研究課題/領域番号 |
23K01111
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分05030:国際法学関連
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
山形 英郎 名古屋大学, 国際開発研究科, 教授 (80222363)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2027-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,810千円 (直接経費: 3,700千円、間接経費: 1,110千円)
2026年度: 1,430千円 (直接経費: 1,100千円、間接経費: 330千円)
2025年度: 1,040千円 (直接経費: 800千円、間接経費: 240千円)
2024年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
2023年度: 1,430千円 (直接経費: 1,100千円、間接経費: 330千円)
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キーワード | 国際司法裁判所 / 必要当事者原則 / 第三者法益原則 / 貨幣用金原則 / 貨幣用金事件 / 判決の拘束力 / 対世的義務 |
研究開始時の研究の概要 |
研究目的を遂行する上で、次の3点を研究する。第1に、国際司法裁判所において展開してきた第三者法益原則(貨幣用金原則)の妥当性である。第三者法益原則の適用要件を明らかにする。その上で、勧告的意見手続において否定されている東部カレリア原則との共通点を探り、判例に一貫性がないことを検証する。第二、対世的権利義務を審理する手続として訴訟事件の適否を検討する。判決は第三者に対する法的拘束力がないと規定する国際司法裁判所規程第59条の意味を明らかにする。第三に、判例法理の静かな変更について、その正統性を検討する。対世的権利義務に関する紛争については、勧告的意見手続の活用可能性を探る。
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研究実績の概要 |
第1年度は、第三者法益原則を検討する予定であった。このテーマは前年度から研究を開始しており、第三者法益原則の先例とされる「貨幣用金事件」を批判的に検討した。第三者法益原則は、「貨幣用金原則」と一般に呼称されているとおり、ICJの「貨幣用金事件」をその根源とすると一般には理解されている。しかし、「貨幣用金原則」は、実は「貨幣用金事件」をその先例とすることができないことを発見した。 第三者法益原則または「貨幣用金原則」は、管轄権が「存在」する場合であっても、管轄権を「行使」してはならない理由付けの一つである。しかし、「貨幣用金事件」では、管轄権の根拠とされるワシントン声明はパリ戦後賠償条約に基づくはずであるが、この条約はローマから持ち出された金の「返還」に関する条約であって、戦後発生した事実に基づく「損害賠償」に関しては適用がない。したがって、イタリアとアルバニアの間の紛争についてはそもそも管轄権が存在していない事例である。東ティモール事件で後にICJが適用する「貨幣用金原則」は、「貨幣用金事件」を先例とすることはできず、この事件で新たに生み出された法理といわざるを得ない。 また、国際司法裁判所判決や勧告的意見の法的効果に関する研究を開始した。判決は,特定の事件における特定の当事者に対してのみ拘束力を有する。一方、勧告的意見は拘束力を有しないと一般に理解されている。しかし、ITLOSは、「モーリシャスとモルジブ間の海洋境界画定事件」において、ICJのチャゴス諸島事件の勧告的意見を権威あるものとしてあたかも拘束力あるかのごとく適用した。もしもこれが正しいとすれば、訴訟事件においては「貨幣用金原則」を適用し裁判を行わない一方、勧告的意見では特定の国家の法益が密接に関係づけられていても裁判可能ということになり、両者で矛盾が生じることを指摘した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究開始前に「貨幣用金原則」(=第三者法益原則)の起源を明らかにすることができ、プロジェクト開始の予備研究を完了させることができた。本プロジェクトは幸先のよい滑り出しであった。また第1年度から勧告的意見の拘束力の研究を進めることができた。研究計画では第2年度に、訴訟事件における第三者法益原則と勧告的意見手続における「東部カレリア原則」の否定との矛盾を研究する予定であったが、この点はすでに第1年度から進められたという意味で、予定以上の進捗状況である。ただ、「東部カレリア原則」の再検討はまだ緒に就いた段階であり、PCIJの東部カレリア事件とICJの平和条約事件やその他の関連事件を検討しながら、「貨幣用金原則」と「東部カレリア原則」の異同を研究しなければならない。第2年度の課題である。 第1年度に「貨幣用金原則」の適用要件の研究は十分進めることができなかった。「貨幣用金原則」の起源であるとされてきた「貨幣用金事件」の研究は完成したが、原則が適用されたとされる東ティモール事件の研究は不十分なままである。この事件の研究を行いながら、ニカラグア事件やナウル・リン鉱山事件など「貨幣用金原則」が適用されなかった事件と対比することで、適用要件を検討したいと考えているが、その点については十分研究を展開することができなかった。ICJでは東ティモール事件以外で、この原則を適用したことはなく、適用できなかった理由付けを探ることで、適用要件を確定したい。この点、第2年度で補完したい。 以上のように、論点によって進捗度に差があることは事実であるが、概ね計画通りに進めることができていると考える。
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今後の研究の推進方策 |
まず貨幣用金原則が認められた事件を研究する。国際司法裁判所においては貨幣用金事件と東ティモール事件である。ただし、その起源となった貨幣用金事件はすでに期限とはならず、先例的価値を有しないことを証明したので、東ティモール事件を中心に検討する。 第二に、貨幣用金原則が認められなかった事件を研究する。国際司法裁判所においてニカラグア事件、ナウル・リン鉱山事件、カメルーン対ナイジェリアの領土海洋境界画定事件 、コンゴ領域軍事活動事件 、ジェノサイド条約適用事件(クロアチア対セルビア)事件及び1989年10月3日仲裁裁判判決事件では貨幣用金原則が認められなかった。東ティモール事件との相違を比較検討する。 第三に、国際海洋法裁判所では、モーリシャスとモルジブ間の海洋境界画定では、原則の適用が否定された。常設仲裁裁判所においては1件認められ、1件否定された。認められた事件は、the Larsen v. Hawaiian Kingdom caseであり、否定された事件は、フィリピン対中国の南シナ海事件である。ここでも、両者を分けた法的立論を探しながら、貨幣用金原則の要件を確定する。 第四に、貨幣用金原則の適用が主張された事件において、管轄権を行使すべきか否かを検討する裁判所が適用してきた貨幣用金原則の要件自身に一貫性があるかどうか検証する。一貫性があるとすればそこから導かれる要件内容を確定できるが、一貫性がない場合は原則自体に対する信頼性の欠如を来すことになる。貨幣用金原則がどこまで国際裁判上確立した原則となっているのか、将来の法的安定性を確保するために有益な原則となり得ているのかについて考究する。合わせて、貨幣用金原則が法原則として確立していたとしても、国際司法裁判所の原則で終わっているのか、それとも国際裁判共通の法原則となっているのか、注意深く資料を吟味したい。
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