研究課題/領域番号 |
23K02155
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分09010:教育学関連
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研究機関 | 弘前大学 |
研究代表者 |
高瀬 雅弘 弘前大学, 教育学部, 教授 (20447113)
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研究分担者 |
木村 元 青山学院大学, コミュニティ人間科学部, 学部特任教授 (60225050)
福島 裕敏 弘前大学, 教育学部, 教授 (40400121)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
3,380千円 (直接経費: 2,600千円、間接経費: 780千円)
2025年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
2024年度: 1,040千円 (直接経費: 800千円、間接経費: 240千円)
2023年度: 1,430千円 (直接経費: 1,100千円、間接経費: 330千円)
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キーワード | 新制中学校 / 地域社会 / 学校経験 / 教育文化 / 学校資料 / オーラルヒストリー |
研究開始時の研究の概要 |
本研究は、1950年代における地域の文化や社会の構造変容と新制中学校での教育実践との相互関係を捉えることで、ローカルなレベルから中学校はいかにその内容を整え、地域と人びとにどのように受容・利用されたのかを明らかにしようとする。 具体的には、地方の中学校を対象に、①中学校が「独立」し「定着」していく過程、②変容する地域社会と学校の関係性、③教師たちの社会認識と教育実践の様態、④(元)教師、卒業生それぞれの視点から見た中学校での教育・被教育経験の意味づけ、について、文書資料調査とオーラルヒストリー調査に基づき、戦後日本の社会変動のもとでの地域社会と中学校の間の双方向的な影響関係を明らかにする。
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研究実績の概要 |
本研究の目的は、新制中学校が「独立」し「定着」していく過程において、どのように地域社会や地域文化との関係性を構築し、相互作用していったのかを捉え、地方から戦後日本の学校受容・利用のあり方を明らかにすることである。令和5年度の研究実績は以下のとおりである。 1.先行研究の検討:1950年代の地方における新制中学校の展開過程を分析した先行研究に基づき、問題意識の精緻化を図るとともに、青森県立図書館が所蔵する青森県の中等教育史に関する先行研究を網羅的に収集し、批判的に検討した。 2.学校所蔵資料・学校関係資料調査:青森県西津軽郡鰺ヶ沢町、同県つがる市において、中学校(3校)、小学校(3校)が所蔵する1950年代の新制中学校定着期に関する資料調査を実施した。中学校では学校沿革史等の公文書類を中心に複写とリスト作成を行った。小学校では学校文集等における地域の状況と進路展望に関わるものを抽出し収集した。また青森県西津軽地域と同様に農山漁村を含む比較対象として、下北郡東通村および上北郡六ヶ所村の資料館が所蔵する中学校関係資料の調査を行った。 3.新聞資料調査:青森県立図書館、弘前市立図書館および国立国会図書館において、1950年代の新制中学校に関連する新聞記事資料の調査を行った。 4.データ分析:今年度はつがる市および鰺ヶ沢町の新制中学校を対象として、学校沿革史、公文書資料、記念誌を中心に分析を行い、そのなかで旧森田村の中学校火災に関する記録から学校と地域社会との関係性について検討を行った。そこから明らかになったのは、①学校の焼失という経験から生じる学校や教師間の共感のネットワークというものの存在であり、②災害を通じて生まれた支援のネットワークは、当時においては郡という地域社会の枠組みのなかでは強固に、しかしその外部との関わりにおいては相対的に弱いものとして働いていた、という2点である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
令和5年度においては1.先行研究の検討、2.学校所蔵資料の調査、3.新聞資料の調査を実施し、研究計画に挙げた1.中学校の「独立」「定着」過程、2.変容する地域社会と学校、3.教師の社会認識と教育実践、という分析課題については、それぞれ着手し、おおむね計画通りの進捗状況にある。 1.については、設立当初は多くが小学校併設であった新制中学校が専用の校舎を建設し、二部授業といった問題を解消して名実ともに「独立」し「定着」する過程を、学校資料(沿革史等)に基づき分析した。 2.については、地域資料、社会経済資料や新聞資料に基づいて当時の社会構造を把握し、集落の特性による教育機会の要求や学校の建設・運営への参画の実態、さらには町村合併時に生じた中学校をめぐる対立や葛藤の様態を検討した。 3.については、教師たちは、どのようにして形成され、いかなるネットワークを形作り、そしてそれらを基盤としてどのような教育実践を行ったのかについて、基礎的な文献資料に基づいた分析を行った。加えて青森県内で綴り方教育運動に取り組んだ元教師3名を対象に、その教育実践と地域の教育文化に関わる聞き取りを実施した。 上記に加え、下北郡東通村、上北郡六ヶ所村の中学校関係資料の調査により、本研究の対象である青森県西津軽地域の特性というものがより明確になった。そのなかで学校にとっての地域社会の空間範域とはいかなるものであり、またどのような性格をもっていたのかについての分析結果を第一報という形で示すことができた。 以上のように、本研究の当初の目的についてはおおむね順調に達成されていると考えるが、同時に関係者による学校経験の意味づけという新たに取り組むべき課題が発見された。これらへの取り組みは、本研究のもつ学術的な意義の幅をより広げるものであると考える。
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今後の研究の推進方策 |
令和6年度以降、本研究においては研究代表者(髙瀬)が研究全体を総括するとともに、現地調査(資料調査、オーラルヒストリー調査)のコーディネートと、地域社会の構造、(被)教育経験の分析を行う。研究分担者は、現地調査に参加し、①学校での教育実践、学校と社会との接続関係(木村)、教師の自己形成、教師の生徒・地域社会認識(福島)に関する分析をそれぞれ担う。そのうえで以下の4つの視点に基づいて研究を進める。 1.中学校の「独立」「定着」過程の比較分析:新制中学校が専用の校舎を建設し、名実ともに「独立」し「定着」する過程を、これまでに収集した学校資料(沿革史等)に加え、今後収集する予定の行政資料(政策・議会文書等)とを重ね合わせながら分析する。併せて小学校が所蔵する資料を利用し、小中学校の接続をめぐる状況を分析する。 2.変容する地域社会と学校:令和5年度に収集した新聞資料に加えて地域史、郷土誌(史)を収集し、町村合併時に生じた中学校をめぐる対立や葛藤の様態を分析する。これに加えて下北郡東通村、上北郡六ヶ所村の資料を収集し、地域間の比較検討を行う。 3.教師の社会認識と教育実践:教師たちの形成過程、ネットワーク、それらを基盤とした教育実践の内容について、学校資料とオーラルヒストリーに基づいた分析を行う。併せて教育委員会および教育事務所が所蔵する教育実践記録を収集・検討し、それらが1930年代から地域で培われた教育文化や民間教育運動といかなる接点や影響関係を有していたのかについて考察する。 4.中学校経験の意味:オーラルヒストリーや個人史資料(作文や回顧録)に基づき、教師や生徒が学校を媒介として地域社会の課題とどのように向き合い、そして学校をどのように生きたのかを問うことで、個人史から見た地域社会や地域文化に対する中学校という場とそこでの教育・被教育経験の意義を明らかにする。
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