研究課題/領域番号 |
23K01385
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分07040:経済政策関連
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研究機関 | 明治学院大学 |
研究代表者 |
室 和伸 明治学院大学, 経済学部, 教授 (10434953)
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研究分担者 |
三宅 敦史 神戸学院大学, 経済学部, 教授 (60513281)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,810千円 (直接経費: 3,700千円、間接経費: 1,110千円)
2025年度: 1,170千円 (直接経費: 900千円、間接経費: 270千円)
2024年度: 1,170千円 (直接経費: 900千円、間接経費: 270千円)
2023年度: 2,470千円 (直接経費: 1,900千円、間接経費: 570千円)
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キーワード | 信用市場の不完全性 / 企業数 / 内生的出生率 / 財市場の集中化 / 借入制約 / レジーム転換 / 金融の発展 / 出生率 / 育児支援政策 / 財市場競争 |
研究開始時の研究の概要 |
信用市場の不完全性と少子高齢化のマクロ経済分析を行う。現実経済では、少子高齢化と経済のサービス化が進行し、また、資本収益率が資本の限界生産力から乖離している。信用市場の不完全性の下での異質な経済主体が存在する動学的一般均衡モデルを構築し、借入と企業数、1人当たり資本、出生率の決定要因について理論的かつ定量的に分析する。本研究は、借入と企業数、資本、出生率の動学、経済の発展段階で起こるレジームシフト、財政政策や財市場と金融市場における規制緩和政策の影響について分析する。金融の発展と経済成長の関係、信用市場の不完全性の下での育児支援政策の効果を解明し、経済成長戦略と少子化対策の処方箋を提示する。
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研究実績の概要 |
本研究は「信用市場の不完全性と少子高齢化のマクロ経済分析」を行う。本研究の目的は、(1)借入と企業数、(2) 1人当たり資本、(3) 出生率の決定要因を明らかにすることである。(1) 現実経済においては資本収益率が資本の限界生産力から乖離しており、金融市場の摩擦をマクロ経済モデルに導入する。(2) 金融の発展と経済成長の関係を明らかにするために、1人当たり資本の動学を分析する。(3) 出生率が内生的に決定されるマクロ経済モデルを構築して分析する。本研究の分析方法は、借入制約と参加制約を比較考察し、どちらの制約がバインドしているかによって借入、企業数、資本、出生率の動学にどのような違いが生じるかを、信用市場の不完全性と異質な経済主体が存在する動学的一般均衡モデルを構築して理論的かつ定量的に分析する。 金融の発展がマクロ経済へ及ぼす影響のメカニズムを明らかにするために、以下の3 つの重要な問題を究明する。(a) 借入と企業数、(b)1人当たり資本、(c) 内生的出生率、は何によって決定づけられるのか。そして、3つの問題は、信用市場の不完全性と経済主体の異質性にどのように関係しているのだろうか。 本研究の目的は、3つの問題を解明するために、借入制約と参加制約を考慮した上で、信用市場の不完全性と異質的経済主体が存在する動学的一般均衡モデルを構築し、金融の発展度が、借入、企業数、1人当たり資本、出生率に及ぼす効果を分析する。 参加制約と借入制約を比較考慮し、金融の発展度、財市場の競争度合い、市場への参入障壁の相違によって、借入、企業数、1人当たり資本や出生率などのマクロ経済動学にどのような違いが生じるかを解明する。独自性は、借入制約がバインドする局面と参加制約がバインドする局面がスイッチすることによって、借入、企業数、1人当たり資本、出生率が内生的に決定される点にある。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
現代経済において、企業数の減少と市場の集中が経済問題の1つであり、アメリカで1982年から2016年の間に企業数が減少し、スーパースター企業の台頭が観察された。企業はデジタル技術とグローバル市場の変化に適応し、生産性と市場支配力を高めている。この動きは労働者の報酬の減少や所得格差の拡大に寄与し、企業数の減少と主要な大企業による市場支配が進むことで、新規参入と競争が制約され、経済全体に影響を及ぼす懸念が生じている。 経済発展と企業数の関係は複雑であり、経済成長が特定の産業で企業規模を拡大させる一方、新技術や企業家活動が新興産業での企業数増加を促す。産業や地域によって企業数の変動が異なり、先進経済では大企業の支配が進む一方、新興経済では中小企業が急速に成長する。この関係は、イノベーション、資本蓄積、市場拡大、制度的政策などの要因によって影響を受ける。 借入制約が企業数に与える影響が大きく、資金調達の困難さが新規参入や既存企業の成長を阻害する。経済発展に伴う参入コストの増加も企業数の減少に寄与する。 我々の以前の研究では、経済主体の能力の違いが給与に反映されるが、商品の生産性や変動費には反映されないとしていた。現在開発中のモデルでは、経済発展が企業数の減少と市場集中をもたらすメカニズムを説明できる。経済主体の能力が高すぎる場合、変動費が低くなり、貸し手になる方が有利である。企業数は企業家になる最高の生産性と最低の生産性の差によって決まる。 市場集中は、賃金が固定費に対する関係によって決まる企業数と金融発展の度合いに依存する。総資本の増加が企業数の減少をもたらし、差別化商品生産者の中で最も生産性の低い生産者の生産性を高め、高い生産性を持つ生産者のみが業界で生き残る。この現象は、経済が成熟するにつれて中小企業や自営業の破産が進行する現実を説明できる。
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今後の研究の推進方策 |
金融摩擦の下での世代重複モデルを分析したMiyake and Muro (2022)の論文は、独占的競争モデルで参加制約と借入制約を考慮したプロトタイプ的なモデルであった。このモデルでは、各経済主体の能力が一様分布に従うと仮定していた。参加制約と借入制約から起業の判断を決定する閾値が内生的に決まり、マクロ経済動学が分析された。 Miyake and Muro (2022)の論文では製造業のみを考察していたが、本研究では1980年代の金融自由化が製造業からサービス業への構造変化を推進したと考える。この変化が進むかどうかは、金融の発展度と財市場の規制緩和に依存する。さらに、前回の研究では企業家の可変費用は全ての経済主体で同一とされていたが、本研究では経済主体の能力が高いほど企業活動において可変費用が低くなるようにモデルを改良する。これにより、参加制約が有効な局面と借入制約が有効な局面において、経済主体の能力と企業生産の関係が非単調となり、資本のダイナミクスが複雑化し、複数均衡の可能性が出てくる。これにより、金融の発展が経済成長に及ぼす効果も単調ではなくなる。 また、Miyake and Muro (2022)の論文では労働力は一定であり、出生率の内生化は考慮されていなかったが、本研究では出生率を内生化する。出生率は一人当たり資本、経済主体の能力分布、借入および企業数によって決まり、金融の発展度、財市場の競争度、市場の参入障壁が内生的出生率に影響を与えることが明らかになる。これにより、育児支援政策が有効に機能するための望ましいポリシーミックスが議論できます。具体的には、少子化対策として金融市場の規制改革と財市場の規制緩和のどちらを優先すべきかに関する理論的根拠が得られる。 以上のように経済モデルを構築・拡張し、政策提言できるよう今後の研究を推進していく。
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