研究課題/領域番号 |
23K01758
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分08010:社会学関連
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研究機関 | 成城大学 |
研究代表者 |
打越 綾子 成城大学, 法学部, 教授 (40349163)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,680千円 (直接経費: 3,600千円、間接経費: 1,080千円)
2025年度: 1,300千円 (直接経費: 1,000千円、間接経費: 300千円)
2024年度: 1,040千円 (直接経費: 800千円、間接経費: 240千円)
2023年度: 2,340千円 (直接経費: 1,800千円、間接経費: 540千円)
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キーワード | 動物福祉 / 市民意識調査 / 情報発信 / 致死処置 / 安楽殺 / 獣医学 / 公共政策 |
研究開始時の研究の概要 |
長らく日本では動物の命を絶つことがタブー視されてきた。しかし、動物の致死処置は現代社会において不可避となっており、作業に関わる人々の苦悩や葛藤も様々な場面で生まれている。本研究では、動物の致死処置に関わる概念整理を行い、日本人の多面的な認識を市民意識調査や従事者へのヒアリングを通して明らかにしたい。 研究を通じて、致死処置に際しての動物の苦痛やストレスを可能な限り軽減する方法を考え、また社会的理解を通じて作業者の心理的負担を減らす方法を考えることは、今後の動物に関係する学問の発展と人材育成のために、そして人と動物の持続可能な関係を構築するためにも、極めて重要かつ総合的な課題であると言えよう。
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研究実績の概要 |
本研究は4つの活動から構成されている。研究活動1は、動物の致死処置に関わる概念の整理、研究活動2は、一般市民の意識調査の実施と解析、研究活動3は、現場の実情や関係者の意向に関する情報収集、研究活動4は、致死処置に関わる様々な手法、条件、作業の負担等の考察である。2023度は、この4つの活動を組み合わせた上で、以下の3種類の作業を同時並行的に進めてきた。 第1の作業は、海外のガイドラインの輪読会である。アメリカ獣医学会による安楽殺ガイドラインや、同じくアメリカ獣医学会によるdepopulation(緊急時の集団殺処分)に関するガイドラインを輪読し、手法に関する検討と、致死処置の概念整理(安楽死処置と人道的殺処分、緊急時の殺処分等の相違など)を行った。 第2の作業は、Zoomおよび対面による研究会であり、2023年度は計9回(講師は12人)行った。8月に動物園関係(動物園長、動物園獣医師)、10月に家庭動物関係(臨床獣医師、動物福祉研究者)、11月に家畜伝染病関係(感染症研究者、公衆衛生獣医師)、2月には動物園の動物福祉研究者、3月には動物園の危機管理、実験動物施設、野生動物の捕獲作業等について研究会方式で専門家ヒアリングを行った。 第3の作業は、前年度までの科学研究費JP19K06453(別の研究班であるが打越が研究分担者である)で行った動物の致死処置に関する市民意識調査の詳細な解析(因子分析や属性による相違など)を丁寧に行った。そして、日本人の致死処置に対する態度・許容度を規定する要因を抽出した。結果としては、家庭動物か畜産動物かといった動物の位置づけよりも致死処置の理由や根拠、それが必要とされる背景や状況によって許容度が規定されていた。また、犬や猫の飼育経験者と、爬虫類・両生類・昆虫等の飼育経験者の認識の相違などが明らかになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究活動1については、海外のガイドラインと日本人の認識とを照合することで、単に英語を翻訳した単語で議論しても、日本での政策論議が深まらない可能性が見えてきた。 研究活動2については、既に相当の分析を尽くしたところである。日本獣医学会野生動物学分科会「野生動物の福祉をめぐる論点整理」、関西実験動物研究会「日本人の動物観と公共政策」、日本動物園水族館協会「動物の致死処置に対する日本人の意識と今後の対応」といったタイトルで基調講演やコメンテーター役を務めた。また、「動物の致死処置に関わる市民意識調査 報告レポート」『LABIO21』90号、「動物の命をめぐる考察」『世界』2023年12月号、「動物の命をめぐる課題と市民意識調査の結果報告」『成城法学』91号などの論文も発表している。 研究活動3については、12人の講師を招いた研究会を通じて、多方面の専門知識・現場情報を得ることができた。さらに、ミーティングの際の参加者のコメント、そのコメントへの返答も、その場で議論するだけでなく、文書形式で緻密にやりとりすることで、詳細な情報を得られる上、各分野の専門家同士の視点での複雑な知識や情報を得ることに成功している。 研究活動4については、海外のガイドライン参照と、Zoomミーティング等を通じた専門知識の蓄積を進めている。
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今後の研究の推進方策 |
まず、研究活動1の概念整理については、少しずつ論点を整理して、研究協力者との間で用語を統一させた提言を出せるように考察を進めていく。 次に、研究活動2については、大学や学部を超えたインターカレッジの学生ワークショップや、一般市民向けのシンポジウムなどを通じて、意識調査の結果を広く社会に伝え、動物の命の取り扱いについて多くの人に考えてもらう取り組みを進めていきたい。 そして、研究活動3と研究活動4を掛け合わせる形で、飼い主のいる家庭動物、飼い主のいない犬や猫、動物園の動物、檻や罠で捕獲された野生動物、実験動物、畜産動物に関わる専門家に、さらなるヒアリング・研究報告をお願いしていく予定である。また、関係学会・関係団体との連携の上、専門家・当事者意識調査を実施できないかを模索する。 いずれにせよ、研究期間の途中からでも情報発信を心がけている。学術雑誌や論壇誌への寄稿なども積極的に行っていく。
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