研究課題/領域番号 |
23K01124
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分05040:社会法学関連
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研究機関 | 茨城大学 |
研究代表者 |
今川 奈緒 茨城大学, 人文社会科学部, 准教授 (60509785)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
1,560千円 (直接経費: 1,200千円、間接経費: 360千円)
2025年度: 260千円 (直接経費: 200千円、間接経費: 60千円)
2024年度: 780千円 (直接経費: 600千円、間接経費: 180千円)
2023年度: 520千円 (直接経費: 400千円、間接経費: 120千円)
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キーワード | インクルーシブ教育 / 障害者権利条約初回対日審査の総括所見 / 日本型インクルーシブ教育 / 合理的配慮 / IDEA / 特別支援教育 / 教育法 |
研究開始時の研究の概要 |
日本の「インクルーシブ教育」の下では、障害児が合理的配慮を受けながら通常学級に在籍するための法的仕組みが整えられていない。本研究の目的は、日本におけるインクルーシブ教育の実現のために、その法的理論や仕組み、合理的判断基準とその効果について分析を行うことにある。具体的には、①アメリカ法との比較研究により、障害児教育においてあるべき合理的配慮の法規範を明示し、②インクルーシブ教育の実現を妨げてきた日本の教育法理や制度、教育財政保障制度の問題点・解決の糸口を示し、③インクルーシブ教育を積極的に推進している自治体の調査を行い、社会的・地域的インクルージョンに与える効果を明らかにする予定である。
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研究実績の概要 |
2023年度の研究成果として、今川奈緒「第12章 教育」長瀬修・川島聡ら編『障害者権利条約の初回対日審査-総括所見の分析』(法律文化社、2024年)を執筆した。 本稿では、2022年に国連より公表された、日本に対する障害者権利条約初回審査の総括所見について分析を行った。総括所見の背景にあるのは、①医学モデルをベースとして、障害のある児童への分離された特別支援教育が永続していること、②障害のある児童生徒の通常学校への入学の拒否が散見されること、③特別支援学級の生徒が授業時間の半分以上を通常学級で過ごすことを禁止した2022年の文科省通知(「特別支援学級及び通級による指導の適切な運用について(通知)」令和4年4月27日4文科初第375号)が発出されたこと、④合理的配慮の提供が不十分であること、⑤通常教育の教員のインクルーシブ教育に関する技術の欠如や否定的な態度(パラグラフ51)といった、日本の障害児教育の現状に対する懸念であり、これらの問題の根底にあるのは、文科省が分離を前提とした「日本型インクルーシブ教育」と称される仕組みを維持していることにあると考えられる。 本稿においては、「日本型インクルーシブ教育」がインクルーシブ教育と乖離するものであることを指摘し、インクルーシブ教育を推進するためには、特別支援教育にかかわる制度のみではなく、義務教育の制度を根本的に改革していく必要性があることを論じた。具体的には、「同調圧力」を生み出す教育文化の変容、手続制度の改革、学級定員数の改正、教育費の基礎単位を学級から個人に移行することを今後の研究課題として提示した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
2023年度は、アメリカ法との比較検討を行う予定であったが、日本法の現状分析を中心におこなったため、比較法研究が不十分であった。これについては、2024年度の後半に集中して行う予定である。
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今後の研究の推進方策 |
【2024年度前半】研究実施計画の通り、インクルーシブ教育の実現に必要とされる教育制度改革について、集団主義教育、財政保障制度の問題点を踏まえて検討する。日本の「インクルーシブ教育」の問題点については、特別支援教育に直接かかわる制度のみをとらえるのではなく、教員不足や教育財政問題等、教育制度全体が抱える問題から検討する必要がある。これらの論点については、本研究期間を通して検討を続ける。
【2024年度後半】アメリカでは、1970年代以降、障害者教育法(IDEA)の下インクルーシブ教育が積極的に進められており、裁判例、研究成果共に膨大な蓄積がある。アメリカのようにインクルーシブ教育を先進的に進める国では、それぞれの障害児が通常学級に在籍することを前提に、実質的に教育の利益を受けるために必要な合理的配慮の内容について徹底的に討議され、また、その機会を保障する精緻な手続が存在する。障害者教育法(IDEA)における適正手続を保障する法的仕組み、「最も制限のない環境(LRE)」において「無償かつ適切な公教育(FAPE)」を保障する仕組み(インクルージョンと合理的配慮を保障する仕組みに該当するもの)を検討し、日本法への示唆を得る。
【2025年度】研究実施計画の通り、インクルーシブ教育と合理的配慮の法的仕組みが、日本の教育現場に及ぼす効果、社会的・地域的インクルージョンの実現に及ぼす効果について検討を行う予定である。2014年の障害者権利条約の批准後、インクルーシブ教育を積極的に推進している自治体(大阪府豊中市等)において、小中学校卒業後の児童生徒が社会的・地域的に包摂されていく過程を調査し、インクルーシブ教育の効果を明らかにする予定である。
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