研究課題/領域番号 |
23K01305
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分07010:理論経済学関連
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研究機関 | 政策研究大学院大学 |
研究代表者 |
林 文夫 政策研究大学院大学, 政策研究科, 名誉教授 (80159095)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
1,950千円 (直接経費: 1,500千円、間接経費: 450千円)
2025年度: 650千円 (直接経費: 500千円、間接経費: 150千円)
2024年度: 780千円 (直接経費: 600千円、間接経費: 180千円)
2023年度: 520千円 (直接経費: 400千円、間接経費: 120千円)
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キーワード | 日本経済の長期停滞 / 人口の高齢化 / 中国のGDP / 日本経済の停滞 |
研究開始時の研究の概要 |
本研究では、1990年以降の日本の長期停滞の根本原因を特定するとともに、2020年以降の長期成長率の予測を行う。この作業を、成長率の国際比較の観点から行う。本研究から得られると予想される結論は、(1)長期停滞は日本に限ったことでなく、人口高齢化の負の効果による普遍的な現象であること、(2)急速な高齢化が今後も続けば、日本や中国を含む東アジアの各国でGDPは停滞すること、である。
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研究実績の概要 |
昨年提出した交付申請書では、次の作業をするとしていた。(a)データの整備、(b)理論モデルの開発、(c)成長方程式の推定、(d)2020年から2050年までの各国の成長率の予測。このうち、(a)については、標準的なデータ元から得られる基本的なデータ(各国のGDP成長率と人口の年齢構成)の整備のみ行った。(b)の作業は完成した。(c)と(d)については、ひとまずこの基本データを用いた作業を完成した。 より具体的には、(b)については、二つの理論モデルの構築を終えた。その一つは、標準的な内生成長モデルに重複多世代(Overlapping Generations)を導入することにより、年齢構成が成長率に影響するモデルを構築した。もう一つのモデルは、小国の開放経済モデルであるが、小国それぞれが直面する利子率は、その国に特有の値をとるという仮定を設けた。どちらのモデルからも、一人当たりGDP成長率が、初期の一人当たりGDPばかりでなく年齢構成にも依存する、という成長方程式を導くことができた。(c)では、この成長方程式を基本的なデータセットを用いて推定した。(d)では、(c)で得られた推定値を用いて、世界主要国の2050年のGDPの予測を行った。基本データでは、2020年における米国と中国のGDPは拮抗している。2020年から2050年の成長率を予測することにより2050年のGDPが予測できるが、中国の2050年のGDPは米国の同年のGDPより、たかだか15%高くなるだけという結果がでた。その理由は、中国の人口高齢化が米国より急速に進むことによる。 なお、交付申請書では実施するとは述べなかったが、既存研究のサーベイも行った。その過程で、年齢構成の定義について、平均余命により補正する方法があるのを知った。その補正済みの年齢構成を用いた成長方程式の推定も行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
上で述べたように、交付申請書で述べた作業(a)-(d)のうち(b)-(d)は完了したにもかかわらず、「当初の計画以上に進展している」ではなく「概ね順調に進展している」とした理由は次の三つである。 (1) 基本データの作成は終わったが、交付申請書では、さらに、各国の年齢別労働力参加率と(できれば年齢別の)教育程度と国全体のTFP(全要素生産性)のデータが得られないかを検討するとしていた。しかし研究発表を通じて得られたコメントや既存文献を見ると、労働力参加率は、成長モデルでは内生変数で成長率の根本的な決定要因ではないという見解が支配的なので、労働力参加率のデータ収集は中止した。教育程度については、それを内生変数と見るべきかについては学会の意見が分かれる。学会の合意を見極めるまで、教育程度のデータ収集は、当面は見合わせる。国別のTFPのデータについては、OECD諸国(の大部分)について、複数の推計がある。そのそれぞれについての推計方法の妥当性の吟味はまだ終わっていない。 (2) たとえOECD諸国についてだけにせよ、学術研究に耐えうる国際比較可能なTFPのデータが存在すると判断した場合は、TFPについての成長方程式の推定と2050年のGDP予測を行うことになる。この作業が難航するとは予想していない。これに対し、教育程度を成長方程式に取り入れることになれば、人的資本を含む理論の構築から始めなくてはならない。ただ、もう少し既存研究を読み込まなくては、人的資本を考慮するべきかどうかの見極めはできない。 (3) 基本データから判明したことだが、いわゆる後進国は、年齢構成が若いにもかかわらず一人当たりGDP成長率は先進国と同程度か、むしろやや低い。このような明確な二極分解のため、成長方程式の推定では、サンプルから後進国は除外している。このサンプル選択の正当化が必要と感じている。
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今後の研究の推進方策 |
上記「現在までの進捗状況」で述べた課題の解消と交付申請書で約束した作業でやり残したことを、今年度と来年度で完了することを目指す。より具体的にそれらを以下に述べる。 (1) 教育投資で測られる人的資本の扱いの吟味。まず、既存文献をより広く深く読み込むことにより、成長方程式に人的資本を取り込むべきか、そして取り込むべきということになれば、年齢構成と物的資本ばかりでなく人的資本を含む成長理論の構築と、そこから成長方程式を導出する作業が必要になる。現在時点では、人的資本は捨象することを想定している。 (2) 国際比較可能なTFPについての複数の推計の吟味。これは時間の問題で、今年度で完了することを目指す。 (3)「現在までの進捗状況」で述べた、いわゆる先進国と後進国の明確な二極分解(後進国は年齢構成が若いにもかかわらず成長率は先進国と同じかやや劣る現象)の説明。二極分解は、Rostow以来の、後進国から先進国への「飛躍(take-off)」についての膨大な文献と関連がある。その文献の複数の論文では、初期条件の微小な違いが長期均衡に大きく影響するという複数均衡モデルが提示されているが、年齢構成との関連は検討されていない。さらに付け加えるべきことは、二極分解には重要な例外があることである。すなわち、Asian Tigersと呼ばれる国(韓国、台湾、香港、シンガポール)と近年の中国は、年齢構成が若い時期に先進国よりも高い成長を遂げている。本研究の成長方程式の推定は、先進国とこれらの東アジア諸国のみからなるサンプルで行っている。このサンプル選択を正当化ができるような理論的な先行研究がないか検討する。 (4) 交付申請書で述べた作業の一つに、日本の県別データを用いた成長方程式の推定がある。これについては、データの整備は終わったので、今年度中にその作業を終えることを目指す。
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