研究課題/領域番号 |
23K02090
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分09010:教育学関連
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研究機関 | 放送大学 |
研究代表者 |
苑 復傑 放送大学, 教養学部, 教授 (80249929)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,680千円 (直接経費: 3,600千円、間接経費: 1,080千円)
2025年度: 1,430千円 (直接経費: 1,100千円、間接経費: 330千円)
2024年度: 1,430千円 (直接経費: 1,100千円、間接経費: 330千円)
2023年度: 1,820千円 (直接経費: 1,400千円、間接経費: 420千円)
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キーワード | 脱グローバル化 / 高等教育政策 / 国際協力 / 中米関係 / 思想政治教育 / 双一流 / 国際交流 / 人事制度と財政制度 |
研究開始時の研究の概要 |
中国の高等教育は、2000年代から外に向かっては「国際化」、国内では「大学間の競争政策」、大学内で「競争的な教員人事制度」、の三つの軸をもとに推進されてきた。これは研究、教育の両面において飛躍的な質的向上をもたらす一方で、大学内では強い軋轢をもたらしてきた。しかし2018年ころからの米国との関係の冷却、中国はいわば「脱グローバル化」を強いられることになった。これと同時に政治的な統制も強まってきた。これまでの高等教育政策はどのような方向に変化するか、個別の大学はこれにどう対処するのか、本研究はこうした問いに、政府の政策文書、大学に関する情報の収集・分析、訪問調査などによって接近しようとする。
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研究実績の概要 |
1980年代から積極的な先進各国との交流を通じて急速に拡大、発展してきた中国の高等教育は、2010年代後半からの米中関係の冷却を背景として、いわば「脱グローバル化」に転換した。それが政策的にどのように進められ、個別の大学はそれにどう適応しているのか。これを入手し得る情報によってできるだけ明らかにしようとするのが本研究の目的である。 これを明らかにするために本研究は、A.1990年代以降の中国大学の国際化を軸とする高等教育の発展の基本構造、B.2010年代後半以後の日米中政府の通商・技術政策とその高等教育への影響、そしてC.脱グローバル化政策の下での各大学、大学構成員の意識、行動の変化、の三つの領域を設定した。そのそれぞれについて、実証的な分析を進めるとともに、全体としての理論的理解を進めることを計画している。 第一年度目の2023年度には、上記の三つの領域のそれぞれについて、とくに米中間の関係を中心として、既存の研究を整理するとともに、政府文書の収集を行い、また中国の大学でのインタビュー調査、およびアメリカの大学に在籍する研究者、学生とのインタビュー調査を行った。 その結果として、以下の点を明らかにした。①米国では1979年に締結された「米中科学技術協定」の更新が難航し、CHIPS・科学法(2022年)は中国企業への技術流出を厳しく制限しているが、こうした動きは中米の研究・留学生交流を著しく制限している。②中国側では、米国を対象とした交流制限を政策として明確化しているわけではないものの、大学に対する政府の統制が強化され、実質的には交流を制限する結果となっている。③米中の留学生交流はコロナ禍を契機として激減したが、その後も回復の兆しが見えず、米国に滞在する中国人研究者の間には様々な受け取り方がある。 以上の知見を踏まえて、2024年度以降の研究をおこなう。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
第一年度目に当たる2023年度においては、次の活動を行った。 ①米国では米中関係の冷却がますます深刻となってきた。2022年のCHIPS・科学法の成立、1979年に結んだ「米中科学技術協定(U.S.-China Science and Technology Agreement)」の更新が難航している。日本に関しては、「経済安全保障推進法」の成立、その高等教育機関への影響について分析した。。 ② 中国政府が公表した政策文書、政府高官の談話等を収集・分析した。とくに米国の政策に対応した行政文書は見当たらないものの、大学に対する政府の統制が明確に強化されている。特にa思想政治教育の強化、b国家重大戦略の需要に対応する先端人材養成、c大学教育の創生、専攻の増設、d教員養成の強化等の側面から、それが明らかである。 ③ 日米中において中国出身の教員、留学生への聞き取り調査を行った。米国では数大学において中国系アメリカ人の教授、職員と卒業生にインタビューを実施した。中国からの留学生の数は激減した。大学教職員、卒業生の反応としては、中米間の教育と研究交流は不急不要の場合、避けたいものである。以前多く受け入れた中国からの訪問学者も最小限度にしている。日本に大学現場では、政府の方針に従って、ガイドラインを作り、方向転換と修正を行っていると言われているが、とまどいもみられる。 中国においては数大学においてインタビュー調査を実施した。高等教育政策は小出しをしているが、多くの葛藤と矛盾を孕んでいる。大学の教職員、学生の国際交流と協力がどこに向かうべきかについてもジレンマを抱えている。2023年の中国スパイ法の実施によって、外国からの訪問者を受け入れる場合、上部組織に報告義務があり、大学教職員の個人の反応としては、国際交流は不急不要の場合を除いて、避けたいと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
研究計画および第一年度の進捗を踏まえて次の作業を行う。 ① 中国の高等教育政策の分析:第一年度の作業によって明らかになったように中国では、米国のように米中交流について明確な方針が示されているわけではない。しかしその反面で大学に対する政策的な統制が強まっている。ただし中国の政策には不透明な点も多く、また流動的な点が少なくない。こうした点から、さらに中国の高等教育の政策文書や諸外国からの分析等を収拾し、その動向を把握、分析する。 ② 脱グローバル化の政策と大学の対応:中国の高等教育政策が具体的に大学にどのように浸透しているかを分析する。政治的な統制強化として、思想政治教育におけるモデル大学、模範学院・学部、模範党支部の創設、100名の大学院生先進党員の選出、などについて教育部の通知が下された。また科学技術分野での戦略的部門の拡充については、新設専攻として、国家安全学、電子情報材料、生物育種技術、生体修復学、健康科学・技術などが選ばれた。これらが個別大学にどのように浸透し、また影響を与えているかを分析する。 ③ 新しい経済状況の高等教育への影響:報道されているように、中国経済は大きく減速し、高等教育修了者の就職問題も顕著になっていると伝えられる。またそれを背景として、大学卒業生の外国の大学・大学院への進学意欲が高まっていると伝えられる。こうした点について、政府部署の公開文書、報道、統計等をつうじて分析する。また日本の大学への入学者についてその入学動機、将来のキャリア展望などについてインタビュー調査する。
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