研究課題/領域番号 |
23K01433
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分07050:公共経済および労働経済関連
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
玄田 有史 東京大学, 社会科学研究所, 教授 (90245366)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,030千円 (直接経費: 3,100千円、間接経費: 930千円)
2025年度: 1,690千円 (直接経費: 1,300千円、間接経費: 390千円)
2024年度: 1,170千円 (直接経費: 900千円、間接経費: 270千円)
2023年度: 1,170千円 (直接経費: 900千円、間接経費: 270千円)
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キーワード | 高齢者雇用 / 継続就業 / 自営業 / リカレント教育 / 若年雇用 / 置換効果 / 相乗効果 / 高齢者雇用対策 |
研究開始時の研究の概要 |
本研究は、70歳以上の労働市場の構造に関する事実把握と、その動向が日本の労働市場全体に及ぼす影響ならびに若年・中年層の労働市場との相互作用等について実証的に解明する。 そのために政府統計の公表内容の吟味ならびに個票データの特別集計、加えて地域調査などを実施することで、日本初かつ世界的にも先駆となる、70歳以上の労働市場を主たる対象とした独自の実証的労働経済研究を目指す。
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研究実績の概要 |
本研究では、70歳以上の労働市場の構造に関する事実把握とその動向が日本の労働市場全体に及ぼす影響ならびに若年・中年層の労働市場との相互作用を実証的に解明する。 2020年実施の総務省統計局「国勢調査」によれば、70歳以上の就業者数は490万人を超え、2000年の2倍に達した。就業者全体に占める割合も8.5%に拡大して既に10代を上回り、近い将来20代を凌駕する勢いにある。高齢者就業に関して、これまで年金制度や定年・再雇用制度の変更の影響等、主に60歳代が研究対象とされてきた。一方、高齢者雇用安定法の改正により70歳までの就業機会の確保が努力義務とされる等、人生100年時代が謳われる今後、70歳以上の動向が労働市場全体に及ぼす影響は一層拡大すると予想される。 その際、70歳以上の就業が全体的な人手不足の緩和やそれに伴う賃金等の労働条件にどの程度の影響を与えるかは将来を論ずる重要な問いとなる。さらに70歳以上の就業拡大が、若 年や中高年の就業に対し代替的・補完的のいずれの関係にあるかという問いも世代間対立回 避を検討する上で必至の論点となる。70歳以上の就業実態の解明は、現在の若年や中年の 人々に必要なキャリア設計やリカレント教育とは何かという問いにも一定の示唆をもたらす。これらの背景と問いに基づき、政府統計の公表内容の吟味ならびに個票データの特別集計、加えて地域調査を包括的に実施することで、日本初かつ世界的にも先駆となる、70歳以上の労働市場を主たる対象とした独自の実証的労働経済研究を目指す。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
総務省統計局『国勢調査』『就業構造基本調査』などの公表統計を概観した今年度の研究の結果、70歳以上の雇用の特徴の第一とは、時間的柔軟性を重視した働き方にあることが示唆された。現在、70歳以上の労働者の多くはパートタイムの短時間勤務者であり、大部分が自分の都合のよい時間に選択的に働けることを働く主たる動機としている。そのうち4人に3人以上が継続雇用を望むなど、短時間で柔軟な働き方であれば、健康が許す限り、今後も働き続けたいという継続就業の志向性も高いことが判定した。そのため、さらなる就業拡大には、2021年の高齢者雇用安定法の改正のポイントになった65歳以上に関する業務委託や社会貢献への参加促進など、雇用に捉われない働き方の普及が一つの鍵を握ることがうかがわれた。 加えて現在の70歳以上では、若年時の進学率が未だ高くなかったことから、管理職や専門職の多くを高校卒が、また生産職やサービス職の多くを中学卒の労働者が担っていることも、現状の70歳以上の労働市場の特徴となっている。世代間の問題として、高齢者とそれ以外で雇用機会を奪い合う「置換効果」のほか、高齢者が現役として働き続けることで事業が持続し、その結果として若年層や中年層の雇用創出につながっている「相乗効果」が機能しているかは、引き続き今後の検証の重要な論点となる。 一方、生計の維持のためや家業の継承などを背景に、本来は引退したいのだが、やむなく働いていると考えられる70歳以上も、公表統計からは15%程度存在していたことがわかった。これらの困難を抱える人々の動向は、社会保障制度や最低賃金などの政策とも密接にかかわることから、個人や世帯を取り巻く環境を考慮に入れた、就業選択に関するより詳細な分析が今後求められると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
引き続き政府統計の公表結果の詳細な分析を進めるほか、統計法にもとづき、総務省統計局「就業構造基本調査」(令和4年調査)の特別集計を申請し、個票データによる高齢者就業の規定要因に関する計量分析を計画している。集計方法としては、統計法33条による調査票情報のオンサイト利用を予定している。 さらに70歳以上の就業状況が把握可能な事業所調査を、東京大学社会科学研究所附属社会調査・データアーカイブ研究センターによるSSJJデータアーカイブの中から発掘し、70歳以上の就業に積極的な事業所の特徴およびそこでの若年・中年の雇用・就業状況との関係を実証分析する。 加えて2024年度から25年度を通じて、70歳以上の就業率が高い自治体と反対に就業率の低い自治体において、企業や自治体に対する地域調査を行う。それによって70歳以上の就業を促進する地域的・社会文化的要因の把握にもつとめる。
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