研究課題/領域番号 |
23K01112
|
研究種目 |
基盤研究(C)
|
配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分05030:国際法学関連
|
研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
玉田 大 京都大学, 法学研究科, 教授 (60362563)
|
研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2026-03-31
|
研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
|
配分額 *注記 |
4,680千円 (直接経費: 3,600千円、間接経費: 1,080千円)
2025年度: 1,560千円 (直接経費: 1,200千円、間接経費: 360千円)
2024年度: 1,560千円 (直接経費: 1,200千円、間接経費: 360千円)
2023年度: 1,560千円 (直接経費: 1,200千円、間接経費: 360千円)
|
キーワード | 国際司法裁判所 / 紛争解決 / 国際コントロール / 管轄権 / 客観訴訟 / 機能変化 / パレスチナ / ウクライナ / 構造変化 |
研究開始時の研究の概要 |
本研究は、国際司法裁判所(ICJ)の判例において「国際コントロール訴訟」が認められつつあることから、ICJの機能が伝統的な「紛争解決」機能に止まらず、「国際コントロール」機能に及んでいることを明らかにする。第1に、紛争解決概念と国際コントロール概念の異同に関する学説の再検討を行う。従来の学説においても「司法的国際コントロール」の位置付けを巡り混乱が見られる点を中心に再検討を行う。第2に、各種人権条約上の国家申立手続(inter-State application procedure)との比較分析を通じて、ICJの客観訴訟が実質的に「司法的国際コントロール」として機能している点を明らかにする。
|
研究実績の概要 |
本年度は、国際司法裁判所の機能変化について、実証分析・判例分析を行った。 第1に、世界法学会において、科研費の研究テーマについての報告を行い、その成果を世界法年報に発表した。研究内容は、「紛争」概念と「国際コントロール」概念の関係、PCIJにおける国際コントロール訴訟の実証分析を踏まえた上で、ICJにおける紛争解決機能と国際コントロール機能の重層化を明らかにすることであり、おおよそ、研究開始当初の予想通りの結果となった。すなわち、紛争存在要件と原告適格要件の2つにつき、判例上で緩和させる傾向があり、その結果、紛争解決の枠組みの中で、国際コントロール機能が発揮されていることが明らかになった。また、この点は、欧州人権裁判所の国家間申立手続との比較という点からも明らかになった。 第2に、ICJ暫定措置手続においても、上記の判例動向が影響を与えていることを明らかにした。特に、暫定措置において問題となる権利の尤もらしさの要件について、当事国間対世的義務を根拠とした権利義務の相関関係が認められており、これにより、暫定措置手続が人権保護手続へと変質していることを指摘した。この点については、大学紀要である法学論叢に成果をまとめて発表した。 第3に、科研費テーマに付随する論点として、ICJの機能や訴訟目的の変化にも注目している。そこで、ウクライナ対ロシアの訴訟についても判例分析を進めており、ICLR誌特集号において、当該事件の暫定措置と訴訟参加に関する評釈を発表した。宇対露事件を通じて、ICJが伝統的な紛争解決機能だけでなく、国際世論形成を期待される場となっていることを指摘した。ただし、この点はまだ実証分析が十分というわけではないため、引き続き検討する予定である。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
第1に、世界法学会において「国際司法裁判所の構造変化―紛争解決と国際コントロールの重層化」と題する報告を行った。質疑応答において、新たな知見を得た上で、報告内容を再度検討・精査した。第2に、上記の学会報告を踏まえて、世界法年報に「国際司法裁判所の機能変化―紛争解決と国際コントロールの重層化」と題する論文を発表した。学会員・読者からの批評を待っているところである。内容的には、研究開始時の自身の問題関心に概ね答えることができ、ICJの機能変化を実証的に裏付けることができたと考えている。また、国際人権法や国際裁判法の研究者との議論を通じて、判例動向の評価についても、概ね好意的な反応を得ている。 第2に、法学論叢に「国際司法裁判所の機能変化―暫定措置による共同体利益の保護」を掲載した。上記の構造変化論の議論の1つであり、暫定措置を題材として、当事国間対世的義務の履行監視の役割が暫定措置にも表れていることを示した。ある研究会内で報告したところ、本研究に関連する部分については広く受け入れられているという印象を得た。特に、近年話題となっているガンビア対ミャンマー事件や南ア対イスラエル事件を素材として扱っており、上記の問題関心に沿った判例分析ができたと考えられる。 第3に、ICJの機能変化の全体像を把握するためにウクライナ対ロシアのICJ訴訟を丹念に分析し、International Community Law Reviewに特集号を組んだ上で、ICJ判例の分析結果を公表した。また、「自由と正義」誌にも同趣旨の論考を発表した。宇対露の訴訟に典型的に見られるように、ICJの利用目的が大きく変化しつつあることを指摘した。ICJ判例が急激に増えつつあり、これらをフォローするだけでも大変な作業となりつつあるが、現時点ではなお時宜に遅れず、フォローができている。
|
今後の研究の推進方策 |
上記の研究成果の対象は、ICJの暫定措置、管轄権判断(紛争存在要件)、受理可能性判断(原告適格)といった、訴訟の最初の方の手続に集中している。これは、従来の訴訟論が訴訟成立要件を検討対象としてきたことに由来しており、現在においてもその重要性は変わらない。他方で、今後問題となるのは、訴訟の中間部分と帰結部分であり、本研究もそれに従い、次の論点を扱う必要がある。 第1に、訴訟参加である。ウクライナ対ロシア訴訟において、33カ国の訴訟参加宣言があり、32カ国の訴訟参加が認められている。このように、国際社会の共通利益に関連する訴訟においては、訴訟参加が増加する。上記の国際コントロール訴訟においても、複数の事件において訴訟参加国が増加する傾向が見られる。問題となるのはICJ規程63条参加ではなく、62条参加であり、現在、南ア対イスラエル事件において、ニカラグアの訴訟参加(62条参加申請)が認められるか否か、注目されるところである。 第2に、二辺的対審構造を有するICJ争訟手続が「国際コントロール訴訟」に適合するか否か、細かい論点が噴出する可能性がある。例えば、証拠法、挙証責任、判決効などが争点となる。実際の訴訟の推移に照らして、分析対象とする必要がある。 第3に、ICJの正統性(legitimacy)の議論である。近年、グローバル立憲主義やグローバル行政法の議論において、国際的公権力行使を行う国際機関の正統性が広く論じられている。実証分析とは区別する必要があるが、今後大きな争点となり得る問題であり、本科研研究の中に取り込んで行うことを予定している。特に注目しているのは、Bogdandyの国際公権力論であり、現在のICJの判例動向を説明するのに適していると解される。この点に関連して、当事国間対世的義務・共通利益概念を基盤とした公権力概念の構築を分析する予定である。
|