研究課題/領域番号 |
23K01746
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分08010:社会学関連
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研究機関 | 静岡大学 |
研究代表者 |
荻野 達史 静岡大学, 人文社会科学部, 教授 (00313916)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2028-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
3,770千円 (直接経費: 2,900千円、間接経費: 870千円)
2027年度: 520千円 (直接経費: 400千円、間接経費: 120千円)
2026年度: 650千円 (直接経費: 500千円、間接経費: 150千円)
2025年度: 780千円 (直接経費: 600千円、間接経費: 180千円)
2024年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
2023年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
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キーワード | 産業精神保健 / 精神医療化 / 法化 / 心的なるものの科学 / 言説分析 / 判例 / 法社会学 / メンタルヘルス / 医療化 / 人事労務管理 |
研究開始時の研究の概要 |
日本においては1990年代末より職場のメンタルヘルス対策が多岐にわたって展開されてきた。この動向については、職場に精神医療的な知識が注入されたこととして注目されてきた。しかし、様々な新しい関連法やガイドラインの策定が平行し、それによってそれまで法的な対象にはなりにくかった人事労務管理のごく日常的な領域が法的な対象となり、それを人々が意識するようになった。こうしたこともまた注目される。本研究はこの「医療化」と「法化」と呼びうる2つの趨勢がどのような論理的関係をもち、またその2つが結合することで企業経営や労務管理にどのような影響を持つようになっているのかを質的に検討するものである。
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研究実績の概要 |
R5年度は、産業精神保健が2000年頃より政策的に取り組まれるようになって以降、とくに企業に関係する人々の言説のレベルで「法化」が進展しているのかを確かめることが主要な研究目的であり、それを実現できた。方法としては、産業医をはじめとする産業保健スタッフに向けられた専門誌、そして企業の主に人事・労務担当者を対象とした専門誌から主要なものを選び、法律に関する記事が増加したか否か確認した。 とくに記事の検索においては、「判例」というキーワードを使用することになった。これは予備的作業を通じて、「判例」を見出しに用いる記事は、単なる法令の紹介以上に、深く現在的な法的事象を解説するもので、こうした記事の存在と動向こそが「法化」現象を裏付けるものと考えられたからである。その結果、保健スタッフ向け雑誌でも人事・労務担当者向けの雑誌でも、判例解説を含めた連載記事が2010年以降、多く組まれていることが確認された。これはどの雑誌でも「誌史」上初めての法律関連の連載である。そして、多くの連載の中核に「メンタルヘルス」に関わる判例解説が位置づけられていることも確認された。象徴的なものとしては、1930年に創刊された『労政時報』では2013年より、年4回、「メンタルヘルス判例研究シリーズ 産業医、弁護士から見た判断のポイントと対応の留意点」が現在に至るまで継続されている。 こうした業界紙の言説動向は、メンタルヘルス関連の訴訟件数の増加とともに、「心的なるものの科学」と「法化」が産業領域において「共変」関係的に増加してきたことを証付けるものであるが、上述の連載記事をより内容的に検討することで、その共変関係がどのような機序において生じているのか、その点の検討にも着手した。日本社会学会での報告では、その機序にも触れた報告を行い、とくに共変関係について検討した部分については紀要論文にまとめ公表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本研究プロジェクトは、5年間の計画で、産業領域における精神医療の拡張・浸潤、すなわち精神医療化がもたらす社会的影響を、とくに職場の「法化」という観点から検証するものである。申請時の計画では、はじめの1年半から2年で、とくに雑誌等の文書資料において「医療化」と「法化」の共変関係を検討すると共に、その機序について一定の知見を得ることが目指されていた。 R5年度は、関連雑誌について多角的にアプローチすることによって主要な雑誌を探り当て、それまで仮説でしかなかった精神医療化と法化との共変関係を確かに生じたこととして経験的に検証することに成功した。この点は論文にもまとめている。また、その関係の機序についても、基本的な焦点、たとえば「休職期間満了による退職」や「安全配慮義務」において、どのようなことがとりわけ「メンタルヘルス」に関わり生じ、言説の再生産を促しているのかといったことを指摘することもでき、その点は学会で報告もできた。また、関連学会の研修会や交流会にも参加し、2年目後半より予定している保健スタッフ、人事労務担当者等へのインタビューを実施するためのネットワーク形成もある程度進められた。したがって、進捗状況としては予定以上に進んでいるといえる。
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今後の研究の推進方策 |
R6年度は、まず産業領域の「精神医療化」と「法化」との関係の内的な機序について、業界専門誌という文書資料のレベルで精緻に検討し、論文にまとめることが目指される。この際、「法化」に関する法理論や法社会学についての議論はすでに摂取してきた部分はあるが、さらに自らの議論を法学領域においても通用するものとなるよう関連議論に習熟し組み込んでいくことも重要となる。 R6年度のとくに後半以降は、「法化」のより実態的な在り方を把握する、すなわち産業保健スタッフや企業関係者の把持する「法化」についての意味的世界を捕捉するために、インタビュー調査を開始する。ここでは、まず自らR5年度やそれ以前に形成してきた関係者とのネットワークが役立てられる。たとえば、報告者は、厚労省が日本産業カウンセラー協会に委託して作成している「職場のメンタルヘルス」に関するウェブサイト「こころの耳」の運営委員をR6年度も務めている。この委員会の事務局担当者、そして各界より参加している委員は重要なインフォーマントであり、関連業界の動向について確度の高い情報を得られるインタビュー対象者でもある。代表的な産業医・産業保健師や弁護士・社労士などである彼ら/彼女らへの調査協力依頼から始め、スノーボールサンプリングの方法で対象者を広げていく予定である。 申請時の計画では、産業保健スタッフ集団から開始し、その後人事・労務担当者集団へのインタビュー対象を移動させていていくことを考えていたが、フィールドでの接触の機会により柔軟に対象者を広げていくことが肝要と思われる。R8年度9月までに総計25~6名の関係者へのインタビューを完了させる予定であり、その後R9年度までに書籍として成果をまとめることが目指される。
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