研究課題/領域番号 |
23K01775
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分08010:社会学関連
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研究機関 | 東北学院大学 |
研究代表者 |
郭 基煥 東北学院大学, 国際学部, 教授 (10551781)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2027-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
1,430千円 (直接経費: 1,100千円、間接経費: 330千円)
2026年度: 130千円 (直接経費: 100千円、間接経費: 30千円)
2025年度: 130千円 (直接経費: 100千円、間接経費: 30千円)
2024年度: 260千円 (直接経費: 200千円、間接経費: 60千円)
2023年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
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キーワード | 流言 / 災害 / 外国人差別 / 植民地 / 差別 / ヘイトスピーチ |
研究開始時の研究の概要 |
本研究は近代以降の日本で高い確率で繰り返されてきた外国人を犯罪と結びつけて語る外国人中傷流言をめぐって、発生の要因やメカニズム、社会的影響について考察する。外国人中傷流言は外国人への暴行の引き金となりうるだけではなく、それ自体が外国人の尊厳に対する攻撃であり、災害時及び災害後の外国人と日本人との関係を破壊しかねない。災害時の外国人中傷流言は特殊な環境で発生するために、差別言説やヘイトスピーチの一つでありながら、一般にその認識が及ばない。この点も考慮し、本研究は最終的に有効な対策を提言することを目標とする。
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研究実績の概要 |
日本では近代以降、自然災害や戦争など緊急事態が訪れるたびに、きわめて高い確率で、特定の集団が窃盗や「強姦」などの犯罪をしているという流言(外国人犯罪流言)が拡散している。またその標的にされてきたのは、朝鮮人・韓国人か中国人にほぼ限定されている。しかし、災害時に実際に該当する犯罪が発生した事例は皆無に近い。 本研究は事実無根の外国人犯罪流言について、その実態を歴史的に明らかにし、なぜ、どのようにして発生し、その後の言説にどのような影響を与えたのかを明らかにしたうえで、なぜ繰り返されてきたのかを考察する。最終的には、有効な対策を提言することを目指す。 外国人犯罪流言は、様々な流言の中の一つのタイプであり、同時に差別言説やヘイトスピーチの中の一つのタイプでもある。この両義性と特殊性を見定めた上で、その内的な構造や、他の言説群との関係(共時的/通時的構造)を解明しようとするのが本研究である。 今年度は2023年9月に『災害と外国人犯罪流言――関東大震災から東日本大震災まで』を出版した。1923年の関東大震災から100周年であることを念頭において刊行した同著では、全体の6割程度で関東大震災時の朝鮮人犯罪流言について論じた。朝鮮人に関する流言が現実に朝鮮人への暴力に結びついた要因をめぐって、災害時の状況と共に、その時点までの新聞における朝鮮人表象を集中的に分析した。分析によって、朝鮮人が反抗的で恐ろしい存在であると同時に懲罰すべき存在として長期に渡り表象してきたことを明らかにした。「鬼」のイメージが深く浸透していたことが、朝鮮人への暴力を誘発する背景となったというのが同著での結論である。 同著では他にも太平洋戦争末期、阪神淡路大震災時と関東大震災時の外国人犯罪流言についても流言の内容と発生要因について分析した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では次の四点を中心に研究を進める。①緊急時に発生した外国人犯罪流言の形式面と内容面における差異を明らかにし、流言の分類を試みる。②緊急事態発生前の新聞等のメディアの外国人表象を検証し、流言への影響を明らかにする。さらに、③外国人犯罪流言とその後の当の外国人についての言説の間の関係を検証する。後者については、新聞等のメディアによる報道記事や社説/評論、投書などから、当該外国人に関する言説の諸々のフレームを明らかにする。この①②③の調査を総合することで、④外国人犯罪流言が繰り返し発生する反復メカニズムを明らかにする。今のところ、外国人犯罪流言、メディアの報道や社説、差別言説といった諸々の言説群の通時的な構造(再生産プロセス)と震災後の諸言説群の共時的な構造(緊急時に頻繁に登場する日本人美名化言説と外国人中傷言説の相補性など)を解明することで、反復のメカニズムの一端が明らかになると考えている。 2021年から『緊急事態と中傷流言』(仮題)という著書の準備を進めてきたが、2023年に『災害と外国人犯罪流言』とタイトルを変えて、刊行した。同著の刊行をもって、①と②についての分析はおおむね終了したといえる。同著では、③について所与の時点の災害時の外国人犯罪流言が次の時点の災害時の流言にどのような影響を与えるかという点に絞って、ある程度は明らかにしたが、平常時の外国人をめぐる言説への影響についてはまだ未着手の状況である。同著では、④についても若干言及したが、十分に解明されているとはいえない。
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今後の研究の推進方策 |
2024年に能登半島地震が発生したが、その際にも外国人犯罪流言はやはり発生している。メディア報道によれば、今回も外国人犯罪流言を信じた地域住民(消防団員)がバールなどをもって、警戒に当たる事案が発生している。これまで確認がとれていなかったが、東日本大震災時にも、外国人犯罪流言を信じて、外国人をターゲットにした自警活動が行われ、実際にも中国人と間違われた日本人(カメラマン)が暴力的に取り押さえられるという事案が発生していたこともメディア報道によって明らかにされている。外国人犯罪流言の拡散後に危険な自警団活動が実践される事案は、関東大震災から100年が経った今日も続いている。 このような中、できれば今年中に能登半島地震の流言に関する調査を行い、これまでの分析結果と照らし合わせることで流言の反復メカニズムについて、さらに分析を進めたいと考えている。ただし、流言に関する調査は、復興段階にある住民の感情に波風を立てるおそれもあるため、まずは現地に足を運びボランティア団体や活動員など協力が得やすく、現地情報に詳しい組織や個人から流言の話題に触れることに問題がないか確認したうえで、可能であればアンケート調査を実施することとしたい。 もし能登の調査が困難だと判断した場合は、従来構想していた通り、災害時の流言と災害後の平常時の言説との相関性について、新聞などのメディアや出版物を対象に分析していく予定である。資料収集の困難度などを考慮し、順序としては戦後の言説分析を先行し、のちに戦前の分析をしたいと考えている。
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