野におさめた新しい地域環境史・植生利用史を構築する。
|
研究実績の概要 |
本研究は、伝統的な日本の村落を主体とした環境改変とそれによる災害の実態を解明し、従来の調和的な「里山」像を批判的に再考することを目的としている。具体的に、①「はげ山はどこにあったのか」、②「はげ山を作り出したのは誰か」、③「ムラははげ山にどう応答したのか」といった論点でこれまでの研究を再検討し、資源の過剰利用を視野におさめた新しい地域環境史・植生利用史を構築することをめざすものである。 本研究で想定している調査地域は、東近江市今堀町(A)・近江八幡市沖島町(B)・大津市北比良(C)・大津市大戸川流域(D)の4地点である。2023年度の進捗は下記のとおりである。Aでは共有文書(今堀日吉神社社務所保管文書)の整理を完了し、文書目録を刊行した。Bでは沖島漁業協同組合文書(石材組合文書を含む)の整理を進め、2024年度には文書目録刊行が可能な状況に到達した。Cでは石材業を営む「親方」家である比良岡七郎家文書の整理を完了し、文書目録を刊行したほか、新たに未整理の北比良共有文書を大量に見出し、これの整理作業を進めるとともに、山林を共有する宮座「三十人衆」文書の整理にも着手した。Dでは、大津市歴史博物館所蔵で整理済みの大津市牧町・里町・芝原町の紙焼きのうち山林関係文書を撮影するとともに、未整理文書として大津市中野町の山の神文書の目録を作成(未刊)した。このうち大津市芝原町では未整理の近現代文書を新たに見出した。いずれの地点でも、並行して共有山利用に関する聞き取り調査を実施した。 初年度である2023年度は以上のような基礎作業と目録の刊行が主たる成果の一つであるが、2022年度までに受給していた科研費の成果と2023年度に得た知見をもとに、「はげ山」を主題とした学会誌論文1編と口頭報告(人文地理学会)1件、地点Cに関しては山地の荒廃にともなう土砂に注目した共著論文3編を公表することができた。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
2023年度は研究期間の初年度ではあるが、2022年度までに受給していた科研費の成果もあって、「はげ山」などの山地の荒廃およびこれにともなう河川への土砂流出を主題とした論文計4編(『日本民俗学』掲載論文1編、吉田丈人ほか編『災害対応の伝統知-比良山麓の里山から』昭和堂所収論文3編)を年度内に公表できたことは、想定以上の成果であった。 このうち前者の論文では、上述の論点②について、近江の「はげ山」形成は近世~明治前期の柴山における過剰な林床の植生の採取(柴刈り)にあったこと、この間に植生の管理規範にはとくに変化はみられず、一部の先行研究が想定するような資源の共同管理の崩壊といったできごとは生起していなかったことを指摘したが、この知見は今後の研究期間を通して基礎的な枠組みとなるものである。一方、後者の論文では、論点③について、山地からの土砂流出に直面した流域村落ではさまざまな土砂留の在来知を蓄積していたことを明らかにした。土砂の問題を内在化させた資源管理という知見も今後の本研究を貫くモデルとなることが期待される。 また2023年度は基礎的な文書調査・聞き取り調査を重視して順調に作業を進めることができたが、そのなかでも地点C(大津市北比良)の共有文書に未整理の近世~近現代文書を多数見出したことや、地点D(大津市大戸川流域)の大津市芝原の共有文書に未整理の近現代文書がやはりかなりの量残されていることが判明したことは想定以上の成果であったといえる。これにより研究期間全体で取り組むべき基礎的な調査の全体像についても、当初の期待以上に早い段階で見通しを得ることができた形となった。 以上のように、2023年度は、基礎的な調査が当初計画以上に進捗して研究期間全体の見通しが得られたこと、また今後の研究課題全体を支える研究成果の発信にも着手できたことから「当初の計画以上に進展している」と判断している。
|
今後の研究の推進方策 |
本研究は一次資料の掘り起こしに立脚したフィールドワークによる「はげ山」研究をめざすものであって、2024年度も上述した各地点の基礎的な調査を進めることが当面の課題である。目録刊行までを完了した東近江市今堀町(A)を除くと、近江八幡市沖島町(B)では沖島漁業協同組合文書の目録の刊行、Cでは北比良共有文書のうち未整理分の整理と目録作成、および山林を共有する宮座「三十人衆」文書の整理と目録作成、Dでは芝原町共有文書のうち未整理分の整理と目録作成を並行して実施する。このうちCおよびDについては現地の大津市歴史博物館・滋賀県立琵琶湖博物館との協業体制をこれまでどおり重視しつつ、今後の研究を推進する。 なお当初の研究計画には含めていなかったが、本年度の調査の過程では、草津市下笠町、大津市和邇川流域、近江八幡市千僧供町周辺などで、やはり山林・土砂留に関する文書や聞き取り情報が断片的に得られつつある。次年度以降、当初計画の地点に加えて、これらの事例地域にも追加で取り組むことが可能な状況となった。2024年度はこれらの事例に関する情報収集にも努め、研究成果をより確たるものとしていきたい。 研究成果の発信にあたっては、2023年度に公表した論文の延長上で、はげ山の植生回復過程における村落社会の挙動(論点②に関連)、在来の土砂留を担う村落や職人集団の実態(論点③に関連)を扱った論文の公表を進めるほか、2024年度には近江一国規模での低植生環境の復原的な考察(論点①に関連)を行い、当初計画どおりの均衡のとれた研究の前進をはかることとしたい。具体的な素材として、滋賀県物産誌の大字単位の植生データを活用した明治前期の低植生期の高精度の実態解明を進める計画としている。すでにテキスト情報の入力は完了しており、今後具体的な考察を加えうる段階にある。
|