研究課題/領域番号 |
23K02495
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分09040:教科教育学および初等中等教育学関連
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研究機関 | 東亜大学 |
研究代表者 |
清永 修全 東亜大学, 芸術学部, 教授 (00609654)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
3,380千円 (直接経費: 2,600千円、間接経費: 780千円)
2025年度: 1,040千円 (直接経費: 800千円、間接経費: 240千円)
2024年度: 1,040千円 (直接経費: 800千円、間接経費: 240千円)
2023年度: 1,300千円 (直接経費: 1,000千円、間接経費: 300千円)
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キーワード | 現代ドイツ / 美術教育 / 鑑賞教育論 / 対話型鑑賞教育 / A・アレナス / U・エーコ / 開かれた芸術作品 / 受容美学 / 視覚文化の伝達と解釈 / イメージ指向の芸術教育 / イメージ学 |
研究開始時の研究の概要 |
ドイツでは、過去20年余りの視覚メディアの驚異的な発展とそれによる視覚経験や生活環境の劇的な変容を受け、また90年代後半から興隆してくる「イメージ学」のインパクトのもと、芸術教育論においていわゆる「イメージ論的転回」と呼ばれる事態が生じる。それによって鑑賞教育を含む視覚文化の伝達という課題にも新たなパラダイムが用意されることになる。本研究では、特に上記の文脈において新たに台頭してくる「イメージ指向」の芸術教育と呼ばれる潮流に注目し、その理論に伝統的な意味における「芸術作品」に止まらない包括的な視覚文化受容のための新たなアプローチの可能性を見て取る。
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研究実績の概要 |
令和5年度は、現代ドイツにおける鑑賞教育論を検討するという本研究課題について、その準備段階の一環として、比較の意味も含めて、1990年代末より今日に至るまで20年近くに亘って本邦の鑑賞教育を巡る議論において大きな潮流をなしている「対話型鑑賞教育」論を取り上げ、主として美学理論の見地から批判的に分析し、その射程と限界について見極めるべく試みた。その際、ドイツにおける同様の潮流の存在についても調査した。そこでは「対話型鑑賞教育」論、とりわけA・アレナスのそれが依拠するU・エーコが『開かれた芸術作品』で展開する理論を中心に、ロラン・バルトの作品論や解釈学的美学の議論にも目配せをしつつ、アレナス(およびそれを支持する論者)の受容美学的なスタンスを今一度「作品」の位置づけをめぐる美学史上の議論の展開の中に位置付け直し、歴史的に相対化しつつ、検討を加えた。そこから、上記の鑑賞教育論の問題点を指摘した。その成果は、昨年9月にドイツのVerlag Barbara Budrichから出版されたMakhabbat Kenzhegaliyeva編『Schule als Lern-und Lebensraum Nationale und internationale Perspektiven der Schulpaedagogik und Schulentwicklungsforschung』に寄稿した拙稿「Bemerkungen zum Impuls der dialogischen Kunstvermittlung in Japan」によって陽の目を見ている。また、今年1月に建帛社から出版された福田隆眞・福本謹一監修によるハンドブック『美術科教育の基礎』では、「ヨーロッパの美術教育 ドイツ」のトピックスのもと、ドイツにおける美術教育の最新の動向を、鑑賞教育の展開も一部視野に収めた枠組みで紹介する論考を発表している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
アメリカ合衆国で発展させられた「対話型鑑賞教育」は、我が国では1990年代末より美術館や学校教育の場において高い関心をもって受け入れられ、浸透していった。しかるに、ドイツでは、これまでのところ、A・アレナスはもとより、Ph・ヤノウィンやA・ハウゼンによって開発された「Visual Thinking Strategy(VTS)」に見られる「対話型鑑賞教育」の議論は、本邦のように本格的には受容されていない。無論、構成主義教育学の理論に依拠した同様のアプローチが全く見られないというわけではない。しかし、それらは、なおあくまで小さな傍流の一つに過ぎず、ドイツでは、むしろこれまで発展させてきた独自の鑑賞教育に関する理論が大きな役割を果たしていることが推測された。上記の論考「Bemerkungen zum Impuls der dialogischen Kunstvermittlung in Japan」を執筆したことにより、これらについて一程度明らかにすることができた。それゆえ、改めて、現在のドイツにおける美術教育の大きな潮流である「芸術的陶冶(Kuenstlerische Bildung)」や「イメージ指向(Bildorientiert)」の芸術教育の教授理論が鑑賞教育の領域にもたらすことになる理論的・方法論的貢献や刷新を念頭に置きつつ、そのアプローチや基本スタンスについて目を向け、精査する必要性が明らかになってきた。また、これらの作業を通して、自らの鑑賞教育論(視覚文化の伝達に関する議論)の観点を改めて明確にすることができた。その意味で、本研究の最初のステップは踏み出すことができたと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
本年度は、昨年度に行った研究調査の成果に基づき、いよいよ現在のドイツにおける鑑賞教育理論について、その代表的なスタンス、その理論的な枠組みとベースになる基礎理論を精査し、そのアプローチのあり方を見極めるべく取り組んでいきたい。その際、手はじめに、現在ドイツにおける美術教育のもっとも影響力ある潮流である「芸術的陶冶(Kuenstlerische Bildung)」や「イメージ指向(Bildorientiert)」の芸術教育の教授理論における「受容」の側面に着目する。その際、それらの理論が依拠する芸術論や美学上、教育学上の理論も視野に収めて研究を進めたい。また、上記の論考「Bemerkungen zum Impuls der dialogischen Kunstvermittlung in Japan」でも配慮したように、この対象領域での活動を語るためのタームや概念の問題にも十分に考慮し、その規定性についても念頭において調査を進めていきたい。その一方で、ドイツ内部における議論だけで完結しないよう、その外部(他の国々における議論)との繋がりについての目配せも怠らないようにすることで、より広い文脈で現在のドイツにおける鑑賞教育理論を把握し、位置付けられるよう留意したい。
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