研究課題/領域番号 |
23K01247
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分06010:政治学関連
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研究機関 | 国際日本文化研究センター |
研究代表者 |
瀧井 一博 国際日本文化研究センター, 研究部, 教授 (80273514)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2027-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
3,510千円 (直接経費: 2,700千円、間接経費: 810千円)
2026年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
2025年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
2024年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
2023年度: 780千円 (直接経費: 600千円、間接経費: 180千円)
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キーワード | 知識交換 / 大久保利通 / 内務省 / 内国勧業博覧会 / 政治史 / 国制史 / 知識社会史 |
研究開始時の研究の概要 |
本研究は、明治維新期の政治的社会的変革を「知識革命」として把握する視座を提唱し、その妥当性を論証することによって、明治国家の史的構造を問い直すものである。最近の思想史や政治史の研究を通じて、明治維新が決して江戸後期社会との歴史的断絶ではなく、むしろそれとの連続性のうえに成立したことに注意が向けられている。すなわち、明治維新後の日本社会が突然変異的に西洋の学芸や技術を受容したというのではなく、幕末からの知的活動の活性化と爛熟という前提があり、それに立脚して明治期の社会的再編成がなされたとの認識である。このような歴史像を実証化し理論化することを通じて、知識社会史と国制史の架橋を目指す。
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研究実績の概要 |
本研究は、明治維新期の政治的社会的変革を「知識革命」として把握する視座を探求し、明治国家の制度的構造を組織内在的かつ比較国制論的に問い直すことを目標としている。最近の研究動向として、明治維新が決して江戸後期社会との歴史的断絶を伴って勃発したのではなく、むしろそれとの連続性のうえに成立したことに注意が向けられている。福沢諭吉が「門閥制度は親の敵」と述べて、旧幕時代の身分制的桎梏の打破を唱えていたことはよく知られているが、その福沢は江戸期社会における知を求める人々の自由な交流の存在を指摘し、それが維新変革のエネルギーとなったことに注意を促している。そして、かつては藩というものが、知識集積のセクターとなっていたが、明治期に廃藩となった結果、その代替物が求められていると見なした。福沢の場合、その代替物となったのが、交詢社のような民間の自由な結社であったが、同じ問題意識は政府指導者においても共有されており、大久保利通による内務省の創設や内国勧業博覧会の開催、また伊藤博文による帝国大学の創建や立憲政友会の結成はナショナルなレベルでの知の還流を企図したものと見なすことも可能である。本研究は「知識革命としての明治維新」をテーマとしているが、その革命とは決して突然変異的に生起した激変ではなく、幕末からの知的活動の活性化と爛熟という前提があったうえで、明治期の近代化が可能となり、また知を通じての社会の再編成がなされたと考えられる。この点の論証のために、知識の社会的効用に関する内外の文献を収集し、その理論化のための準備作業を行った。あわせて、明治期以降の産業振興の実態について調査するために、門司や鹿児島などいくつかの地域のフィールドワークを行い、知識受容とその活用による殖産興業の実践例を調査した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の成果として、大久保利通の政治指導を通じて、「知識交換」に立脚した国家構想を抽出する論文を2編発表することができた。苅部直, 瀧井一博, 梅田百合香編著『宗教・抗争・政治 : 主権国家の始原と現在』(千倉書房、2023年12月)所収の「知識としての国家―大久保利通の国家像」では、大久保が日本というナショナルなレベルで人と人と結び合わせ、それによって知識の交換を促進させるというかたちでの国民国家の樹立を遠望していたことを考察した。また、清沢洌『外政家としての大久保利通』(ちくま学芸文庫、2023年10月)に依頼のうえ寄稿した解説論文「政治家としての大久保利通」においては、そのような糾合的国民国家を造出するにあたっての外的条件を整備するために不可欠だった征韓論や台湾出兵の処理を行った大久保の政治指導を考察した。これらの論文を通じて、内政と外政の両面から大久保の国家構想を再構成することができ、知識と国家形成の理論化のための有益な歴史的実例を検証することができた。
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今後の研究の推進方策 |
今後は幕末から明治初年に遡行し、その時期の政治過程の再検証を通じて、知識革命の流れがメインストリームとなっていくプロセスを考察する。特に着目したいのは、当時観念されていた「皇国」概念の内実であり、その実現として意識されていた「神武創業」理念の帰趨である。これらのコンセプトには、国学に立脚した祭政一致思想の隆盛が指摘され得るが、実際の政局のなかでは、聖俗分離の世俗的国家の形成が選び取られた。その過程を再検討し、祭政一致の神権国家化とは違う路線が選択された要因としての「知識交換」の理念が果たした役割を究明し、知識革命として明治維新を把握する視座の有効性を論証することに努める。
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