研究課題/領域番号 |
23K01330
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分07020:経済学説および経済思想関連
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研究機関 | 大月短期大学 |
研究代表者 |
伊藤 誠一郎 大月短期大学, 経済科, 教授(移行) (20255582)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2027-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,810千円 (直接経費: 3,700千円、間接経費: 1,110千円)
2026年度: 1,170千円 (直接経費: 900千円、間接経費: 270千円)
2025年度: 1,170千円 (直接経費: 900千円、間接経費: 270千円)
2024年度: 1,170千円 (直接経費: 900千円、間接経費: 270千円)
2023年度: 1,300千円 (直接経費: 1,000千円、間接経費: 300千円)
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キーワード | 初期近代 / イギリス / 銀行 / 道徳性 |
研究開始時の研究の概要 |
名誉革命期直後の土地銀行論争、チャールズ・ダヴナント、ジョン・ロー、ジェームス・スチュアート、アダム・スミス、そしてその狭間を埋める無数の刊行物や手稿による、一世紀にわたる銀行などの制度的信用をめぐる議論が、貴金属という制限から解き放れた信用の発行ための仕組みの確立と、その失敗の歴史を反映するものだっただけではなく、そもそも最初から失敗は想定されたものであり、それを防ぐためにはどのような制度を構築していったらいいかという議論の歴史であったことを徹底した一次資料の調査から示す。
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研究実績の概要 |
日本金融学会の歴史部会での報告の依頼をうけ、この機会に、本研究と現代の金融理論との関連を改めて考えることとし前年度より準備を進めていた内容を、「最近の初期近代イギリス金融史研究からの理論への問いかけ」というタイトルのもと、4月に報告した。ここでは、昨今の内生的貨幣理論があくまでも銀行ありきの発想になっているが、銀行の利用がまだ広くなされていない初期近代イギリスや、現在において地域通貨、暗号資産など銀行を介さない金融が広範にみられる状況を考えると、金融の本質をconfidenceと捉え、より概念的に広く考えなければ十分な説明ができないことを述べた。こうした現代の理論とのつながりを考える中で、本研究の今後の進め方という点でも、その意義を再考する貴重な機会となった。 また、これも前年度から準備をしていた、ジョン・ローの、とくに初期の著作の内容を検討した。それまでの銀行をめぐるイギリスの初期近代の諸議論においてと同様、金融システムそのものの安定性が最も求められるものと考えられ、そのためにどのような形での保証が望ましいかが議論されていたことを、当時のロー以外の論者との論争史の中から描き出し、これをヨーロッパ経済思想史学会で6月に、'John Law's idea of bank and his contemporaries''として報告した。 その後は、翌年度のヨーロッパ思想史学会での報告のための原稿に必要な資料を、ロンドンの図書館や資料館で収集し、それをもとに原稿作成をすすめた。内容としては、1720年のイギリスとフランスにおける古典的な金融バブルの崩壊の前後において、その戦犯としてしばしば否定的に描かれてきたジョン・ローが、同時代にはどのように評価されていたのかという視点から調査を進めた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
17世紀末の土地銀行論争からアダム・スミスまでのイギリスにおける銀行をめぐる諸議論についての研究を本研究の前から進め、そのなかで重要ではあるが十分に検討できていなかったジョン・ローの貨幣・信用論、そしてそれをめぐる当時の諸議論の研究を本研究ではまず進めてきた。また、日本金融学会歴史部会からの報告依頼をきっかけに、あくまでも歴史、思想史としての本研究が、金融理論の視点からどのように位置づけられるのかを確認することができ、本研究の今後の進め方の再考の機会となった。これまでは、本研究をあくまでも歴史、思想史という視点から位置づけていたし、そのことに変更はないが、その歴史研究が、今日の理論研究に対しても新たな視点、つまり銀行以外の信用創造、決済機能の可能性を、より一般的なレベルで考える必要性を提示できることを見出し、今後本研究の一部として、またその延長として理論への提言としての論考を作成することができるのではないかと考え始めている。またこれまでの学会報告原稿などで実質的な準備も進めてきている。 他方では、2024年度のヨーロッパでの経済思想史学会での報告に向け、ローに対する当時の論者の評価の調査を2023年度に進め、これまで言われてきた、バブル崩壊の戦犯としてのローではなく、理論としては正しいことを言っていた論者として高く評価する論考をすくなからず見出され、当時、銀行、そして広く金融というものに何が求められていたかが徐々に明確になってきた。 また、今後の本研究の目標としては、スミスやステュアートが参照した、Micholas Magens のThe Universal Merchant (1753)についての調査、その他、ローとスミスの間の時期の諸論考についても調査をすすめなければならないが、これについてはほとんど着手できていないので、それが今後の主たる課題となる。
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今後の研究の推進方策 |
上記の現在までの進捗状況の説明の中でも書いたように、スミスやステュアートが参照した、Micholas Magens のThe Universal Merchant (1753)や、ローとステュアート、スミスの間の期間に書かれた諸論考についても調査をすすめていくが、そこではこれまでの私自身の研究も踏まえて、2つの線で見ていく。 まずMagensの議論は、スミスもステュアートもいずれもアムステルダム銀行の運営を評価する中で参照しており、そうした視点から整理する。他でもアムステルダム銀行は、17世紀以降、健全な銀行経営の手本として参照され続けてきたが、その詳細な内容をMagens、その他の資料に基づいて議論の展開を追う。その際、イギリスの図書館、資料館にて資料を開拓する。 次に、ジョン・ローをめぐる議論を、2024年度のヨーロッパ経済思想史学会での報告で扱う1720年前後以降の資料を収集し、調査していく。ステュアートもスミスもそれぞれローのプロジェクトの失敗は十分に意識し言及しているので、これらの議論を1つの目標とし、それまでの諸議論ではどういうことが論点になっていたのかを調べていく。2024年度の学会報告では、ローの貨幣論自体は同時代人には批判されるどころか、むしろ高く評価されていることを明らかにするが、その後、ステュアートやスミスにいたるまで、そうした論調がどのように変転していったのかも調査の際の中心となる視点である。 これらの議論は、順次学会報告原稿としてまとめ、ヨーロッパ経済思想史学会やオーストラリア経済思想史学会などでの報告を目指す。また、並行して、こうした歴史、思想史的研究の金融理論に対する意義についても研究を進め、何らかの形で公表に向け原稿としてまとめていく。もう一つ、本研究の主たる目標のひとつでもある英語での著作のためのブックプロポーザルの作成も徐々に始める。
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