研究課題/領域番号 |
23K01249
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分06010:政治学関連
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研究機関 | 東京外国語大学 |
研究代表者 |
若松 邦弘 東京外国語大学, 大学院総合国際学研究院, 教授 (90302835)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2027-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,680千円 (直接経費: 3,600千円、間接経費: 1,080千円)
2026年度: 390千円 (直接経費: 300千円、間接経費: 90千円)
2025年度: 1,300千円 (直接経費: 1,000千円、間接経費: 300千円)
2024年度: 1,300千円 (直接経費: 1,000千円、間接経費: 300千円)
2023年度: 1,690千円 (直接経費: 1,300千円、間接経費: 390千円)
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キーワード | 政治学 / 政治史 / イギリス政治 |
研究開始時の研究の概要 |
本研究は「文化的巻き返し」と描写される政党支持の再編成メカニズムを、イギリスについて農村の政治に着目して明らかにする。近年の研究は、経済より社会文化的価値 (保守/リベラル) が有権者の政治選択で重視される状況を指摘する。一方で、この後者の要素がどのようにして優位に立つに至ったかという過程は、経路依存性もあり、解明が進んでいない。本研究は、イギリスで国政の対立図式が、都市の階級政治を投射したものから農村に起因するものに書き換えられつつあることを確認する。農村には工業化以前の、階級を欠く政治がある。その図式が国政に反映される過程を農村政治の多角的な分析から明らかにし、新たな対立図式の起源を探る。
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研究実績の概要 |
本研究は、先進民主主義の政治でマクロ的、静態的に示される「文化的巻き返し」について、その生起の過程をイギリス政治の変容を通じ動態として検討するものである。具体的には、イギリスで20世紀の主流であった階級政治を揺るがすに至った政党間競争の変容メカニズムを明らかにする。そこでは、階級が他のクリービッジを隠していた局面に替わり、それ以前の政治に一部起源をもつ区分が表出する局面に入ったことが確認される。 課題では、国政の対立図式の変容を理解するにあたり、ローカルレベルの政治動態に着目した。従来国政に影響を与えてきた都市の政治と異なる、農村の政治を重視するためである。これは同時に、政治の構図を工業化以前にさかのぼって検討することになる。 2023年度は農村での政治的摩擦の詳細を検討し、イシューの特徴やアクターの性格の把握を試みた。農村では地域社会の経済社会的な疲弊が2000年代に入っての主要争点であった。一方、直近では、タウン近郊の緑地開発(住宅、道路、鉄道)への反対が目立つようになった。こうした変容は、政党としてのグリーンの伸長に投影されている。イギリスのグリーンは地球環境を重視するエコロジストの性格を特徴としていたが、2020年代に入ると農村地帯で主要政党に対する批判票の受け皿となりつつあり、エコロジストの性格を薄めている。これは、自民党という受け皿のある西方より、政党支持が流動的な東方に顕著である。こうした農村の不満票は必ずしも(保守に対する)リベラルなものでなく、かつてのUKIP支持とも出入りがある。選挙区の票移動分析では、一般に「右派」とされてきたUKIPから同様に「左派」とされてきたグリーンへの有権者の移動を確認できる。この点からもイギリス政治における対立軸の変化を確認できる。農村部の摩擦は、階級を意識した都市の政治と異なり、中間層の分岐のなかで生じている可能性が高い。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
初年度の本年は、過去の地方議会選挙の傾向、特徴的な選挙区の動向を、社会統計と各年の選挙資料によって検証した。 選挙区のマクロデータとして、対象自治体の社会経済的特徴(人口構成、経済社会状況、産業構造、交通状況など)、ならびに地方議会選挙の傾向と特徴的な選挙区の動向を、社会統計と各年の選挙資料を、各自治体や関係省庁、自治体関連機関(自治体協会など)の関係情報にあたり収集、分析した。 また、注目される特定地域について質的データの収集と分析を進めている。ここ数年の選挙では、2021年、2022年、2023年の地方議会選、そして同時期に数多く実施された下院補選が、2019年をピークとする保守党支持の衰退を顕著に示すものとなり、その支持の急激な崩壊を叙述する報道資料が、選挙ごとにさまざまな媒体において量産された。それらのオンラインで収集しえた資料によって、イギリスにおける政党支持変化の地域性に関する外形的な様相と、それを具体的に示す注目すべきエピソードをいくらか確認することができた。そこからの洞察は、本課題以前に収集してきた資料に基づく代表者の分析からの推論と照合できるものも少なくなかった。本年度は、ここ数年のコロナ期からのスケジュールのしわ寄せがあり、本課題についての現地調査を年度内に行うことはできなかったが、そうした資料により、本課題に関わる洞察を相応に進めることができた。
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今後の研究の推進方策 |
第二年度の分析では、ローカルの過程がいかにして国政に展開するかとの観点から、ローカルの政治と国政をつなぐリンクに注目し、その多様性について類型化を意識しながら分析する。国政の新興政党には、メディア露出によるいわば「空中戦」により、地方議会でも議席を獲得する事例は少なくない。2010年代前半のUKIPがそうである。しかし、そのような勢力には、草の根の地盤を構築できず、地方議会であっても議席獲得は一過性の現象となることも少なくない。一方で、地方議会で活発な活動を示す諸派・無所属には、草の根の固い組織をもつ例も頻繁にみられる。それらの存在はローカルの争点に起因しており、とくに農村部では、19世紀以来の歴史をもつレイトペイヤーという存在を無視できない。当初の反税運動から、一方で反労働者・反労働党の性格を強め、他方で都市からの移入者による資産価値の維持運動も分岐した。そうしたローカルの組織は、自ら国政に浸透的に進出する場合(グリーンなど)もあれば、国政の新興勢力と相互補完的に活動する場合(UKIPとローカルな保守系諸派)もある。各種団体や小政党の顕著な活動履歴を、議会選挙区単位の質的データとして、各種のローカル資料(モノグラフ、地域史、コミュニティ資料、新聞)を収集、分析することで、農村に活動するローカルな主体が国政への関与を強める過程を明らかにする。 続く年度には農村における地域社会の自己意識に着目する。社会文化的な対立軸の起源を考える上で不可欠な要素である。観光資料や芸術、文芸の表象から農村の自画像をすくい上げ、それが社会的な保守/リベラルの二項対立をいかに意識させるものであるかを明らかにする。
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