研究課題/領域番号 |
23K01371
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分07040:経済政策関連
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研究機関 | 一橋大学 |
研究代表者 |
黒崎 卓 一橋大学, 経済研究所, 教授 (90293159)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,680千円 (直接経費: 3,600千円、間接経費: 1,080千円)
2025年度: 520千円 (直接経費: 400千円、間接経費: 120千円)
2024年度: 260千円 (直接経費: 200千円、間接経費: 60千円)
2023年度: 3,900千円 (直接経費: 3,000千円、間接経費: 900千円)
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キーワード | 発育不全 / 母子保健 / パキスタン / ランダム化比較実験 / ナッジ |
研究開始時の研究の概要 |
幼児の健康問題とりわけ発育不全が深刻な、パキスタン農村部低所得世帯を対象に、この問題を改善するために有効な政策とはどのようなものであるかを、実証的に明らかにする。保健婦による毎月の母子訪問という手間がかかるが一定の効果が確認されている政策が、携帯電話によって母親に毎月子どもの健康についての意識をリマインドさせる簡易法によってどの程度置き換えられるか検討する。これらの効果が、世帯の所得水準や母親の教育水準、地域の共同行動経験の多寡によってどう異なるかについても分析する。これらを通じて、介入政策が機能するためのミクロ経済学的メカニズムについて示唆を得る。
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研究実績の概要 |
本研究の目的は、パキスタン農村部低所得世帯における幼児の健康状態とりわけ発育不全を改善するために有効な政策とはどのようなものであるかを、実証的に明らかにすることである。研究初年度にあたる2023年度において、「子どもの成長の在宅観察」(Home-Based Growth Monitoring: HBGM)手法についてランダム化比較試験(Randomized Controlled Trial: RCT)を開始した。このRCTにおいては、パキスタンの最大都市であるカラチのスラム地区でその有効性が確認されたHBGM手法を農村部にて再試験するグループと、保健婦による毎月の母子訪問という手間のかかる介入項目を携帯電話によるリマインダ送付によって部分的に置き換えた簡易法を試験するグループと、比較のためのコントロールグループ(何も介入しないグループ)の3つに、無作為に研究対象村を割り振った。それぞれの村の数は60村、60村、79村で、各村から対象となる月齢6か月から18か月の幼児とその母親のペア約15組、総計2848の母子ペアがRCTに参加した。2023年6月にRCTを開始し、2024年5月まで継続される予定である。科学研究費の予算を用いて介入が適切に行われているかの第三者によるモニタリングを実施した。一時的出稼ぎのために追跡が一時的に不可能となった事例や、携帯電話の電波状況悪化によるリマインダ送付が滞った例などが多数検出され、それを克服するための調整を国際研究者グループの会合を通じて随時、行った。介入を進めるのと並行して、RCTのインパクトを検出するための実証枠組について検討を行い、介入内容が無作為に割り振られたことを利用した介入意図効果に加えて、実際の介入が設計とややずれてしまったことを含めた効果も推定することを決定した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2022年10月にシンド州農村部を襲った洪水被害の名残で、RCT開始の遅れが懸念されたが、介入開始は2023年6月となり、当初予定から1月程度の遅れで済んだ。当初のRCT設計は、カラチで実施したタイプのHBGM手法を再試験するグループが80村、携帯電話を活用した簡易法を試験するグループが80村、比較のためのコントロールグループが120村で各村から15母子ペアを対象とする予定だったが、コントロールグループの村の数が一つ減った以外は予定通りに介入を開始できた。1村当たりの母子ペア数平均も14.3と目標の15を若干下回ったものの、統計的検出力の観点からは許容範囲のずれと判断できる。2023年11~12月に中間調査(midline survey)を実施し、2種類のHBGM手法がおおむね適切に現場で試験されていることを確認することができた。半面、第三者によるモニタリング結果からは、介入の中心となる保健婦が対象母子を一時的出稼ぎのために再訪できずに、予定されていたコンサルティングができない事例、携帯電話の電波状況が予想以上に生じて、携帯電話を通じたリマインダ送付が滞った例、介入を実施するNGOが保健婦の一部に関して適切なモニタリングを行っていない例などが検出された。とはいえ、これらの問題を克服するための調整を国際研究者グループの会合を通じて随時、行うことができたことに加えて、一時的出稼ぎ等による再訪の失敗や、リマインダコールの未達などの詳細なデータも収集できた。これらを用いて、途上国の実態に合った総括的なインパクト評価が可能になるものと期待できる。
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今後の研究の推進方策 |
本基盤研究の第2年度に当たる2024年度においては、まず、2024年5月まで、「子どもの成長の在宅観察」(Home-Based Growth Monitoring: HBGM)手法に基づくランダム化比較試験(Randomized Controlled Trial: RCT)に基づく政策介入を、対象となる199村について継続する。介入終了後、介入の詳細に関するデータを定量分析可能なデータベースに再編する。幼児の身長に効果が出るには一定の時間がかかることから、介入終了から6か月以上の間を開けて、最終評価調査(endline survey)を実施する。最終調査は2024年12月から25年1月に予定している。最終調査データのデータベース化が完了次第、その定量分析に着手する。最終調査までに追跡不可能となった母子ペアについて、その脱落が分析にバイアスをもたらす可能性がないかどうか、統計的なテストをいくつか行い、その結果に応じて適切な調整手法を、計量経済学モデルに取り入れる。分析においては、介入内容が無作為に割り振られたことを利用した介入意図効果を主たるインパクト評価とするが、これに加えて、実際の介入が設計とややずれてしまったことを含めた効果(compliance-adjusted average treatment effect)も推定する。また、これらのインパクトが、世帯の所得水準・母親の教育水準と地域の共同行動経験の多寡、政府の保健所・医療機関へのアクセスの良し悪し等に依存してどのように異なるかについての分析を開始する。インパクトの異質性の分析は、介入政策がどのようなミクロ経済学的メカニズムの下に、効果を生んだり生まなかったりするのかについての示唆を与えるものとなる。分析結果が得られ次第、暫定的なものであっても国際会議等で報告し、その成果を公表していく。
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