研究課題/領域番号 |
23K01218
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分05070:新領域法学関連
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研究機関 | 愛知大学 |
研究代表者 |
小林 真紀 愛知大学, 法学部, 教授 (60350930)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2027-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
3,250千円 (直接経費: 2,500千円、間接経費: 750千円)
2026年度: 650千円 (直接経費: 500千円、間接経費: 150千円)
2025年度: 650千円 (直接経費: 500千円、間接経費: 150千円)
2024年度: 1,170千円 (直接経費: 900千円、間接経費: 270千円)
2023年度: 780千円 (直接経費: 600千円、間接経費: 180千円)
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キーワード | フランス生命倫理法 / 保健医療民主主義 / 意思決定過程への市民参加 / 意思重視主義 / 生殖補助医療 / 生命倫理法 / 患者の権利 / 持続可能性 / 参加 |
研究開始時の研究の概要 |
フランスの生命倫理法は、1994年の制定以降、科学医療技術の進歩に応じて改正を繰り返してきた。その結果、当初の原則の修正あるいは新たなルールの挿入がおこなわれるなど、結果的に「持続可能な」生命倫理法制が構築されてきた。他方で、フランスは、2002年以降、保健医療民主主義の概念を積極的に法分野に導入し、保健医療制度の利用者が能動的に制度構築に関わることができる体制を作り上げている。本研究はこれら2点に着目し、フランスにおける保健医療民主主義の概念の淵源を探り、生命倫理法との関係からその意義を考察することで、「持続可能な生命倫理法制」を構築する際に重要となる要素を明らかにしようとするものである。
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研究実績の概要 |
2023年度は、保健医療民主主義の観点から2021年フランス生命倫理改正法の分析を試み、そこから新たな生命倫理法制のあり方を探るべく研究をおこなった。1994年のフランス生命倫理法制定とその後の改正過程では、市民は制度の「利用者」として受動的に位置づけられ、これらの「利用者」がアクセスしうる医療技術とは何かという視点が重視されていた。換言すれば、法の適用対象となる市民は構築された制度の「利用者」としての受動的な地位を与えられていたにすぎない。これに対して、2021年法では、市民は、制度を構築する際の「当事者」としてより能動的にルール形成にかかわることが求められた。こうした制度の「利用者」から「当事者」への転換を説明しうる概念の一つが保健医療民主主義であるといえる。これは、同法の随所に当事者の「意思重視主義」がみられることからも明らかである。たとえば生殖補助医療の利用が、「親になる計画」すなわち、「親になりたいという意思」をもつ異性カップル、女性カップルあるいは単身女性に広く認められることになったことは、この概念の浸透を裏付ける顕著な例である。たしかに、こうした当事者の「意思重視主義」にも限界はある。とりわけ、当事者の意思にかかわらず、死後生殖や代理懐胎はフランスでは依然として禁止されている点には注意が必要であろう。したがって、21年法の射程に入るすべての生命倫理の分野において、保健医療民主主義の一形態としての「意思重視主義」が実現されているわけではない。しかし、近時トランスヒューマニズムの考え方が顕著になっていること等を踏まえると、次回の改正以降もこれらの禁止原則が必ずしも維持されるとは限らない。以上の分析から、次年度以降は、フランス型保健医療民主主義の別の側面、つまり意思決定過程への当事者(市民)参加の重要性とそのあり方を具体的に検討することが必要であると考えている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2023年度の研究成果については、まず、第35回日本生命倫理学会年次大会の公募シンポジウムとして採択された「進化する現代社会で生命倫理法が果たすべき役割とは何か-2021年フランス生命倫理法を題材に再考する―」のなかで発表する機会に恵まれた。また、その後、この報告内容をもとに原稿化し、「生命と倫理」11号に論文を掲載することができた。他方で、2023年度はフランスの研究者とも交流を深め、シンポジウムを開催したり、講演会で報告したりするなど、日本法との比較を基礎におきつつフランス生命倫理法の特徴を分析する機会を多く得た。したがって、全体として、研究は順調に進展していると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
2024年度は、当初の予定通り、フランス生命倫理法制の整備過程を通して、保健医療民主主義の概念が適用されたと考えられる事例を検討したい。具体的には、2021年の生命倫理法改正法が成立に至るまでの過程を検証し、とりわけ、公衆衛生法典L1412-1-1条に基づき設置された三部会が果たした役割と、三部会での議論が改正法に与えた影響について、2018年に国家倫理諮問委員会から公表された「生命倫理三部会に関する報告書」をもとに考察する。また、終末期医療法に関しても、2023年末から市民会議が開催され、その結果を踏まえて現在、新法がフランスの国会で審議中であることから、その制定過程の分析をすることで、保健医療民主主義の新たな側面を明らかにすることに努める。
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