研究課題/領域番号 |
23K01100
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分05020:公法学関連
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研究機関 | 東京都立大学 |
研究代表者 |
田尾 亮介 東京都立大学, 法学政治学研究科, 教授 (50581013)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
3,640千円 (直接経費: 2,800千円、間接経費: 840千円)
2025年度: 1,040千円 (直接経費: 800千円、間接経費: 240千円)
2024年度: 1,300千円 (直接経費: 1,000千円、間接経費: 300千円)
2023年度: 1,300千円 (直接経費: 1,000千円、間接経費: 300千円)
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キーワード | 都市計画契約 / 行政契約と行政手続 / 原因行為と財務会計行為の関係 / 墓地埋葬法 / 原告適格 / 通時的視点と共時的視点 / 記述的説明と規範的説明 |
研究開始時の研究の概要 |
本研究は、行政契約を、行政行為と双璧をなす法行為と位置づけ、その基礎理論、制度的課題および発展的課題を分析することを通じて、行政契約について行政行為と比肩しうる法行為に相応しい体系の一端を提示し、現代社会において様々な場面で生じる「合意による行政」現象の理論的受け皿となることを企図して計画されたものである。 具体的には、通時的視点および共時的視点を重視し、①民法の契約理論を基礎に置きつつその固有性に配慮した行政契約理論の確立、②行政契約の実体的・手続的規律の不備を補う法整備の積極的な提案、③契約と行政行為の代替的・結合的関係およびその区別の相対性に関する発展的課題についてそれぞれ研究を行う。
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研究実績の概要 |
本年度の研究実績は、次のとおりである。 学会発表1件目は、都市計画契約という大きな括りの下、(ⅰ)日本の開発指導要綱とドイツ・アメリカの開発負担協定の比較、(ⅱ)都市計画分野における事前協議手続、(ⅲ)容積率の規制緩和と公共貢献、(ⅳ)フランス行政契約法の参照意義についてそれぞれ発表したものである。そこで論じられたことは、「協議当事者による協議は、法の定める(開発、許認可等の)基準を前提として行われるのではなく、協議自体が基準を定立していく過程であって、法はその手続を定めるものと位置づけられる」という法のメタ構造であり、この点について参加者から好意的な意見が寄せられたことは望外の幸せであった。 行政契約については事前手続とともに事後手続が重要である。日本法において後者の大部分を担うのが、住民訴訟である。雑誌論文2件目が対象とした判例は、平成25年最判(宮津市土地開発公社事件)を引用しつつ、原因行為と財務会計行為の関係について新たな判示を示したものである。両判決により、支出命令権者はその前段階である支出負担行為(契約の締結等)の適法性・有効性について調査しなければならないという判例法理が確立したことになり、その意義は等閑視されるべきではない。 また、2024年4月から施行された改正感染症法により、地域の中核医療を担う公的医療機関等は平時から都道府県と病床確保等について協定を締結することが義務づけられ、協定違反があった場合には、勧告や指示、病院名の公表がなされることになった。ここには、研究代表者がかねてより問題意識を持ってその研究に取り組んでいる(行政の行為形式でいうところの)行政契約と行政行為の興味深い組み合わせが見られるのであり、このような方式の可能性と限界を明らかにしていくことが今後の課題である。 なお、その他の研究業績については下記研究発表欄掲記の各論考を参照されたい。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は研究開始初年度であるところ、本研究課題に関連した論考を発表しているほか、次年度以降の研究の進展に向けた準備も進んでいる。また、研究会における報告を通じて新たな研究テーマの萌芽に接することができた。次年度も他の研究課題と並行する形で、本研究課題に関連する論文執筆および研究報告を予定しており、現在はそれらに向けた準備を進めている。 これらの状況を勘案すると、本研究課題はおおむね順調に進展していると評価できる。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究の推進方策については、着地点が見えているものと見えていないものがある。 見えているものについて。引き続き、比較研究および歴史研究を通じて、(ⅰ)民法の契約理論を基礎に置きつつその固有性に配慮した行政契約の一般理論の確立(どのような場合に契約的手法によることが許されるか、行政主体が事情変更等により契約内容を一方的に変更することはどのような条件の下で許容されるか、契約の相手方が履行しない場合にその履行を確保する手段としてどのような方途があるかなど、契約の締結から履行に至るまでの過程を体系的に整理すること)、(ⅱ)行政契約の実体的・手続的規律の不備を補う法整備の積極的な提案、(ⅲ)契約と行政行為の代替的・結合的関係およびその区別の相対性に関する発展的課題についてそれぞれ研究を行う。 見えていないものについて。人は齢を重ねるにつれて、より抽象度の高い議論を好む傾向があると思う。研究代表者もその一人である。最近は、(ⅰ)行政による一方的決定よりも、国民・住民との間の協議(話し合い)や合意形成がその時間的コストなどを考慮してもなお(アカデミズムや実務において)異口同音に好まれるのはなぜか、(ⅱ)協議や合意によって導かれた判断はつねに行政による一方的決定より望ましいものといえるのか、(ⅲ)「望ましい判断」であるか否かは何を物差しにして判断されるのか、というようなことばかりを考えて、毎日を過ごしている。 もっとも、本研究課題は緒に就いたばかりであり、いまは実定法研究者として、行政契約の一般理論、行政契約と行政手続、行政契約と行政訴訟などの諸課題に取り組むことに専念し、協議や合意の理論的正当化作業については本研究課題が完了するときまでに一つの結論を出せればよいと考えている。
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