研究課題/領域番号 |
23K01792
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分08010:社会学関連
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研究機関 | 愛知教育大学 |
研究代表者 |
川北 稔 愛知教育大学, 教育学部, 准教授 (30397492)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2027-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
3,250千円 (直接経費: 2,500千円、間接経費: 750千円)
2026年度: 650千円 (直接経費: 500千円、間接経費: 150千円)
2025年度: 1,560千円 (直接経費: 1,200千円、間接経費: 360千円)
2024年度: 520千円 (直接経費: 400千円、間接経費: 120千円)
2023年度: 520千円 (直接経費: 400千円、間接経費: 120千円)
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キーワード | 社会的孤立 / ひきこもり / 生活困窮者 / 8050問題 |
研究開始時の研究の概要 |
ライフコースに沿った社会的孤立の分析を実施する。具体的には学齢期、20代の移行期、40代以降の壮年期など孤立につながる「つまずき」が起こりやすい年齢層の特定、また障害や社会的排除など「取り残され」に結びつく背景の特定を進める。 孤立の長期化などに結びつきやすい年齢層や背景の特定など、孤立の軌跡についてのさらなる理解を図る。 高齢層において初めて認識されやすい孤立現象の理解を早いライフステージの支援に還元するなど、領域横断的な孤立の把握を支援手法や自治体政策の改善に役立てる。
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研究実績の概要 |
初年度に予定した文献レビューおよび既存の調査データの分析に着手した。 文献レビューでは、海外の社会的孤立に関する文献の収集と内容の分析を行った。孤立が健康に与える影響についての研究は数多い。一方、原因変数に相当する「社会的孤立」そのものに対する理解を深めるうえでは、基本的な指標が必ずしも統一されていない点などに難点がある。具体的には会話などによる交流や社会的サポート、地域活動への参加の欠如などである。ライフコースごとに注目される孤立の内実も異なり、児童期における友人、思春期における恋愛関係の欠如に関する指摘は「成人期への移行」の視点からも注目される。 幼児期から思春期、青年期の孤立についてはshynessやsocial withdrawalのキーワードで取り組まれていることが特徴的である。日本における「ひきこもり」と異なり、就学や就労の有無を問わず社会的交流の欠如の視点からアプローチされている点も改めて注目に値する。 一方で「成人期への移行」そのものに関する研究はNEETの研究に代表されるように就労や就学に注目している。このように移行における困難は、shynessのような心理的・生物学的背景と、NEETのような社会的背景とに分けてアプローチされており、研究分野も大きく異なる。包括的な枠組みの設定と、研究成果の統合的な受容をめざして検討を進めた。 既存の調査データとして、「人々のつながりに関する基礎調査」の調査データの提供を受け、分析を行った。同調査には外出の頻度と行動範囲に関する個別の質問が含まれる。「ひきこもり」の調査で単一の質問で一括して尋ねられていた外出に関する状況について、細かい検討が可能である。外出の限定が、孤独感や会話の欠如とどのように相関するかを検討し、従来の「ひきこもり」という観点からの線引きとは異なる多面的な孤立の類型化を試みた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
社会的孤立に関する文献レビューでは、孤立の健康への影響、幼児期や思春期・青年期の孤立や孤独の内実、また成人期への移行に関する研究が異なる研究分野で実施されている。用語体系の違い、相互の言及関係の乏しさなどによって統合的な受容の困難さが浮かび上がった。社会的孤立を大まかに二分すると、就労や就学などによる社会的参加、会話や外出などによる社会的交流という両側面の欠如に整理できるように思われる。既存文献のレビューをもとにした新たな枠組みの設定に時間を要しているが、こうした作業に実質的な研究の進捗がかかっている。 海外の用語体系や研究成果と照らし合わせると、日本の「ひきこもり」の特異さも改めて浮かび上がる。国レベルの調査報告書に見られるように、「就学や就労、交遊」のいずれかを行っているかどうかが社会的自立の一元的な指標とみなされている。この点は、社会的参加と交流の質的違いを度外視し、支援活動の実施や評価にあたっても混乱を招いているように思われる。「ひきこもり」という用語によって対象者が抱えるニーズの異質性が感受されず、専門家や支援者が恣意的に対象像や支援の目標を設定することにつながっていると考えられる。 このように国内の動向と、よりバランスの取れた議論とのギャップは大きい。解決が求められる状況に対して研究上の目標を効果的に設定し、成果の導出と社会的発信に結び付けていくことが今後の課題といえる。
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今後の研究の推進方策 |
初年度における文献レビューの内容は、過去およそ8年間の研究成果と併せて著書としての刊行をめざしている。既存の調査研究のデータをもとにした分析は、研究論文として投稿中である。 社会的孤立に関する文献レビューの結果は、自治体や民間団体による啓発活動、支援者の研修、社会的孤立事例の事例研究などに活用する。社会的参加と交流の二側面からの実態の理解、生物学的・心理的・社会的側面からの背景理解などは、孤立に陥っている人のアセスメントに有用な視点である。上記の場面で研究成果を活用しつつ、各自治体や民間団体による先駆的な支援活動の情報収集を行い、研究と支援の相互的な交流や発展に結びつける。 これらの著書や論文が完成されたのち、本研究における本格的な実態調査の企画に移る予定である。生活困窮者自立相談支援の相談窓口、地域包括支援センターの調査を予定している。双方の実態調査は、2016年度以降の通算4回の調査を行った経験を有する。研究2年次は、国レベルの孤独・孤立調査と合わせた質問項目の改訂、先駆的な窓口の訪問調査などに着手する予定である。
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