研究課題/領域番号 |
23K01388
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分07040:経済政策関連
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研究機関 | 立命館大学 |
研究代表者 |
徳丸 夏歌 立命館大学, 経済学部, 教授 (40646783)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2028-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,810千円 (直接経費: 3,700千円、間接経費: 1,110千円)
2027年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
2026年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
2025年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
2024年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
2023年度: 1,170千円 (直接経費: 900千円、間接経費: 270千円)
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キーワード | 所得分配 / ローレンツ曲線 / 分配正義 / 社会的選好 |
研究開始時の研究の概要 |
本研究では第一に、複数の国のマクロデータを用いて、ローレンツ曲線によって表される所得分布の質的形状に着目しての格差の量的・質的側面を明らかにする。第二に、複数の国においてオンラインアンケート調査を実施し、所得分布と分配正義への個人の選好を明らかにする。調査に当たっては行動経済学における仮想的市場法を応用し、参加者に異なる分配状況で再分配を行わせることで、個人の分配正義を明らかにする。第三に、各国の所得分布形状と、個人の分配正義への選好を比較分析し、そのギャップとギャップを生む制度的要因について明らかにし、各国特有の状況に適した再分配政策を提示する。
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研究実績の概要 |
本年度は、研究目的に基づいて第一に、ローレンツ曲線の形状によって異なる所得分布の質的相違について、分類方法の考察を行った。すなわち、同じジニ係数であっても、完全平等線から最も距離のあるローレンツ曲線上の点(格差の重心)が、低所得者層、中所得者層、高所得者層のいずれに置かれるかによって、所得格差の質は異なる。また、ロールズ、ノージック、ドウォーキン、センらの分配正義に関連する文献を調査しつつ、異なる分配正義や公平性観念が、いずれの質的に異なる所得分布を選好しうるかについての理論的整理を行なった。 本研究では第二に、日本およびスイスにおいてオンラインアンケート調査のパイロット調査を実施し、ミクロデータを収集した。調査内容は、実際の所得分布を各個人がどのように認知しているか、および所得分布への各個人の選好(どのような所得分布を望ましいと考えるか)と、各個人の分配正義への選好(“各人は必要に応じて受け取ることが望ましい”の極から、“各人は成果に応じて受け取ることが望ましい”極までの共感度合い)、および各人の属性であった。 本研究では第三に、近年の所得格差の拡大は、グルーバル化に伴う資本分配率に対する労働分配率の低下に起因するとする先行研究の成果を踏まえつつ、労働分配率の近年の動向とその主要因に関する実証研究を行なった。具体的には、OECD諸国について労働分配率を熟練労働者(大卒以上)分配率と非熟練労働者分配率に分類し、グローバル化、労働組合組織立および政府支出が、各分配率にどのような影響を与えているかについての実証分析を行なった。加えて、世界価値観調査World Value Surveyにおける各国の意識調査データに基づき、労働組合、政府の役割、所得格差についての意識の近年の推移を分析した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2023年度は、西スイス応用科学大学のPiere研究員との議論に基づき、ローレンツ曲線の形状と分配正義に関する理論的整理を行い、ドイツで5月に実施されたワークショップ“Applying a new tool (the Lorenz Morphospace) to real world challenges: Can poverty be eradicated by changes in income distributions?”にオンライン参加し、“Why Fairness Matters? Income Distributions and Micro behaviors”のタイトルで発表を行なった。 また、所得分配の選好に関するアンケート調査を設計し、日本およびスイスにおいてパイロット調査を実施した。日本においては、調査会社マクロミルを通じて回答者を集め、スイスにおいては西スイス応用科学大学のPiere研究員の協力を得て、学生を対象とした調査を行った。 パイロット調査では、アンケートの有効性をテストするために、少人数で実施したが、調査協力者の所得分布の理解(五分位の所得各階層について、理想的な分布の割合を答える)を十分に得ることができなかったため、全体の3割程度無効回答となった。しかし、より自己責任論的な分配正義を持つ参加者と、より福祉主義的な分配正義を持つ参加者について、理想とする分配と現状の分配認知に差があることが観察された。 加えて、OECD諸国における労働分配率について、グローバル指標、労働組合組織率、労働関連制度指標、政府支出との重回帰分析を行なった。それにより、グローバル化指標が非技能労働者の労働分配率を下げ、技能労働者の労働分配率を上げる有意な傾向が観察された。
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今後の研究の推進方策 |
前年度実施したアンケート調査について、内容を精査分析の上、より調査参加者に理解しやすい質問形態を工夫し、無効回答を減らした上で、再度アンケート調査を実施する。その際、先行研究を参考にしつつ、調査協力者の属性や思想と、所得分布の認知および理想とする所得分布との関係についてより詳細な分析を行う。加えて、アンケート調査の対象を日本、スイスおよび他の先進諸国に広げ、国別比較を行う。 また、労働分配率に関する実証研究は、回帰分析の結果をより詳細に検討し、近年の所得分布の変化の要因分析および政府や労働組合の所得分布に関する役割の変化としてまとめ、9月にトルコで開催される国際学会International Initiative for Promoting Political Economyにて発表する予定である。
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