研究課題/領域番号 |
23K01192
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分05060:民事法学関連
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
大久保 邦彦 大阪大学, 大学院国際公共政策研究科, 教授 (60258118)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2028-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,420千円 (直接経費: 3,400千円、間接経費: 1,020千円)
2027年度: 520千円 (直接経費: 400千円、間接経費: 120千円)
2026年度: 1,170千円 (直接経費: 900千円、間接経費: 270千円)
2025年度: 520千円 (直接経費: 400千円、間接経費: 120千円)
2024年度: 1,170千円 (直接経費: 900千円、間接経費: 270千円)
2023年度: 1,040千円 (直接経費: 800千円、間接経費: 240千円)
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キーワード | 民法 / 法学方法論 / 法解釈方法論 / 法原理 / 原理理論 / 不法行為 / 動的体系論 / 動的システム論 / 法解釈 |
研究開始時の研究の概要 |
研究代表者はこれまで、法解釈・法獲得の作業を合理的にコントロールし、民法の一貫性を確保することを窮極的な目的として、民法全体を法原理によって体系化することをライフワークにしてきた。 本研究では、その作業の一環として、(1)裁判官は自らが望ましいと考える結論にどのようにして到達するか、(2)どのようにすれば法理念・法原理といった抽象的価値と個別事件における具体的価値判断とを接合できるか、(3)その際、法原理はどのように機能するか、(4)その前提として、法原理にはどのような種類のものがあり、その各々はどのような機能を果たすか、について探究する。
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研究実績の概要 |
公刊された研究業績として、①「『法の内的体系』鳥瞰図」阪大法学73巻2号〔2023〕がある。①は、立法や裁判などの諸決定間の整合性を追求し、法の一貫性を確保するために、「法の内的体系」、特に「私法の内的体系」を描き出すことを目的とする。わが国では民法学の泰斗である我妻栄や星野英一がこのテーマに取り組んだが「抽象的命題」と「個別事件における具体的価値判断」との架橋に失敗した。そこで本論文では、この問題につき蓄積のあるドイツ法圏の学説を参照して、この課題に取り組み、次の結論に達した。 「法の内的体系」の頂点には正義・法的安定性・合目的性という3つの法理念があり、法理念のすぐ下の原理層には、すべての法ルール・事態に作用する基底的法原則がある。そして、これらの法理念・基底的法原則は、不法行為法・契約法・不当利得法といった一定の法領域において、より具体化された法原理として現われることがある(価値のヒエラルヒア)。しかし他方で、法原理は衝突し合うことがあり、その調整が要請される(価値のコンフリクト)。そして、法原理をどのように調整したかは、法制度レベルでは基本思想として、法ルールレベルでは立法趣旨として示される。 次に、本研究課題の各論として、②「四宮不法行為法理論の内的体系」を執筆した(阪大法学74巻1号〔2024年5月〕に掲載予定)。②では、四宮和夫の不法行為法理論を取り上げ、それを「法の内的体系」のモデルの中に位置づけることを試みた。具体的には、不法行為法に関する四宮の全著作から法原理を抽出し、解釈に際して法原理が作用していることを示し、法原理がどのように衡量されているかを明らかにした。 その前提作業として、四宮理論の基礎にあるミュンツベルクの学説を詳細に紹介するとともに、刑事法学者の鈴木茂嗣による本質論・根拠論・認定論という議論の位相の区別を導入し、違法論を整理した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
すでに2本の論文を執筆しており、研究は順調に進展している。 「研究計画調書」では、本研究課題は、(a)裁判官は自らが望ましいと考える結論にどのようにして到達するか、(b)どのようにすれば抽象的価値と個別事件における具体的価値判断とを接合できるか、(c)その際、法原理はどのように機能するか、(d)その前提として、法原理にはどのような種類のものがあり、その各々はどのような機能を果たすか、を探究することを目的とすると述べていたが、このうち(b)(c)(d)については、【研究実績の概要】欄の①論文において、かなり明晰な説明ができたと考えている。 また、同じく「研究計画調書」において、動的体系論と原理理論による法原理の理解を踏まえた上で、日本における従来の具体的な解釈論(実作)を分析し、そこから汲み取るべきものと不足しているものを明らかにすることを予告していたが、②論文では、四宮不法行為法理論を分析した。そして、結論として、四宮が抽出した法原理は、ドイツ法圏のそれと比較して量的に遜色ないが、ドイツ法圏に比べ、制定法の評価が尊重されていないことを明らかにした。
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今後の研究の推進方策 |
本研究課題の総論として、現在、(1)生成文法(言語学)の方法論と法解釈方法論との比較、および、(2)フランス法学方法論の文献収集を行なっている。 (1)生成文法の方法論のうち、チョムスキーのGB理論(Government-Binding theory)は、普遍文法の諸原理とパラメータの値とを用いて、その相互作用の結果として個別文法(規則システム)の効果を導き出す。他方、法解釈方法論に関する動的体系論は、一定の法領域における法規範ないし法律効果を、複数の「要素」ないし「力」の協働作用の結果として説明し正当化しようとする構想である。両理論の類似性は明白であろう。生成文法の仮説のように、人間が普遍文法という言語機能を持って生まれてくるとすれば、それと同様に、法原理の少なくとも一部を持って生まれてくると考えることができるであろう。そうであるならば、法哲学においてしばしば行われる直観に訴える論法も、生物学的な基礎を持ちうるし、【現在までの進捗状況】で述べた(a)裁判官は自らが望ましいと考える結論にどのようにして到達するか、という問いに対して、生物学的な解答を用意できる可能性がある。「言語学は生物学である」ならば「法学も生物学である」と言えるかもしれず、脳科学の勉強もしてみたい。ただし、意図しているのは仮説の提示までで、実験による検証までは考えていない。 本研究課題の各論としては、(3)相続法の基本原理を探求する論文を執筆しているほか、それとの関連で、(4)財産権論に検討を加え、カール・マルクスの『資本論』などの研究をしている。また、日本における従来の具体的な解釈論(実作)の分析については、(5)星野英一の借地借家法論のほか、(6)磯村保・(7)山本敬三の法理論の検討を予定している。
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