研究課題/領域番号 |
23K01231
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分06010:政治学関連
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
嶋田 博子 京都大学, 公共政策連携研究部, 教授 (50859436)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,680千円 (直接経費: 3,600千円、間接経費: 1,080千円)
2025年度: 1,950千円 (直接経費: 1,500千円、間接経費: 450千円)
2024年度: 1,170千円 (直接経費: 900千円、間接経費: 270千円)
2023年度: 1,560千円 (直接経費: 1,200千円、間接経費: 360千円)
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キーワード | 官僚制 / 応答性 / Neo-Weberian State(NWS) / 公務員制度改革 / 民主的統制 / 政治主導 / 行為規範 / 資源の有限 / 資源の有限性 |
研究開始時の研究の概要 |
本研究は、「官僚制による万全の応答」という伝統的規範に代わるものとして、応答限界を根拠づける規範モデルの確立とそれに基づく行為基準の受容可能性を検討する。 専門知を持つ官僚制が国民の要求通りの結果を出せることは所与とされ、主要国では1980年代頃から私欲による逸脱防止に向けた動機づけの導入や政治的統制の強化が進められた。だが、改革の成果が挙がらず現場の疲弊が顕在化するにつれ、資源的制約と本質的役割の2面から応答限界の存在に着目する海外研究も表れている。 これら先行研究と日本の実態分析を基に、官僚制の応答限界を規範的に説明し、それをどのような具体的基準に発展させれば日本で納得が得られるかを考察する。
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研究実績の概要 |
2023年度の研究実績は、海外研究会での報告・意見交換、国内における応答限界に対する受容性把握の2分野に大別できる。 前者につき、EGPA(欧州行政学会)及びソウル大学主催ワークショップの両国際会議において、日本におけるNeo-Weberian State (NWS)モデルの適用可能性と具体化への課題について報告し、出席者から数多くの有益なフィードバックを受けた。また、3月にはW. Drechsler教授(タリン工科大学)を招聘して"From the NPM to the NWS"と題する公開セミナーを実施し、実務家を含む約20名の参加者を得て、新たな官僚制規範の受容可能性とその意義に関し意見交換を行った。現在、これらの成果に基づき、他大学研究者2名と共に日本の状況分析及び今後の見通しに関する共同論文を執筆中である。 後者につき、国民が官僚制から万全の応答を期待する背景を歴史的経緯を踏まえて分析した論文として「国家公務員の幹部供給源に関する変化」(日本労働研究雑誌10月号)「『国民の理解のもとに』-公務員制度改革とILO」(世界の労働76号)の2本を発表した。また、主要メディアからの依頼に応じ、中央公論5月号、世界9月号、日本経済新聞(10月2日経済教室)、Wedge2月号等において、「日本の官僚制に対する政治的要求は国際的に見ても過剰であり、資源利用の無駄や人材確保の困難をもたらしていること」「正当な応答限界を受容した上で、政策判断過程の日常的監視を確保することが国民の利益となること」の2点を柱とする寄稿を行うとともに、経済団体等での講演でこの内容を発信し、いずれも好意的な感触を得た。併せて、日本行政学会企画委員の立場から、2024年5月に日本学術会議と共催する共通論題Ⅰとして「公務員制度の変容-資源制約時代における応答要求への対応-」を提案し、準備を進めている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の柱として1.日本における応答実態の把握、2.海外研究者との意見交換を踏まえた規範モデル案の策定、3.先行事例の効果分析に基づく行為基準化と日本における受容可能性の検討の3つを掲げている。 「研究実績」で述べたように、2023年度は海外学会や主要メディアなどから様々な招聘や依頼を受けたため、2と3の面で予定したよりも早く具体的な成果を出すことができた。とりわけ2について、比較官僚制の分野で世界的に著名なG.Boucakert(ベルギー)、W.Drechsler(ドイツ・エストニア)、E.Ongaro(イタリア・英国)、S.Kuhlmann(ドイツ)、T.Im(韓国)各教授らと詳細な意見交換を行い、主要国と比較した日本の特徴を明確にする機会を得たことは、予定をはるかに超えた進展といえる。 また、3について、日本における応答限界の受容可能性の把握は主として最終年度に行うことを計画していたが、スタンスの異なる主要メディアや団体から寄稿・講演依頼が続いたため、予定よりも早く豊富なフィードバックが得られている。 一方、上記対応に多くの時間を要した結果、1で予定した官庁や自治体のヒアリング作業はアドホックなものにとどまった。しかしながら、海外研究者からのコメントやメディア寄稿・講演への反応によって研究の方向性や問いが明確となったことで、2024年度以降の国内のヒアリング作業もより効果的に行い得ると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
2024年度は、海外研究者との意見交換から得られた知見をさらに発展させ、NWSを中核とする新たな官僚制規範モデルの言語化に向けた作業を中心に進めることを想定している。 まず、NWSの日本への適用可能性とその課題に関し、2024年1月のソウル大学ワークショップでの議論を踏まえて縣公一郎早大教授、D.Vanoverbeke東大教授との共同論文を執筆し、T.Im、G.Bouckaertをはじめとする海外研究者からのフィードバックを得た上で、2024年秋に同大学紀要のNWS各国特集号への掲載を見込んでいる。 また、官僚制の行為規範の中核をなす「価値の問題」について、W.Bauer、G. Peters、 Jon Pierreらの"Democratic Backsliding and Public Administration: How Populists in Government Transform State Bureaucracy"(2021)を先行研究として、「ポピュリズム政権下における民主的価値の擁護機能」という視点から日本の官僚制を捉え直す作業に着手し、年報政治学2025年Ⅰ「官僚制とデモクラシー」特集への論文掲載に向けて国内研究会での報告や調査分析を進める予定である。 さらに、これらの成果を統合した官僚制規範とその受容可能性に関して、2025年秋のEGPA(グラスゴー開催)などで報告するとともに、海外の比較官僚制専門者を招聘したワークショップも検討したい。 やや遅れている国内の官庁・自治体関係者からのヒアリングについても、上記作業と調整しつつ、2024-25年度の間に進めていきたいと考えている。
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