研究課題/領域番号 |
23K01717
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分07100:会計学関連
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研究機関 | 関西学院大学 |
研究代表者 |
石原 俊彦 関西学院大学, 経営戦略研究科, 教授 (20223018)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,550千円 (直接経費: 3,500千円、間接経費: 1,050千円)
2025年度: 1,300千円 (直接経費: 1,000千円、間接経費: 300千円)
2024年度: 1,300千円 (直接経費: 1,000千円、間接経費: 300千円)
2023年度: 1,950千円 (直接経費: 1,500千円、間接経費: 450千円)
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キーワード | 統合報告 / 瀬戸内市 / 明石市 / 非財務情報 / 財務情報 / IIRC / CIPFA / 説明責任 / 統合思考 / 価値創造 / 統合報告書 / インタンジブルズ |
研究開始時の研究の概要 |
各国で自治体が果たすべき役割は多様で異なり共通ではない。ゆえに規範的・一般的な指導原則や内容要素の理論研究だけでは不十分であり、各国の行財政の実情に合致した研究が不可欠となる。 本研究は「統合報告書は、組織内部における管理会計の変容の結果であり、関連するディスクロージャーは、統合思考を持つ組織の内部において徐々に制度化したプロセスの最終段階として認識すべきものである」という認識のもとで、統合報告を統合思考による組織変革プロセスと捉え、わが国地方自治体に固有の統合報告の枠組みを解明し(記述による規範研究)、その枠組みが実務実践でどのように適用可能かを実験的に検証する(実験による実証研究)。
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研究実績の概要 |
本研究ではまず、各国で自治体が果たすべき役割は多様で異なっており共通ではない。ゆえに規範的・一般的な指導原則や内容要素の理論研究だけでは不十分であり、各国の行財政の実情に合致した研究が不可欠となる、という研究視座からの考察を企図している。 そして、「統合報告書は、組織内部における管理会計の変容の結果であり、関連するディスクロージャーは、統合思考を持つ組織の内部において徐々に制度化したプロセスの最終段階として認識すべきものである」という認識のもとで、統合報告を統合思考による組織変革プロセスと捉え、わが国地方自治体に固有の統合報告の枠組みを解明し(記述による規範研究)、その枠組みが実務実践でどのように適用可能かを実験的に検証(実験による実証研究)しようと計画している。 しかしながら、自治体の統合報告(書)は、国際的にみてもサンプル数は少なく、わが国では唯一岡山県瀬戸内市がこの作成に取り組んでいる。研究代表者は瀬戸内市における統合報告書の作成に直接に関与して、参与観察の視点からも統合報告のあり方を検討している。 研究計画の初年度にあたる2023年度には、上記の研究視座と瀬戸内市における実務実践から、統合報告作成の基本原則とも言えるIIRFの存在意義について検討した。IIRFは統合報告書作成のための基本原理を提供するのみで、その細部については何も規定していない。それゆえ、統合報告(書)とはいったい何を企図したものなのかについて、一般的ともいえる定義は存在していないと考えるのが妥当である(=理論的考察)。 本研究はまず、統合報告の本質を解明するために、経営組織体における「統合とは」という視点から検討を開始して、統合報告書の理論と実践の融合を実現しようと試みている。ヘルスケアを題材にした研究書の翻訳に取り組んでいるのは、この「統合」という概念の本質を解明するためである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
2023年度は、瀬戸内市役所における統合報告の作成をサポートして、日本の地方自治体における住民との意思疎通手段としての統合報告(書)のあり方について考察を展開した。それゆえに、統合報告に関わる理論的な考察と、理論と実務の融合についての考察はいまだ着手されていない。 なお、本研究では、統合報告を介した情報の提供者と利用者の間の関係性の形成に関連して、自治体サービスと同様の公共サービスの一つであるヘルスケアを対象にした医療従事者と患者との関係性の形成に関する研究書を翻訳の対象として取り上げてその内容の精査を行っている。そこでは以下のような記述が展開されており、本研究の今後の進捗の方向性を示唆している。 患者エンパワーメントは、医療経営や公衆衛生における注目すべきトピックであり、研究者や実務家の関心が高まっている。しかし、患者エンパワーメントとは何を意味するのかについては、まだほとんど合意が得られていない。さらに、患者エンパワーメントの特徴や介入の結果についても、ほとんど知られていない。このような背景から、本書では患者エンパワーメントの分野における知見を前進させ、学術的リテラシーに基づいて、現在のギャップを埋めようとするものである。この目的のために、将来のヘルスケアシステムを形成するうえで患者エンパワーメントが果たす積極的な役割について議論する。また、患者エンパワーメントの「影の側面」を調査し、治療の提供について患者の参加に起こり得る価値共創の失敗のリスクを検証する。 患者エンパワーメントは、従来の生物医学的な治療モデルから、患者中心のアプローチへのパラダイムシフトとして描かれており、これは欧米諸国のヘルスケア改革の内容とほぼ一致している。一方、患者エンパワーメントがもたらす副作用については、患者が治療の設計や提供に関与することで、利用可能な資源が誤って使用される可能性がある。
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今後の研究の推進方策 |
岡山県瀬戸内市の統合報告書のWEBに「瀬戸内市では、持続的なまちづくりのため、市民等に公正で中立的な情報を共有するとともに、多くの方々に瀬戸内市をアピールすることを目的として、「瀬戸内市統合報告書」を作成しました。本統合報告書は、瀬戸内市の戦略や事業実績等を分かりやすく説明するため、統合思考に基づき、国際統合報告評議会(IIRC)のフレームワークに沿って作成したものです。市民の皆さんや市内外の関係者の方々に市全体を概観しながら、瀬戸内市の価値を理解していただくとともに、瀬戸内市の魅力を発信するツールとなるものです。また、統合報告書作成のプロセスを通じて、本市各部署の有機的なつながりを生むとともに、統合思考による意思決定ができる職員の育成につながっています」と記載されているように、統合報告に関する研究は、理論と実務の観点を踏まえて、統合報告書の作成者と利用者の双方の視点からの考察を展開する必要がある。 そして、その際には、従来のAccountability 研究にあるような、エージェンシー理論がその合理性を維持できるのかどうか。また、説明責任の解除といった発想が果たして、実務的に利用者の理解を得る可能性があるのかどうか、といった新しい研究課題に取り組む必要がある。 統合報告に関する研究はIIRCのIIRFに基づいた実証分析等が先行研究で数多く存在する中で、サンプル数の非常に少ない地方自治体を対象にした理論と実務の融合といった視点からの研究は現状、存在していない。サンプル数の少ない研究対象から何を抽出して研究成果として集約するか。研究代表者は、それを実現できる研究デザインの模索を2024年度中の大きな研究方策として、本研究を進める予定である。その際、「統合」の本質的な意味について組織論の視点から解明することも重要と考えている。
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