研究課題/領域番号 |
23K01235
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分06010:政治学関連
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研究機関 | 名古屋市立大学 |
研究代表者 |
伊藤 恭彦 名古屋市立大学, 大学院人間文化研究科, 教授 (30223192)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
2,990千円 (直接経費: 2,300千円、間接経費: 690千円)
2025年度: 780千円 (直接経費: 600千円、間接経費: 180千円)
2024年度: 1,300千円 (直接経費: 1,000千円、間接経費: 300千円)
2023年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
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キーワード | 正義 / 分配的正義 / 空間正義 / 空間的排除 / 空間独占 / 権力の空間化 / 空間の権力化 / コスモポリス / 都市 / 公共政策 |
研究開始時の研究の概要 |
都市空間は個人が占有する空間だけでなく、広く人々が使う空間からも構成されている。空間のあり方は人々の暮らしや活動に大きな影響を与える。多様な人々が豊かな生活を歩むために空間をどのように配置したら公正なのだろうか。本研究は現代政治哲学の研究成果と地理学の研究成果を結びつけ、都市における公正な空間配置を導く規範を空間的正義として解明していく。次に解明した空間的正義規範を、都市計画などの都市公共政策を導く政策規範(政策の羅針盤)になるように抽象的な規範を応用していく。この研究は正義とは何かを新しい観点で学術的に解明するものであり、同時に豊かな都市生活づくりの指針をつくる社会的意義ももっている。
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研究実績の概要 |
研究期間の1年目にあたる2023年度では、分配的正義に関する内外の研究の到達点を確認し、その上で、都市地理学、都市社会学、都市政治学で研究が進展している空間正義の概念についての理論的整理を行った。まず空間の正義が問われる現実的な状況として、特定の個人や集団をある空間から排除することがあることを確認した。これは「空間的排除」と呼ぶことができる空間的不正義である。空間的不正義は民族差別として歴史的には現れたが、現代では商品化された空間を特定の人や集団が独占することによっても発生している。こうした空間的排除を是正することは正義の課題であると言える。 空間的排除に対して個人に空間を「分配する」ことによって解決するという分配的正義によるアプローチも可能のように考えられるが、空間は権利や財のように個人に全て帰属するものではないし、全ての空間が所有の対象でもない。私的に所有される空間は確かに分配の対象と言えるかもしれないが、空間は所有ではなく、占有、利用、一時通過といった形態でも個人に裨益する。多くの空間がいわば集合的利用の対象となっており、このことは個人に対して特定の財を分配するという分配ロジックとして空間問題を検討することには限界があることを示している。 したがって、空間に関わる正義は個々人が生きる上での外的条件であり、この条件を集合的にコントロールすることが正義の課題となるとの暫定的な仮説を獲得した。この仮説をもとに空間正義の規範内容を明らかにしていきたい。 空間正義問題を都市論に結びつけて研究を進めることも課題としているが、2023年度は西洋政治思想史上の都市理念としてのコスモポリスを古代政治思想と現代コスモポリタンの研究から導き出し、論文(書籍の1章)として公刊した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の第一の課題は、空間的正義と分配的正義の規範的関係に関する哲学的解明である。正義規範はアリストテレス以降伝統的に分配、交換、匡正という規範から構成されると理解されてきたが、必ずしも分配や交換になじまない「空間」はこの伝統の中に収まるのかどうかを正義論史のふりかえりと、現代の代表的な分配的正義論(例えばジョン・ロールズの正義論)の再検討を通して明らかにすることにあり、研究1年目で集中的に行う計画であった。 2023年度は空間正義に関する文献資料を着実に入手し、読解を進めた。その結果、空間正義は個々人が生きる上での外的条件であり、個々人に財を分配するというロジックとは異なる規範であり、この外的条件を集合的にコントロールすることが正義の課題となるとの暫定的な仮説を獲得した点で一定の理論的成果を得たと評価している。 また都市理念の思想的源流を古代ローマのコスモポリスに求め、その現代的意義を確認できた点でも研究の進捗をみたと評価している。
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今後の研究の推進方策 |
2024年度以降の研究でまず着手するのは「空間的正義」の規範内容の検討である。「空間的正義」は人間にとって公正な空間とは何か、空間配置の公正さとは何かを計る規範であると考えられるが、その具体的な規範内容を明らかにする。この課題を遂行するためには、一方で人文地理学において膨大な研究が蓄積されている空間論(イーフー・トゥアンやエドワード・レルフの空間論など)、都市研究におけるランドスケープ論や街並み論などを吸収しながら、人間にとって必要な空間の量や質を理論的に確定していく作業が必要である。その際、空間を単なる物理的な「容器」としてだけ理解するのではなく、人文地理学の知見である「生きられる空間」「場所」といった概念にも十分に配慮する。他方で政治哲学が分配を通して実現すべき人間の状態(自由、機会、自己実現、自尊など)にとって空間がいかなる意義をもつのかを明らかにする現代政治哲学の側からの空間へのアプローチも必要となる。空間論と政治哲学の議論を交錯させ、「空間的正義」の規範内容を明らかにするのが2024年度の課題である。 2023年度に行った理論的研究がほぼ予定通り進捗したので、その成果をもとに空間正義の規範内容を明らかにする研究を着実に進める予定である。
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