研究課題/領域番号 |
23K02558
|
研究種目 |
基盤研究(C)
|
配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分09050:高等教育学関連
|
研究機関 | 嘉悦大学 |
研究代表者 |
宇田川 拓雄 嘉悦大学, 経営経済研究所, 客員教授 (30142764)
|
研究分担者 |
松本 美奈 帝京大学, 公私立大学の部局等, 教授 (10845142)
白鳥 成彦 嘉悦大学, 経営経済学部, 教授 (70552694)
田尻 慎太郎 北陸大学, 経済経営学部, 教授 (90410167)
|
研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2026-03-31
|
研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
|
配分額 *注記 |
4,550千円 (直接経費: 3,500千円、間接経費: 1,050千円)
2025年度: 1,040千円 (直接経費: 800千円、間接経費: 240千円)
2024年度: 1,040千円 (直接経費: 800千円、間接経費: 240千円)
2023年度: 2,470千円 (直接経費: 1,900千円、間接経費: 570千円)
|
キーワード | 大学中途退学 / 『大学の実力』 / 教育改善策 / 大学選択 / ジェンダーバイアス / 大人術入門 / 生活スキル / 自己管理能力 / 高等教育の大衆化 / 退学 / 「大学の実力」 / 教育改善 / 大学ガイド |
研究開始時の研究の概要 |
現代では高学歴は有利な職業と豊かな生活へのパスポートである。大学に入学しても不本意に退学することは本人、家族、社会、大学に痛手である。大学の退学リスクの情報は大学ガイド(大学案内)の最重要項目である。「大学の実力」(読売新聞社)は従来、大学が公表していなかった退学率を調査し公表した。本研究ではその2008年と2018年のデータで大学を「改善」「悪化」「停滞」「順調」の4タイプに分け、タイプ別に退学率と教育改善策の関係を分析する。米国では1982年にニューヨークタイムス誌が大学ガイドを発表するなど大学情報の公開が進んでいる。日米の大学ガイドを比較し退学リスクの低い大学の特徴を明らかにする。
|
研究実績の概要 |
本研究では『大学の実力』掲載の私立大学を11年間の退学率の変化に着目して「改善」(高-低:退学率が高から低へ)、悪化(低ー高)、順調(低-低)、低迷(高-高)にグループ分けし、それぞれの特徴を明らかにすることを試みた。出欠管理、FD自己評価、ST比改善、習熟度別授業、SA(学生アシスタント)、学生授業評価などの教育改善策の有無と退学率の関係を調べた。個々の施策と退学率の間に明確な関係は見いだせなかった。たとえば出席管理に関し、A(原則全授業で毎回実施)の大学の比率は改善45% 、悪化68%、順調46%、低迷61%であった。退学率が高い大学が厳格な出席管理をしている。教育改善策で退学率が下がるという確証を得ることはできなかった。そこで学生に着目した。 学生は自分に合った大学選択をし入学後は学業に励み充実した学生生活を送ると考えられている。しかし実際には不適切な大学選択をしてしまった、学業に身が入らない、様々なリスク(不満、孤独、経済的困窮、成績不振、ハラスメント、病気、怪我、休学、退学)に直面した、などが原因で不本意な学生生活を送る学生は少なくない。 大学への期待と入学後の現実との不一致や理想との乖離を知るために国内外の関連資料を収集し文献調査をおこなうとともに高校生と大学生へのインタビュー調査を実施した。その結果、①自己管理能力など大人として生活するために必要な生活スキルの取得が十分でなく様々な問題に直面し休学や退学に至る危険があることと、②女子がジェンダーバイアスにとらわれて非合理的で不利なキャリアを選ぶ傾向があることが明らかになった。 本科研費による研究成果を大学教育学会、日本高等教育学会、大学行政管理学会、日本教育社会学会の年次大会で発表した。全メンバーは毎月の研究会に参加し研究成果の発表と検討を行ない、学会発表に際しては発表者の支援を行なった。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
退学率の11年間の変化で分けた大学グループと教育改革策の関係を分析したが、両者にはっきりした関係を見いだせなかった。退学防止に対して大学が導入実施可能な教育改善策で特効薬的な効果のあるものはないという知見を得た。この意味で研究は成果をあげたと言えるだろう。 次に大学の教育改善策ではなく学生の大学での生活や勉学に関する期待、知識、行動に着目して研究をおこなった。二つの新しい課題を得た。第1はサバイバルガイド(大学を生き抜くノウハウ教育)と、それを発展させた形の大人入門教育(大人の生活スキル入門教育)である。大学のカリキュラムは入学した学生が健全な学生生活を送り、授業で教員の指示に従いまじめに勉強すれば誰でも単位を取得でき卒業できるように設計してある。しかし学力不足、勉学習慣が身についていない、計画が立てられないなどの学生もいる。そのような学生は大学で学ぶ準備が十分でない学生という意味で「準備不足学生」と呼ばれている。彼らは退学予備軍である。米国では準備不足学生の研究は一定の蓄積があるが日本では見当たらない。多くの先進国では「大学を卒業するのは簡単ではない」ことが広く認識されており、大学時代を生き抜くための案内書が出版されている。さらにサバイバル術を発展させた大人術入門科目も大学で開設されている。 第2は女子の大学進学におけるジェンダー研究である。大学生の約半数を占める女子の退学率は男子よりずっと低いが、その理由を解明した先行研究はない。女子高校生がどのような経緯で大学進学しているのかをジェンダーの視点で分析した研究も行われていない。この課題を新しいテーマとして研究を行なうこととした。 サバイバル術と大人術の研究、および高校生の大学選択におけるジェンダーの研究という、当初は予想していなかった2つの新しくかつ重要な課題を得たことから研究は計画以上に進展していると考える。
|
今後の研究の推進方策 |
今後は2つの課題,①サバイバルガイドと大学入門科目の研究と、②大学進学におけるジェンダー研究を行なう。 ①サバイバルガイドは学生が大学生活を生き延びるためのガイドである。日本でも大学生の学習方法を指南する書籍は存在するが学業が中心であって、プライベートな生活を教えるガイドは見かけない。米国のサバイバルガイドには「大人術」ガイドを含むものがある。大人術とは米国の大学で開かれている「大人入門術科目」(Adulting101)という名称の授業科目で教えている大人の生活術(ライフ・スキル)である。その目的は学生が自立した大人として生活するのに欠かせない様々なスキルを教えることである。英語のアダルト(名詞)を動詞として「大人らしくふるまう」「大人として当然のことをする」という意味で使う用法が米国の若者の間で拡がっている。基本的には新入生対象のゼミ形式科目で、2016年ごろに登場し、受講生がふえている。準備不足学生が大学生活を生き延びるためにも効果的と考えられる。日本にはサバイバルガイドや大人入門の先行研究がない。日本でも導入すれば様々な効果が期待できると考えられるので、この課題の研究を推進したい。 ②大学生の約半数は女子だが日本では大学進学におけるジェンダーの影響に関する研究はほとんど行なわれていない。女子の退学率は男子より低いがそれを扱った研究はない。『大学の実力』にも男女別退学率はない。私立女子大学について集計すると平均は4.1%(n=61)で私立大全体の平均10.2%(n=459)の半分以下である。男子が女子大に入学できない以外、学生はどの大学、学部、学科でも自由に選べる。しかし女子の進学先には地元の大学が多い、理工系が少ない、看護師など資格系の大学、学部、専門学校が多いといった偏りが見られる。この偏りの理由を探るため高校生の進路選択についての研究を行なう。
|