研究課題/領域番号 |
23K01712
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分07100:会計学関連
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研究機関 | 日本大学 |
研究代表者 |
林 健治 日本大学, 商学部, 教授 (60231528)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
1,690千円 (直接経費: 1,300千円、間接経費: 390千円)
2025年度: 520千円 (直接経費: 400千円、間接経費: 120千円)
2024年度: 520千円 (直接経費: 400千円、間接経費: 120千円)
2023年度: 650千円 (直接経費: 500千円、間接経費: 150千円)
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キーワード | 中小企業向けIFRS / コメント・レター / 金融商品 / 予想信用損失モデル / デュー・プロセス / 正当性 / 完全版IFRS / 公的責任を有しない企業 |
研究開始時の研究の概要 |
IASB は,中小企業向けIFRSと大企業向けの完全版IFRSの整合性を保持するアプローチを採用する。本研究では,中小企業向けのIFRS と大企業向けの完全版IFRS の一体改革を射程に入れ,理論的・実証的研究を行う。 本研究において,中小企業会計制度改革により,日本の中小企業のグローバル化と財務報告の透明化を促し,持続的発展を支援する方策について,理論的・実証的観点から検討する。 中小企業向けIFRSの導入・適用を標榜し,わが国の中小企業会計制度を改革し,もって中小企業の借入資金調達を円滑化し,日本経済復興の足掛かりを得ようと試みる。
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研究実績の概要 |
国際会計基準審議会(IASB)は,情報要求書(RFI)のフィードバック,中小企業向けIFRS適用グループ(SMEIG)の審議を経て,2022年9月にIASB/ED/2022/1公開草案「中小企業向けIFRS(第3版)」と公開草案「中小企業向けIFRS(第3版)」の結論の根拠と財務諸表の例を公表するとともに,2023年3月7日を期限にコメントを募集した。およそ6か月の募集期間中に,70通のコメント・レターがIASBに送られた。本年度は,公開草案「中小企業向けIFRS(第3版)」の要諦を把握し,以下の認識のもとで,IASBに提出されたコメント・レターの分析を試みた。 完全版IFRSのアドプション国が拡大する一方で「中小企業向けIFRS」を採用する国はさほど増えていない。「中小企業向けIFRS」が広く受け容れられるには,各国会計基準設定主体の意見を汲み取ることが肝要である。そこで,多くの法域の会計基準設定主体が反対意見を表明した金融資産の減損処理案に関する会計基準について検討した。 公開草案「中小企業向けIFRS(第3版)」に関する意見の募集は,基準設定に関連するIASBのデュー・プロセスの正当性を保証し,もって,中小企業向けIFRSの普及をはかるための不可欠な手続きである。IASB財団のwebsiteを参照し,先行研究にしたがい,コメント・レターを利害関係者・法域別に分類した。職業会計士団体,会計基準設定主体,監査法人が多くのコメント・レターを寄せ,ヨーロッパからのコメント・レターがおよそ1/4を占めた。金融資産の減損処理にあたり,予想信用損失(ECL)モデルを導入する提案について,ほとんどの会計基準設定主体は反対意見を表明した。IASBは意思決定プロセスの透明性を高め,特定の利害関係者・法域の意向を偏重することなく,中小企業向けIFRSの改訂作業を進めたか注視する必要がある。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
IASBは,2022年9月に公開草案「中小企業向けIFRS(第3版)」を公表するともに,公的説明責任の定義,個別財務諸表および連結財務諸表における支配の定義,企業結合およびのれん,段階的取得の要件,基礎的金融商品の減損,公正価値測定,従業員給付,開発費の認識・測定,2018年版概念フレームワークと整合性,ジョイント・ベンチャーに対する投資,顧客との契約から生じる収益などについて利害関係者から意見を求めた(2023年3月7日締切)。中小企業に過度の負担を課すことがないように簡素化を図ることを優先するか,アライメント・アプローチを採用し,完全版IFRSと中小企業向けIFRSの整合性の保持・向上を重視するかの選択は,会計基準設定主体,財務諸表を作成する中小企業,会計監査業務をおこなう監査法人にとっても重要である。企業会計基準委員会(ASBJ)は公式に意見を表明しなかったが,日本公認会計士協会は本公開草案に関し,詳細なコメント・レターをIASBに提出した。IASBの公式websiteから寄せられたコメント・レターを入手し,金融商品の減損処理などについて利害関係者別,法域別に意見の違いがないかを分析し,その結果を論文として発表できた。 本公開草案について会計基準設定主体,職業会計士団体などの利害関係者がIASBに提出したコメント・レターの内容が,中小企業向けIFRSの改訂に対し,どのような影響を与えるか検討する論文が日本の研究者により発表されたが,本年度の研究によりそれらの研究を補完し,発展させる成果を発表できた。
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今後の研究の推進方策 |
2024年度には,「中小企業会計要領」と公開草案「中小企業向けIFRS(第3版)」を比較検討し,両者の重要な差異を析出する。次に,借入費用の資産化,金融商品の測定(取得原価・償却原価,公正価値)・認識中止,耐用年数が未確定な無形資産の償却・減損,研究開発費,法人所得税,従業員給付などに関する完全版IFRSと公開草案「中小企業向けIFRS(第3版)」の差異を析出し,両者の整合性を確認する。 マレーシアでは,2016年1月1日以降の事業年度から中小企業向けIFRSとほぼ同等の中小企業会計基準(Malaysian Private Entities Reporting Standard:MPERS)の適用が義務付けられている。マレーシアに進出する日系中小企業の会計基準適用状況を調査する。金融商品,無形資産(のれんを含む),投資不動産,リース,為替換算調整勘定,研究開発費,借入費用などに関するMPERSの処理の要諦を示し,マレーシアに進出する日系中小企業が直面する会計問題を析出する。 2008年の金融危機を受けてIASBは,ディスカッション・ペーパー,公開草案の公表,コメント・レターの募集など必要なデュー・プロセスを経ず,金融商品の区分を変更した。手続きの正当性を欠いていた。中小企業向けIFRSの改訂にあたり,コメント・レターを募集し,利害関係者の意見を分析することは,基準の正当性を担保するため,IASBにとって必要不可欠である。Accounting in Europeに掲載された論文では,IFRSの改訂に関するコメント・レター提出数はEU加盟の有無,英語能力,証券市場の発展度,経済発展水準,国内基準とIFRSの差異,利害関係者の相違,地理的位置と関連するという仮説が立てられ,検証された。先行研究を援用し,中小企業向けIFRSに対するコメント・レターの提出と関連するモデルを分析する。
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