研究課題/領域番号 |
23K02103
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分09010:教育学関連
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
平井 悠介 筑波大学, 人間系, 准教授 (20440290)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2027-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
2,600千円 (直接経費: 2,000千円、間接経費: 600千円)
2026年度: 390千円 (直接経費: 300千円、間接経費: 90千円)
2025年度: 520千円 (直接経費: 400千円、間接経費: 120千円)
2024年度: 520千円 (直接経費: 400千円、間接経費: 120千円)
2023年度: 1,170千円 (直接経費: 900千円、間接経費: 270千円)
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キーワード | 市民的徳の育成の正当化 / 規範としての利他の思想 / リベラリズム思想の再審 / 地球規模課題への有効性 |
研究開始時の研究の概要 |
本研究は、市民教育をめぐる現代教育哲学および近代教育思想史学(近代教育学批判)の中での、規範としての利他の思想の位置を分析、評価するものである。理性・自律性を重視するリベラリズムの市民教育論は、2000年代から2010年代にかけて批判を受け、その後発展したものの、理論構築の根底に<利己的個人>を教育を通じて<社会的存在>へと変化させることを目指す設計主義的特徴が存在している。利己の制御を目指す設計主義とは異なる回路をもって、人間の根源的な利他性の発現を基盤とする市民教育論、社会的連帯論の構築は可能か。利他主義を基盤とする市民教育論・実践論の構築可能性を探究し、その現代的意義を明らかにする。
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研究実績の概要 |
利他性の育成に関連した市民的徳の育成の正当性の検証を目指した2023年度の研究に関わり、研究知見の部分的な公表が2件なされた。(1) 国際会議における基調発表(Yusuke Hirai,“Compromise in Civic Education,”at International Conference "History and Theory of Compromises" in Germany, 2023-06)、および (2) Yusuke Hirai,“The Private Sphere in Citizenship Education for Deliberative Democracy,”in: Educational Studies in Japan, vol. 17, 2023-05 の公刊である。 (1)は妥協の原理(係争解決に向け、当事者が自らの要求を減らし他者に譲歩する、言語コミュニケーションの原理)が有する現代的価値を、熟議民主主義の実現と関連させて問うた、英語発表である。効果的な妥協に求められる共感(compassion)と傾聴(listening)という徳の育成の正当性を問う原理論を評価し、利他性育成の正当化の理論的基盤を見出した。 (2)は本研究の前身の科学研究費助成事業若手研究(19K14086)の成果であり、本年度の研究小課題「関係的自律性概念および市民的徳に関する教育言説の分析」に関連する。公表論文では、熟議民主主義の実現に向けた市民的徳の育成の課題、特に相互尊重(mutual respect)と礼節(civility)という徳を家庭教育で子どもに育むことに正当性が認められるかを探究した。また、リベラリズムによる公私区分論の乗り越えの議論傾向が、フェミニズム思想に見られる関係的自律性概念への着目という傾向と近接性をもつことを明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2023年度の研究課題「利他性の育成に関連する市民的徳の育成の正当性の検証」における第1小課題として、関係的自律性概念および市民的徳に関する教育言説の分析、市民教育論において利他性の育成が有する課題がいかに認識されているかの解明を予定した。また、第2小課題として、現代教育哲学における利他性概念の位置の解明、および利他性概念とフェミニズム思想の接点の解明を予定した。上記「研究実績の概要」に示す通り、第1小課題については成果を公表し、第2小課題についても収集した基本文献の読解が進められ、研究は順調に進展している。基本文献群の読解により、さらに詳細に分析が必要な文献、論文、および検討課題の抽出はできている。具体的には以下の通りである。 (1) 利他主義に関する研究叢書(E. F. Paul et al. eds. Altruism, 1993)の所収論文のうち、トーマス・ヒル、クリスティーヌ・コースガード、デイビッド・シュミッツ、ロバート・サグデン、ニーラ・バドワールによる各論文を読解し、「人が他者の利益や幸福を思い気づかう理由をどのように抱くのか」という利他的行動の理由に関わる哲学的テーマを、<利他性>と<利己性>の関係をめぐる緒見解の妥当性を評価しながら、探究することである。 (2)2010年代にイギリス教育哲学会機関誌(Journal of Philosophy of Education)上で展開された、利他主義の教育をめぐるジョン・ホワイトとマイケル・ハンドの論争を分析し、道徳教育内容の正当化論との関連で、利他主義の教育の正当化論の特徴を解明することである。その際、ホワイトが利他主義の教育構想を初めて打ち出した『教育と善き生』(1990)とその後の教育論『学校における幸福の探究』(2011)との関連の理解、および、ハンドの『道徳教育の一理論』(2017)の理解も進める。
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今後の研究の推進方策 |
2023年度の研究活動を通じて見出した今後の研究の方向性は、利他的行動を駆動する理由をめぐる哲学的議論の分析、および教育哲学研究上に見られる利他主義の教育の特質と正当化論の解明である。この方向性に沿って研究を進め、成果を2024年9月に開催される教育哲学会において公表する予定である。ただ、公表の準備と並行して、教育思想史的な研究・分析を進める必要も生じている。 2024年度の研究課題は「近代教育思想における利他主義の位置の明確化」とし、小課題を二つ設定している。第3小課題として、近代教育思想史の文脈で、利他主義的教育言説に近代教育批判としての性質が含まれていないかを検証し、自己利益を追求する個人を起点に公正な社会を構築しようとした近代教育理論とは異なる理論回路を探ることを予定している。また、第4小課題として、利他主義に軸足を置く教育言説が、近代教育思想史の主流を形成し得なかった理由を探究し、利他主義の教育思想史的再評価から、近代教育思想が内包する課題を克服する鍵を導き出すことを予定している。ただ、これまでの文献調査を通じて、英米圏の教育哲学においては、利他主義の教育論が充分には議論されていない状況にあることがわかっている。そのため、近代社会思想としてのイギリスのモラリスト思想、およびリベラリズム思想の中に、利他性の育成に関わる議論を見出すことも視野に入れ、教育思想史学、および近代社会思想史学分野での資料の収集に注力し、収集文献・資料の分析を継続する予定である。
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