研究課題/領域番号 |
23K01173
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分05060:民事法学関連
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研究機関 | 立教大学 |
研究代表者 |
野澤 正充 立教大学, 法学部, 教授 (80237841)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,550千円 (直接経費: 3,500千円、間接経費: 1,050千円)
2025年度: 1,300千円 (直接経費: 1,000千円、間接経費: 300千円)
2024年度: 1,300千円 (直接経費: 1,000千円、間接経費: 300千円)
2023年度: 1,950千円 (直接経費: 1,500千円、間接経費: 450千円)
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キーワード | 瑕疵担保責任 / 契約不適合責任 / 所有者責任主義 / ウィーン売買条約 / 危険負担 / 双務契約 / 有償契約 / 無償契約 / 代金額の決定 / 枠組契約 |
研究開始時の研究の概要 |
売買契約は、諾成・双務・有償契約である(民法555条)が、このうちの「双務性」と「有償性」は、従来は明確に区別されていなかった。しかし、契約の双務性からは、同時履行の抗弁(民法533条)、危険負担(民法536条)、契約の解除(民法541条以下)などの法理が導かれるのに対して、有償性がもたらす帰結は明確ではない。本研究は、双務性と有償性のの異同から、売買契約の本質を探究することを目的としている。
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研究実績の概要 |
本年度は、契約の「双務性」については、危険負担の検討を行い、また、契約の「有償性」については、それと対概念となる契約の「無償性」の法理を検討した。 まず、危険負担における「危険」の概念が多義的であり、比較法的にも、国によってその概念が異なることを明らかにした。とりわけ、給付危険と対価危険を明確に区別しているのはドイツ民法だけであり、そこにはドイツ民法に特有の事情が存在する。これに対して、危険負担についての明治民法の母法であるフランス民法は、給付危険と対価危険を区別せず、単純に1つの「危険」(=物の危険)の概念で対処している。すなわち、物の滅失は所有権者の負担となり(Res perit domino)、特定物の売買においては、売買契約締結時に所有権が買主に移転するため、以後は買主が代金支払義務を負う。また、不特定物の売買においては、特定の時(=目的物の引渡時)に所有権が買主に移転し、同時に危険も移転する。そうだとすれば、物の危険と給付危険・対価危険は、不即不離の関係にあり、原則として分離することはない(1196条3項)。現在、フランスで議論されている契約各論の改正においても、この立場が堅持されている。そして、フランス民法に倣った明治民法も、特定物の売買においては契約締結時に(旧534条1項)、また、不特定物の売買は特定の時に(旧534条2項・402条2項)、目的物の所有権とともに危険が買主に移転するとした。それゆえ、物の危険と契約の危険が区別されず、給付危険と対価危険も分離することはなかった。しかし、債権法改正後の民法では、見解が分かれている。 「双務性」からは、上記のような危険負担の法理が導かれるのに対して、「有償性」からは、そのような法理が導かれない。すなわち、対概念の無償契約については、事情変更や忘恩行為による解除が認められるものの、それらは無償性に内在する法理でない。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は、そのタイトルからも明らかなように、契約の「双務性」と「有償性」の法理の違いを検討するものである。そして、契約の双務性については、双務契約の代表的な法理である危険負担および瑕疵担保責任(契約不適合責任)の検討を課題としている。この課題については、単著の教科書(後述の『契約法・第4版』で自らの立場を明確に表明したとともに、2024年2月から3月にかけて、フランスで現在進められている契約各論の改正の調査を、パリ、リヨンおよびポワチエで行い、立法担当者との議論を行った。 また、契約の「有償性」については、「有償契約における代金額の決定」の論文を継続して執筆しているが、それとは別に、「有償性」とは対概念となる契約の「無償性」について、「負担付死因贈与と遺贈に関する一考察」を著した。無償契約の検討も、本研究テーマにとっては必要不可欠なものであり、本研究は、おおむね順調に進捗していると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
本研究テーマとの関連では、現在フランスにおいて進められている、契約各論の改正作業が重要である。すなわち、現在のフランスでは、2つの改正草案が公にされ、それを司法省が引き取り、司法省の改正案を作成している段階にある。そこで、2024年度も引き続き、フランスでの契約各論の改正作業についての調査を行うこととする。 また、本研究テーマに関連する論文としては、引き続き、「有償契約における代金額の決定」の連載を続けると共に、双務契約に関しては、種類債権における特定と危険の移転についてのフランス法と日本法を比較する論文を執筆する予定である。そして、その内容を、フランスでの講演によって、フランスの研究者とも共有し、議論を深める予定である。
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