研究課題/領域番号 |
23K01666
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分07100:会計学関連
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研究機関 | 横浜国立大学 |
研究代表者 |
大雄 智 横浜国立大学, 大学院国際社会科学研究院, 教授 (40334619)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
2,990千円 (直接経費: 2,300千円、間接経費: 690千円)
2025年度: 1,170千円 (直接経費: 900千円、間接経費: 270千円)
2024年度: 1,170千円 (直接経費: 900千円、間接経費: 270千円)
2023年度: 650千円 (直接経費: 500千円、間接経費: 150千円)
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キーワード | エクイティ / 持分 / 資本 / 残余請求権 / 企業価値評価 / 分配情報 / 付加価値会計 / 不確実性 / 資本会計 / 株主持分変動計算書 / 投資価値 / 分配価値 |
研究開始時の研究の概要 |
本研究は、財務資本を拠出する株主だけでなく、人的資本を拠出・創造する従業員もまた、企業が生み出す投資成果の残余請求権者であると考え、企業の各期の純利益をただちにすべて株主の取り分として認識する会計制度の現実妥当性を問うものである。また、投資成果の不確実性だけでなく、その帰属の不確実性・不確定性にも着目し、企業資本の変動と株主持分の変動との恒等関係を前提とせずに、企業成果の分配情報と株主持分の価値評価との関係を再考する。
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研究実績の概要 |
当年度は、企業会計における資本(capital)の変動と持分(equity)の変動との関係を検討するとともに、企業価値評価の観点から、成果分配に係る情報開示の意義を明らかにするための準備を行なった。負債が存在しなければ、企業のバランスシート上の資産(assets)と資本(capital)は等しく 、また、株主が唯一の残余請求権者(企業が生み出した投資の成果から、契約で定められた他の請求権者への支払いを控除した後に残る成果に対する請求権者)であるならば、企業のバランスシート上の資本は、それに対する株主の権益ないし請求権を表す持分(equity)と等しくなる。そこでは、利益の実現に伴う資産の増分と資本の増分、そして持分の増分の三者が一致し、現行の企業会計はそうした基本的な関係を前提としている。ただし、株主がいつも唯一の残余請求権者であるとは限らないとすれば、企業資本の増分と株主持分の増分を同一視することはできない。両者の恒等関係が現実には成立していないとしたら、そこで生じる問題にどう対処するか、それが本研究の問題意識である。 株主以外にも残余請求権者とみられるステークホルダーが存在する場合、企業成果の帰属ないし分配をめぐる不確実性にも目を向けなければならなくなる。投資の成果が実現するまでに多期間を要し、そこに不確実性が存在することはいうまでもないが、その成果の衡平な(equitable)分配もまた多期間を通じて達成され、不確実性を伴うと考えられるのである。企業と従業員との長期的な関係を想定したとき、そうした状況は現実に生じうるものであり、本研究は、そこでの分配情報の開示と企業価値評価との関係を検討するものである。当年度の研究成果の一部として、『會計』第204巻第3号(2023年9月)に「企業資本の変動と株主持分の変動─会計利益の測定と分配─」と題する論文を公表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は、以下の3つの課題に取り組むものである。①株主が常に企業成果の残余請求権者であるとはいえないケースを想定し、企業資本の変動と株主持分の変動との恒等関係、および、投資価値(投資政策によって企業が生み出すキャッシュフロー流列の現在価値)と分配価値(分配政策によって株主が受け取るキャッシュフロー流列の現在価値)との恒等関係を問い直す。②株主だけでなく従業員もまた残余請求権者であると想定し、配当流列と賃金流列の相互連関を考慮して、成果分配情報と企業価値評価との関係を検討する。③経営者を株主・従業員間の利害裁定者とみるモデルを想定し、企業成果の分配情報としての持分変動計算書の意義と役割を明らかにする。 当年度は、上記を踏まえ、企業価値評価の観点から、成果分配情報の意義を明らかにするための準備を進めた。その過程で、企業価値の概念および付加価値計算書の役割についても改めて検討し、本研究の位置づけをより明確にした。投資成果の実現に係る不確実性とともに、投資成果の分配(衡平な分配)をめぐる不確実性にも目を向けて財務諸表の体系を問うことが本研究の主題であり、今後もその方向に沿って研究を進める予定である。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、株主の実質的な持分に影響する従業員の雇用・賃金制度を明示的に考慮し、配当流列と賃金流列の相互連関を反映させた企業価値評価モデルを構築する。また、企業価値評価の観点から、企業成果の分配情報を財務諸表の体系に組み込むことの理論的・実践的意義を明らかにする。 本研究では、株主・従業員間の企業成果の分配過程における経営者の役割を明示的に考慮しながら、企業の目的とその成果の測定・開示との関係を検討する。経営者を株主の代理人とみる標準的なモデルのほか、経営者を株主・従業員間の利害裁定者とみるモデル(青木, 1984)も想定して、企業観に応じた財務諸表体系の再構成を試みる。その目的は、従来の財務諸表体系が受容されてきた合理性とその限界を社会経済環境にてらして明らかにすることである。 従来、企業資本の増分と株主持分の増分との恒等関係が前提とされてきた背景には、現実の株式会社制度との整合性だけでなく、前者が後者を決定するという認識、あるいは、前者で後者を定義するというアプローチの一般化があったと推察される。また、投資政策が所与のとき分配政策は企業価値と無関連であるとする命題(Miller and Modigliani, 1961)も理論的基礎とされてきた。そこでは、企業成果の分配情報を開示する意義が、企業価値評価の観点からは必ずしも明らかでなかった。今後は、引き続き、企業の投資政策と分配政策を分離することなく、また、両者に不確実性が存在することを前提としながら、成果分配に係る情報が将来のフロー流列の予想形成に資するメカニズムと、それを踏まえた財務諸表体系のデザインを検討する。
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