研究課題/領域番号 |
23K01206
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分05070:新領域法学関連
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
郭 薇 北海道大学, 法学研究科, 准教授 (80733089)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2027-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,160千円 (直接経費: 3,200千円、間接経費: 960千円)
2026年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
2025年度: 1,170千円 (直接経費: 900千円、間接経費: 270千円)
2024年度: 1,170千円 (直接経費: 900千円、間接経費: 270千円)
2023年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
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キーワード | 法専門職 / 法情報 / 法社会学 / 職業社会学 / 情報提供 / 弁護士 / 認知資本主義 / 法情報学 / 法曹研究 / 公共圏論 / キャリア研究 / 言説分析 |
研究開始時の研究の概要 |
弁護士の活動は、メディアでの評価に影響されるのか。本研究は、弁護士による情報発信の効果を通じてこの問いを実証的に検討する。 先行研究では、弁護士が主導する商業広告とそれに関連する弁護士像が議論されたが、弁護士業務の多様化とソーシャルメディアの普及によって、弁護士自身の実践に作用する情報の受け手の力に注目する必要がある。本研究は言説分析とキャリア研究を融合させ、情報発信で得られる評判が弁護士自身の活動に与える影響を調査する。そこでは、情報の透明性が重視されるという現代社会の特徴を踏まえた上で、情報化による法専門職の変容とその影響力を解明し、裁判に依拠しない新たな「法の支配」の可能性が論じられる。
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研究実績の概要 |
今年度は主に法専門職における情報発信の位置付けについて理論的な検討を行った。得られた主な知見は、以下の通りに要約する。 ①職業社会学の議論に基づいて専門職と知識・情報との関係について学説の整理を行った。専門職主導の知識体系を評価する従来の自律型の専門職像に対して、1980年代以降に専門知識の特権性に対する批判が高まり、また商業化や職業の流動化とともに情報提供に対する専門職のコントロールが相対的に低下する可能性が指摘されている。 ②法社会学の研究により、法専門職による情報提供は単に法律知識の適用ではなく、受け手(相談者や依頼者)への配慮または常識的知識の活用を含むことが指摘される。また、法専門職の社会学研究から、法情報は自然科学の知識よりさまざまな領域のカバナンスに参照されることで高い拡散力を有する一方、法専門職のアイディンティティ維持を支える身分知の側面があることが示されている。 ③認知資本主義論を参照することで、法情報の積極的な公開または共有に関して、産業構造の変容によって一層求められる可能性を示唆できる。その場合、法情報の発信は思想や意見の表明に重点を置く言論活動というより、コンテンツの消費という側面が強くなる。法情報の内容が、学術研究に基づく体系化した知識から、円滑な活動のための工夫等の関係知への強調が見られている。加えて、近時日本の動向に照らして検討した結果、流通過程の評価を重視する情報観も一部確認された。 また、戦後法学を代表する川島武宜が1950年代の『婦人公論』に寄稿したテクストに関する分析を行い、情報流通で生じた評価を意識することは、社会評論を兼業している法学者の情報実践において以前から存在していることがわかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初設定した2023年度の研究目標は、「弁護士による情報発信のニーズや情報の受け手との関係を捉えるために、メディア・オーディエンス研究の成果を参照にしながら、国内外の専門職研究における情報発信や言論活動の位置付けを考察する諸研究を改めて整理し、本研究を遂行するための研究方法と研究範囲を精緻化する」ことである。法曹論に留まらず、職業社会学やコンテンツ産業論など隣接分野の知見を幅広く検討した結果、法専門職とオーディエンスとの相互作用が法情報の流通に果たす役割の可能性を提示することに成功した。活字化した成果は2024年度に公表する予定。 上記の検討から、今後の実証分析に対しては法情報を求める環境、そしてオーディエンスの実態とその関わり方に着目するという調査方針を明確化することができた。この調査方針の妥当性に対する検証も兼ねて、法学者である(弁護士経験も有する)川島武宜の女性誌における情報発信を事例分析の形で検討した。この分析を通して、権威性の高い法学者も社会一般向けの情報発信においてメディアまたはオーディエンスの事情を配慮しており、それが同法学者のその後の議論に一定の変化をもたらしたこと指摘できる。このような事例研究で得た知見や分析方法は、来年度の弁護士情報に関するメディア分析にも応用可能である
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今後の研究の推進方策 |
当初の計画通り、弁護士情報を専門に扱うナビサイトを調査し、一般的に評価されている弁護士コンテンツの特性とそれが弁護士個人・業界への波及効果について分析する。弁護士情報を専門に扱うナビサイトに注目する理由として、高質なコンテンツの自主制作・宣伝が多くの弁護士にとって時間的または能力的に簡単ではないため、多くの弁護士が専属のスタッフや組織に支える情報サイドをルーティン的に使っていることが挙げられる。ここでは、2012年に発足し現在日本の代表的な弁護士メディアである弁護士ドットコム・ニュースと、各地の弁護士会の公式サイトにおけるコンテンツの制作とそれの効果を分析対象とする。アクセス数あるいは転載数の多いコンテンツに絞って、発信のタイミング、記述や言語使用上の特徴、言及した法分野や人物の属性、そしてコメントの内容と評価者の判断基準と掛け合わせた言説分析を実施する。そして、対象記事に協力した弁護士に対するインタビューと弁護士会の広報イベントへの参与観察を行うことで、記事掲載の経緯とその後の活動に与えた影響を明らかにする。
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