研究課題/領域番号 |
23K02053
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分09010:教育学関連
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
柴田 政子 筑波大学, 人文社会系, 教授 (30400609)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,290千円 (直接経費: 3,300千円、間接経費: 990千円)
2025年度: 1,040千円 (直接経費: 800千円、間接経費: 240千円)
2024年度: 1,170千円 (直接経費: 900千円、間接経費: 270千円)
2023年度: 2,080千円 (直接経費: 1,600千円、間接経費: 480千円)
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キーワード | 戦争遺跡 / 教育的活用 / 歴史的表象 / 場の選択 / 記憶の場 / 歴史教育 / 第二次世界大戦 |
研究開始時の研究の概要 |
第二次世界大戦の過去を伝える「記憶の場」として国内外の4所に焦点を据え、戦争遺跡が教育的資源としていかに活用し得るのか、その可能性と課題について探求する国際比較研究である。具体的調査地は、① 沖縄県集団自決遺跡(慶良間諸島渡嘉敷島ガマ)② 長崎県原爆遺跡(国指定の長崎原爆遺跡5か所)③ ドイツ抵抗記念館(ヒトラー暗殺を企てたシュタウフェンベルク処刑の地にあるドイツ抵抗記念館)④ 南京虐殺遺跡(侵華日軍南京大虐殺遇難同胞記念館)。これら戦争遺跡の保存から展示・陳列・建立に至るまでの経緯を政治・社会の動向に照射しつつ検証し、背景にある諸目的および遺跡指定に至るまでの議論の実相を国際的比較検討する。
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研究実績の概要 |
本研究の目的は、戦争遺跡の教育的資源としての活用について考察するため、その保存から展示・陳列・建立に至るまでの経緯を検証し、背景にある政治的・経済的・社会的・教育的目的および議論の実相を国際的に比較検討することにある。 初年度の2023年度は、国内調査のみに徹し一定の成果を修めることができた。本研究の趣旨に沿い、事項で述べる通り、国内については第二次世界大戦に関連する二つの遺跡についてフィールド調査を行った。 海外渡航については、2023年度における新型コロナウィルス感染拡大状況は、一定の落ち着きを見せていたが、本務校で担っている種々重責、並びに高齢家族の状況等を鑑み引き続き控えることとした。そのため、当初計画していたドイツおよび中華人民共和国での調査は未履行である。従って、一部調査内容についてはフィールド調査を断念し、ホームページ等を中心としたインターネット調査、及び機関職員とのメールによる聞き取り調査やオンライン・インタビュー等の代替方法による研究を行った。これらについての引き続きの調査は、【今後の研究の推進方策】の項で予定している計画を述べる。 研究成果の発表は、国際会議である第44回世界比較教育史学会(オンライン開催)において論文「The US Occupation in Okinawa: Education Reform and Indigenous Values」を発表した。発表セッションおよび事後のラウンドテーブルにおける議論において、人権・戦争・歴史教育という本課題関連テーマに関する情報交換と収集も行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
前述の通り、2020年3月の新型コロナウィルス拡大以降、一切の海外渡航を控えていたため、当初計画していた国外調査は未履行のままである。フィールド調査の代替方法として、ホームページ等を中心としたインターネット調査、及び機関職員とのメールによる聞き取り調査やオンライン・インタビューを行った。これら国外における研究対象としている諸機関については、次項で述べる通り、2024年度及び2025年度に場所・機関を厳選し調査を遂行する予定である。 国内については、前項で言及した通り、第二次世界大戦に関連する二つの遺跡についてフィールド調査を行った。「憶念の碑」(旧制豊中中学校・現豊中高等学校/大阪府豊中市)と「野田沼捕虜収容跡地」(滋賀県野洲市)における国内戦争遺跡である。いずれも本研究の理論的枠組みをなす「場の理論」と歴史的表象の政治性、という観点から好対照となる貴重な実証的研究の素材を見いだすことができた。戦前日本の指導者層を育成する場とされた旧制中学校の卒業生の中から少なからぬ戦死者を出し、彼らに対する鎮魂の意図で建てられた碑は、現在も卒業生により保持されているのみでなく、附属の博物館が現豊中高等学校内にも建設されていることは象徴的であった。転じて、野田沼の碑は、戦時下食糧増産を目論む琵琶湖の干拓に動員された連合国軍(オランダ)の捕虜が、他の多くの事例とは異なり地元民と交流を重ねたことを示す遺跡である。戦後これら捕虜の証言からも、地元民から受けた厚遇への感謝の記録について記したものであるが、ある意味で一種の美談であるにもかかわらず、人知れず立てかけられた立て看板のみの表象に抑えられていたことは、捕虜強制労働という国家が犯した国際条約違反の記憶の表象として貴重な事例調査であった。国内については、このように順次着手可能な場所から調査を遂行していく。
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今後の研究の推進方策 |
前述の通り、2020年3月の新型コロナウィルス拡大以降、一切の海外渡航を控えていたため、当初計画していた国外調査は未履行のままである。従って、次項で述べる通り、2024年度に場所・機関を厳選し調査を遂行する予定である。
上述の通り2020年3月の新型コロナウィルス拡大以降一切控えていたが、今年度2024年度は、本務校においてサバティカルを取得しているため、海外渡航を再開し未履行の海外での調査を行う計画をたてている。今年度については、他の科研「ホロコーストをテーマとした歴史教育・人権教育の実践的教育方法の探究」(課題番号2 0 K 0 2 4 2 4、研究代表者)と通底するテーマを共有しており、同課題研究での本年度ドイツにおける調査の機会を活用し、当初予定していたドイツ抵抗記念館での調査を計画している。 同館は、ヒトラー暗殺を企てたシュタウフェンベルクが処刑された壁の地に建設された「場」の跡地にあり、ナチス政権内の指導者層にもヒトラー暗殺を企てた、いわゆる「良きドイツ人」「良識のあるドイツ人」が、国際社会の環境や国内政治事情を踏まえた時代を経てどのように扱われてきたか(英雄視されてきたか、控えめに展示されてきたか等)、その経緯について調査する。いまひとつの国外調査対象である中華人民共和国における南京虐殺遺跡調査は、次年度以降に履行する予定である。 研究成果の発表として、第29回ヨーロッパ比較教育学会(ギリシャ)において、本研究課題の調査対象である沖縄をテーマとした「Institutional Frameworks of the Representation of History: Political and Social Forces in Remembering War」を発表する予定であり、既にアブストラクトは受理されている。
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