研究課題/領域番号 |
23K02214
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分09020:教育社会学関連
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研究機関 | 石川県立大学 |
研究代表者 |
石倉 瑞恵 石川県立大学, 生物資源環境学部, 准教授 (30512983)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
3,510千円 (直接経費: 2,700千円、間接経費: 810千円)
2025年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
2024年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
2023年度: 1,690千円 (直接経費: 1,300千円、間接経費: 390千円)
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キーワード | ジェンダー / チェコ / 男子生徒 / 中等教育 / 進路選択 / 教科書 |
研究開始時の研究の概要 |
本研究では、チェコを事例とし、前期中等教育段階から後期中等教育段階への移行期に男子生徒の進路選択に影響を与えるジェンダー要因を明らかにする。①後期中等教育段階の3つの学校種「ギムナジウム」、「中等技術学校」、「中等職業学校」が内包する歴史的アチーブメント、卒業後の進路(大学の専攻、職種等)の可能性、および②基礎学校(初等+前期中等教育段階)の学びと経験が形成する価値観に関する調査を行い、①と②のクロス分析を通して男子生徒に影響を与える進路決定要素を特定し、女子生徒の場合との比較を通して、男子生徒の「ジェンダーの壁」を明らかにする。
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研究実績の概要 |
チェコにおいて,前期中等教育段階から後期中等教育段階への移行期に男子生徒の進路選択に影響を与えるジェンダー要因を明らかにするため,①基礎学校における学校・生徒文化,②基礎学校の教科書が伝える価値観,③後期中等教育段階の3つの学校種「ギムナジウム」,「中等技術学校」,「中等職業学校」が内包する「価値」について基礎的な分析と考察を行った。①~③について得られた知見と課題は以下の通りである。 ①チェコの学校は地域差が大きい。地方の学校は小規模で保守的な傾向にあり,かつ各学校には教育内容や教育方法を決める裁量が与えられているので,保守的な価値観が教育内容に反映されることがある。のみならずチェコは,様々なエスニックマイノリティからなる多民族国家である。各地域のエスニシティ構成は異なり,例えばロマの多い地域では,生徒はロマのサブカルチャーへの親和性が高い。ゆえに,学校・生徒文化は,地域の産業構造,住民構成(エスニックマイノリティも含む),それらが作り出す価値観や伝統に影響を受けている。 ②基礎学校カリキュラムでは多様性への寛容な態度・価値観を育むことに言及されており,「横断的領域」や「倫理」の教科書には,男性と女性の多様な関係性,多様な家族観・職業観等が反映されている。しかし,検定教科書を必ず使用する日本とは教科書使用のルールが異なっており,検定教科書以外の古い教科書を使っている学校もあるので,教科書運用の実態についても調査する必要がある。 ③主としてギムナジウムを中心に,内包する「価値」について調査を行った。ギムナジウムが社会主義期に被った受難,市民革命後の再建,現在ギムナジウムを支持する社会階層や地域について分析した。ギムナジウム進学者は女子生徒が多くを占めているが,都市部と地方における相違があるのではないかとの仮説に至っている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
上述の研究を行うにあたり,当初計画していなかった①教科書制度と②後期中等教育学校の全国分布状況について調査する必要があり,それらの研究に時間を費やしていたため,若干の遅れが生じた。 ①本研究では,基礎学校1~9年生の教科書・教材を分析し,それらに反映されている文化・社会認識を読み解くことが大きな手掛かりとなる。研究途中で,学校によって教科書の使用状況が異なることが明らかになったので,チェコの教科書について制度的な側面を調べる必要が生じた。そこで,チェコの教科書検定,および採択された教科書の使用期間,各学校の教科書の使用状況等を調査した。また,コロナ禍以降,チェコにおいてもデジタル教材の開発が進んでいる。デジタル教材の位置づけ,学校による採択の程度等についても調査し始めた。 ②チェコの学校は,内包する価値観等において地域の価値観・特色に影響を受けていることが明らかになった。市民革命後は,各学校,各学校長が教育内容に及ぼす裁量権が大きくなり,学校,教育内容,学校文化は地域の主要産業,住民構成(エスニックマイノリティ)と伝統・価値観に影響を受ける。とりわけ,地方の小規模学校は独特な学校文化をもっている。後期中等教育学校は,社会主義期から今日にかけて,政治的な影響を受けているが,学校が提供する専攻や学校の特色は地域との関連性が高い。中等職業学校は,その地域の産業構造とも深い関連がある。そこで後期中等教育学校の全国分布,生徒数,入学試験の志願者数と倍率等を調査し,各学校群の地域との関連性を明らかにしようと考えた。2023年度から後期中等教育学校の入学試験ではネット出願がはじまったため,各学校の志願者数,合格者数についてのデータを入手することが可能であり,このデータを用いて分析を行っている。
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今後の研究の推進方策 |
基礎学校における学校・生徒文化,基礎学校の教科書が伝える価値観,後期中等教育段階の3つの学校種「ギムナジウム」,「中等技術学校」,「中等職業学校」が内包する「価値」について基礎的な分析と考察を行ったので,その成果については比較教育学会および論文で発表する予定である。 この基礎的分析と考察を土台として,フィールドワークを実施し,課題や仮説として浮上した点を掘り下げて分析する。フィールドワークの主たるねらいは,第一に基礎学校教科書の収集とその分析である。2023年実施の検定で採択された教科書を中心とし,幅広い科目について収集する予定である。教科書の中で直接的に伝えられる価値観のみならず,理系科目・芸術科目教科書の挿絵等に暗示される価値観(女性と男性の役割,集団や社会のあり方,それらから見出されるチェコ特有の文化・社会認識)について分析を行う。過去に収集した教科書との比較を交えた分析も検討している。 第二に,基礎学校,後期中等教育学校のリアリティを見とることである。後期中等教育学校に関しては,全国分布,生徒数,入学試験における志願者数と倍率等を調査しているので,その結果に基づき,さらに学校ホームページから情報を収集して,3つの学校群の中から適切なサンプル校を選ぶ。観察するリアリティとは,学校の雰囲気,学内環境,生徒の動き,教師と生徒の関わり等である。観察した現象については,各学校の差異性に着目しつつ,かつ日本の学校との比較を通して,学校文化,学校が内在する価値,潜在的に伝達されるジェンダーを解釈したい。 第三に,基礎学校における教科書の運用状況を調査することである。最新の検定教科書を用いているのか,旧来の教科書を用いているのかを調査し,基礎学校カリキュラムが言及している多様性への寛容な態度・価値観の育成は,学校現場においてどれほどの実現可能性があるのかを検討する。
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