研究課題/領域番号 |
23K01778
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分08010:社会学関連
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研究機関 | 成城大学 |
研究代表者 |
新倉 貴仁 成城大学, 文芸学部, 准教授 (50757721)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,550千円 (直接経費: 3,500千円、間接経費: 1,050千円)
2025年度: 1,690千円 (直接経費: 1,300千円、間接経費: 390千円)
2024年度: 1,560千円 (直接経費: 1,200千円、間接経費: 360千円)
2023年度: 1,300千円 (直接経費: 1,000千円、間接経費: 300千円)
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キーワード | 事務機械 / 事務能率 / 情報化 / 標準化 / ドキュメント / タイプライター |
研究開始時の研究の概要 |
本研究では、日常の情報化の起源として、戦後日本の企業や行政において「事務」と呼ばれてきたデータ処理のプロセスの歴史を探求する。高度成長期、企業や行政に電子計算機が導入される一方で、パンチカードシステム、タイプライター、テレライター、機械式計算機、複写機、謄写機、マイクロフィルム、キャビネット、感光紙、カーボン紙などの「事務機械」が広く使用され、「事務能率」向上が目指されてきた。これらの周辺的な機械と関連する言説が織りなすネットワークの社会学的、メディア論的研究を通じて、社会変容としての「情報化」についての社会学的探求を深化させる。
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研究実績の概要 |
本研究では、日常の情報化の起源として、戦後日本の企業や行政において「事務」と呼ばれてきたデータ処理のプロセスの歴史を探求する。具体的な「事務機械」と「事務能率」の言説が織りなすネットワークの社会学的、メディア論的研究を通じて、社会変容としての「情報化」についての探求を深化させる。 2023年度の研究成果として、第一に、「ドキュメントの歴史」を提起するリサ・ギテルマンの研究のメディア理論における意味を探求する学会報告をし、それにもとづいた論文を執筆した。第二に、戦後の「事務」をめぐる議論の前提となる、戦前の標準化をめぐって、国民服、国民食、国民住宅といった国民概念とのかかわりを探求し、論文を発表するとともに、国際学会での報告を行った。第三に、戦後のファイリング・システムと国字廃止の議論に関する論文を執筆し、言語とナショナリズムの問題を「事務」との関連から考察する端緒を得た。これらの論考はいずれも、1990年代のナショナリズム論をかたちづくった総力戦論、国民の脱構築の議論、さらにはカルチュラル・スタディーズとメディア研究の再考という性格をもつ。 くわえて戦後日本における管理社会論の系譜の探求する学会報告と、ランニング文化の歴史を追跡する学会報告をおこなった。これらの研究は、高度成長期における情報化と消費社会化という社会変容の二つの側面を探求するものであり、社会学における現代社会論の刷新という企図をもつ。特にランニング文化の研究では、高齢化という福祉国家の問題であった「体力つくり」がどのように消費社会の「フィットネス」に変容していったかが明らかになった。これは事務の担い手となるミドルクラスのライフスタイルにかかわるものである。 以上の研究成果を通じて高度成長期のはじまりとおわりに関する事務と能率、情報化をめぐる研究をすすめることができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
国際学会を含む四つの学会報告を実施した。また4つの論文を発表した。これまでの自身の研究活動のなかでも最も生産的な年のひとつとなった。科研費による研究補助に深く感謝する次第である。 『事務と経営』および『ビジネスマシン・ダイジェスト』の資料の分析にもある程度着手し、1950年前後において、横書きや漢字の使用など書字をめぐる議論や、戦後直後の行政における事務能率の動向などが明らかになり、本研究テーマの重要な具体的側面がより明確となってきている。また、ランニングの研究や制御社会の言説の分析を通じて、高度成長期後半の具体的な社会変容と言説の動態もみえてきており、問題の外延がより明確になってきているという手ごたえを得ている。 くわえて、高度成長期における家庭の情報化、社会におけるオンライン化の動きなど、新しい研究課題を得ることができた。継続して研究をすることで、当初の期待どおり、社会変容としての「情報化」についての社会学的探求を深化させることを達成できると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
2024年度は所属大学での海外研修の機会を得ている。前期にはオランダのライデン大学に滞在し、後期にはアメリカのピッツバーグ大学に滞在して、研究をすすめる予定である。海外の日本研究者との交流を深めつつ、官僚制や事務、文書生産の技術についての研究をすすめていきたい。 特に、これまでに収集した『事務と経営』および『ビジネスマシン・ダイジェスト』の分析をすすめつつ、前年度におこなった研究の成果の報告、論文化をめざしていきたい。また、家庭の情報化、オンライン化といった新しくみえてきた主題の研究をすすめ、最終年度となる2025年度に総合的な研究成果の報告ができるように期したい。
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