研究課題/領域番号 |
23K01261
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分06010:政治学関連
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研究機関 | 日本大学 |
研究代表者 |
信夫 隆司 日本大学, 法学部, 研究員 (00196411)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2027-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
3,120千円 (直接経費: 2,400千円、間接経費: 720千円)
2026年度: 520千円 (直接経費: 400千円、間接経費: 120千円)
2025年度: 1,040千円 (直接経費: 800千円、間接経費: 240千円)
2024年度: 1,040千円 (直接経費: 800千円、間接経費: 240千円)
2023年度: 520千円 (直接経費: 400千円、間接経費: 120千円)
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キーワード | 日米行政協定 / 日米地位協定 / 民事請求権 / 被害者補償 / 米兵犯罪 |
研究開始時の研究の概要 |
本研究は、日米地位協定の民事請求権条項の問題点、および、被害の実態を明らかにし、他国の例も参照しながら、民事請求権条項の改正を含め、被害者救済のための改善策を提示する。 そのため、日米地位協定における民事請求権条項の意味、米兵の「公務上」の不法行為に対する被害者救済策、米兵の「公務外」の不法行為に対する被害者救済策、他国における民事請求権問題の解決方法を明らかにする。
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研究実績の概要 |
令和5年度の研究実績として以下の三つがある。 ひとつは、10月下旬、山口県岩国市に出張し、米海兵隊員による事件の被害者の方への聞き取りを行ったことである。この事件は、2022年12月、米軍岩国基地所属の海兵隊員の男(事件当時20歳)が、岩国市内の自動車販売店で車を盗み、酒に酔った状態で車を運転した結果、乗用車に衝突して2人にけがを負わせたというものである。このうち、車を盗まれた自動車販売店の方から事件の状況、その後の損害賠償の経緯についてお話しをうかがった。この事件は、米兵による公務外の犯罪のため、米側の支払はあくまでも任意に過ぎない。被害者の方への聞き取りから、被害者が十分な補償を得ることができない実態が、あらためて浮き彫りになった。 二つ目は、「日米行政協定第18条(民事請求権)改定交渉資料集」というワーキング・ペーパーを作成したことである。このペーパーは、現行の日米地位協定の前身である日米行政協定第18条の改定にあたって、民事請求権を中心に、どのような問題点があったのかを日米の一次資料を中心に整理したものである。このような作業を行った理由は、日米地位協定第18条について、交渉経緯が明確に分かる文献が存在しないからである。本ペーパーの趣旨は、民事請求権の改正を理解するのに必要な一次資料を収集し、体系化することであった。 三つ目として、「日米安保条約の改定交渉における核持ち込みのフォーミュラ(事前協議)に関する資料集」を作成したことである。このペーパーは、前記の民事請求権に関する資料集を作成する過程で、調査対象となる文書が重なるため、核持ち込み密約を中心にあらためて日米の一次資料を整理したものである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
令和5年度は、研究計画遂行の初年度にあたり、主にこれまで収集してきた文書の整理にあたっただけでなく、可能な限り米兵による被害状況を明らかにし、被害者から聞き取りをおこなうことを重視した。既に「研究実績の概要」に記したごとく、山口県岩国市で起きた米海兵隊員による住居侵入、器物損壊、自動車の窃盗事件について、被害者の方から犯行当時のビデオを閲覧させていただき、また、米兵に対する損害賠償を請求するむずかしさについてお話しをうかがうことができた。 この事件は、米兵による公務外での犯罪による賠償の問題に関連する。米兵の公務外の行為に対する損害賠償にあたっては、日本側が賠償額を査定はするものの、この査定に拘束力はない。米側は任意で賠償を行うか否か、行う場合には賠償額をいくらにするかを決定することができる。この種の米兵による犯罪の場合、米側による賠償額がきわめて低いのが一般的である。この事件でも被害者側の請求額と米側が提示した支払額との間には大きな開きがあった。 この問題については、被害者側がSACO見舞金制度に基づき、差額を日本政府が支払うよう裁判所に訴える制度も存在する。しかし、裁判所に提訴すること自体、被害者側にとって解決まで要する時間や経費を考えれば、必ずしも現実的な解決策ではないことが明らかとなった。 被害者の方への聞き取りとは別に、民事請求権の規定(日米地位協定第18条)の意味を明らかにするため、1958年から60年にかけて行われた日米安保条約の改定、それにともなう日米行政協定の改正の経緯に関する日米の一次資料を整理することができた。今後、この整理に基づき、論文を作成する予定である。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究の推進方策としは、以下の二つがある。 ひとつは、令和5年度におこなった山口県岩国市での被害者の方への聞き取りのように、米兵の不法行為によって被害を受けた方の賠償請求の実態を解明していきたいと考えている。その候補としていくつかあるが、その中で、1977年9月に横浜で起きたファントム機墜落事件の損害賠償請求権問題を取り上げたい。 これを取り上げる理由は、この事件が米兵による公務上の不法行為であることから、被害者が日本政府を相手に裁判所に損害賠償の請求をした初めての事件であることがある。米兵の公務上の不法行為による損害賠償事件のほとんどは、示談によって解決される。その結果、被害者は低い賠償額に甘んじなければならず、泣き寝入りを迫られる場合もある。また、示談の場合、被害の実態、損害賠償の額等が公にされることはないため、米側の責任の追及もうやむやになってしまいがちである。米側の責任に関しては、裁判上での損害賠償請求においてもなかなか解明されない問題がある。そこで、このファントム機墜落事件を対象として、損害賠償請求の実態を解明することを課題のひとつとしたい。 次に、令和5年度の研究実績で述べたように、安保条約改定時の行政協定第18条の改正経緯に関する資料集を作成したことから、この資料集を基に論文を作成することとしたい。特に、請求権放棄の対象はだれなのか、米兵による第三者に対する加害行為の場合、公務・非公務の決定を誰がおこなうのかといった問題を中心に分析する。 それと同時に、米国立公文書館において、民事請求権(地位協定第18条)に関する資料を収集し、米側から見たこの問題の論点について分析をおこないたい。
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