研究課題/領域番号 |
23K02601
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分09060:特別支援教育関連
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研究機関 | 星美学園短期大学 |
研究代表者 |
竹森 亜美 星美学園短期大学, 幼児保育学科, 専任講師 (90882671)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
1,040千円 (直接経費: 800千円、間接経費: 240千円)
2025年度: 260千円 (直接経費: 200千円、間接経費: 60千円)
2024年度: 390千円 (直接経費: 300千円、間接経費: 90千円)
2023年度: 390千円 (直接経費: 300千円、間接経費: 90千円)
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キーワード | 書字 / 運筆 / 発達障害 / 感覚処理特性 / 自動化 / 感覚処理 |
研究開始時の研究の概要 |
文字を書いたり(=書字),線を引いたり(=運筆)する活動は,さまざまな学習の基盤となる。しかし,発達障害を抱える児童は,姿勢の保持や微細運動,協調運動の制御などに困難さを抱えやすいことが報告されている。また,感覚の過敏や鈍麻といった特有の感覚処理特性があることが広く知られている。これらのことから,発達障害児は,書く動作が「自動化」されづらく,書字への抵抗感や疲労感といった「書字負担感」が増大してしまうことが懸念される。本研究では,発達障害を抱える児童の感覚処理特性がどのように書字に影響を与えているのかを明らかにした上で,発達障害児が無理なく実施できる書字学習支援法を検討する。
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研究実績の概要 |
2023年度は「統制された場面での事例研究」として,発達障害を抱える小学生2名(研究参加者A・B)に対して運筆課題を実施した。 研究参加者Aは,「日本版感覚プロファイル」の結果,聴覚や身体動作において「低登録」の傾向を有していることが明らかとなった。介入では,運動調節を必要とする課題の導入により,一時的に主観的な「難しさ」「疲れ」の増加と「判読性の低下」というレベルギャップが生じたが,介入を継続するにつれていずれも減少傾向が見られた。また,判読性の高まりに比例して,所要時間も増加していく傾向が見られた。このことから,感覚に特異性のある発達障害児は,書字が熟達する過程において,速度や力加減の調整といったさまざまな要素に認知的資源を分配できるようになるため,課題の所要時間が増加し,書字における「難しさ」や「疲れ」といった負担感が高まりやすくなると考えられた。 研究参加者Bも,「日本版感覚プロファイル」の結果,聴覚や身体動作において「低登録」の傾向があり,聴覚や触覚には「感覚過敏」を有していた。介入により,迷路課題の逸脱率に減少傾向が見られ,課題の所要時間は増加傾向が見られた。課題実施時の様子から,介入期では自ら筆圧を調節しながら迷路課題に取り組んでおり,書字における運動調節の基礎的なスキルを習得することができたと考えられる。一方,「難しさ」「疲れ」の主観的評価は変動が見られなかった。行動観察では,身体全体に過度に力が入っている様子が見られることから,研究参加者Bはボディ・イメージが十分に獲得されていないために,自分自身の身体の状態を十分にモニタリングできていない可能性が考えられた。このことから,身体部位や各部位の動きをモニタリングすることが難しい発達障害児においては,事前にボディ・イメージを高める粗大運動等を実施してから,書字のような微細運動の介入を行う必要があることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2023年度は「統制された場面での事例研究」として,発達障害を抱える小学生2名(研究参加者A・B)に対して運筆課題を実施した。課題は,ベースライン期と介入期に共通して実施する迷路課題と,筆圧の濃淡を描き分ける介入課題から構成されていた。介入の効果は,研究協力者に「難しさ」「疲れ」の主観的評価を聞き取り,客観的な評価としては「所要時間」「逸脱率」「第三者による判読性の評価」を組み合わせた。「統制された場面での事例研究」は,「おおむね順調に進展している」と言える。また,事例研究では,運筆課題と粗大運動課題を組み合わせた書字学習支援プログラムの必要性が整理され,書字の自動化における「認知資源の分配」についての示唆を得ることができ,長年の懸念事項であった効果評価についても「書き出し」「切り替え」「止め」の3点に評価項目を絞ることで判読性の測定を行うことができた。これまでの事例研究の積み重ねにより,書字につまずきを抱える発達障害児の支援について,一定の傾向を見出すことができた。 また,日本特殊教育学会では,粗大運動課題として組み込む予定のプログラムについてポスター発表を行い,発達障害児の感覚処理特性や粗大運動について広く意見交換を行った。 現在,事例研究の結果を論文投稿するための作業を継続していることから,2024年度中には研究成果の公表が可能だと考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
2024年度は,前年度の研究知見をもとに,「他領域の専門家への聞き取り」を行う予定である。特に,発達領域を専門としている作業療法士と,実際に学校場面で指導を行なっている教員に聞き取り調査を行うことで,学校現場で個別支援を行うための教材やマニュアルを精緻化する。児童発達支援を行なっている施設や通級指導教室を有する学校などに研究協力の依頼を検討している。すでに,首都圏の複数の自治体において,教育相談・巡回相談・就学相談・研修等の臨床活動を行なっており,研究参加者の協力を得るためのフィールドは,開拓済みである。今後,研究実施者の所属機関にて研究倫理申請を受ける予定である。 研究協力を依頼する専門家は,現在も書字のつまずきを抱える児童を指導していることから,各専門家が担当している児童についての助言および介入プログラムの実施を求められる可能性もある。その場合, 2025年度に実施予定の「学校場面での事例研究」を前倒して行い,これまで「統制された場面での事例研究」で使用した教材・評価方法を活用する。前倒して事例研究を行う場合は,児童が実施する課題の郵送や記録などが必要となる。これらの予算は,専門家への聞き取り調査の回数を減らし,研究協力者への謝金やテープ起こしの費用のために充てていたものから執行する予定である。 また,2023年度の事例研究の参加者から継続した書字学習支援のニーズが挙げられた場合にも,個別の課題を実施する。
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