研究課題/領域番号 |
23K02792
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分09080:科学教育関連
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研究機関 | 宮崎大学 |
研究代表者 |
有井 秀和 宮崎大学, 教育学部, 教授 (80384733)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,550千円 (直接経費: 3,500千円、間接経費: 1,050千円)
2025年度: 390千円 (直接経費: 300千円、間接経費: 90千円)
2024年度: 390千円 (直接経費: 300千円、間接経費: 90千円)
2023年度: 3,770千円 (直接経費: 2,900千円、間接経費: 870千円)
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キーワード | ろ紙電気泳動 / イオン / 流体半径 / 定量化 / 電気泳動 / イオンの大きさ / イオンの電荷 / 可視化 |
研究開始時の研究の概要 |
中学校の学習指導内容の「水溶液とイオン」において、イオンは原子が電子を放出する、あるいは原子が電子を受け取ることにより生じる化学種であり、電気泳動によりイオンが帯電していることを確認している。電気泳動ではイオンが電場の中で力を受けて移動しており、イオンの大きさあるいは価数に依存して移動距離が変化することが知られている。本研究では、従来まで定性的な実験として行われていた電気泳動に定量性を加えることを目的とし、一般的な金属イオンや錯塩を利用した電気泳動実験の確立を目指す。また発色団を持つ配位子の導入により、無色イオンの可視化も試みる。
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研究実績の概要 |
イオンの電気泳動は、中学校の理科で学修するイオンの理解に用いられる実験手法の一つであり、ろ紙上で行うと陽イオンと陰イオンがそれぞれ対応する極へ移動することが観察できる。イオンは元素により大きさや電荷が異なるため、これらのことがろ紙電気泳動で観察できれば、より深くイオンを理解できることが期待される。本研究では、ろ紙電気泳動でイオン半径や電荷の大きさを定量的に評価することを目的とし、一般的な金属イオンや錯塩を利用した電気泳動実験の確立を目指す。また発色団を持つ呈色試薬の導入により、無色イオンの可視化も試みる。 研究の実施は、(1)銅(II)イオンによる実験条件の最適化と遷移金属イオンを用いた流体半径の算出、(2)錯イオンを用いた流体半径の算出と異なる電荷イオン間での評価、(3)児童・生徒との実験とイオンに対する理解度調査、の順で進めていく。令和5年度は、(1)の銅(II)イオンによる実験条件の最適化と遷移金属イオンを用いた流体半径の算出、について検討を行った。ろ紙電気泳動でイオンの流体半径を算出する場合、泳動距離とそれに要した時間を正確に測る必要がある。そこで塩化銅(II)を用いて銅(II)イオンの電気泳動を行い、実験条件の最適化を行った。最適条件下での銅(II)イオンの流体半径は3.1x10-10mであり、既報とほぼ同じ値が得られた。またその他の遷移金属イオンとしてコバルト(II)イオンとクロム(III)イオンを行うとそれぞれ3.4x10-10mと4.2x10-10mの流体半径が得られた。クロム(III)イオンは既報の値である3.7x10-10mと比べるとやや大きく今後の課題であるが、これらの結果はろ紙電気泳動においても金属イオンの流体半径を見積もることが可能であることを示している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
電気泳動においてイオンの大きさ(流体半径)と電荷は、一定時間中にイオンが泳動される距離に関与することが知られている。このことはろ紙で行う電気泳動においても適用されると考え、実験を行った。塩化銅(II)を用いて銅(II)イオンの電気泳動を行うと、二つの電極の中央に塩化銅を置く方法により、泳動された銅(II)イオンの泳動距離が大きく影響を受けた。流体半径を精度良く求めるためには泳動距離の高い再現性が必要であったため、塩化銅(II)の置き方を検討した結果、10-20mmol/L程度の塩化銅溶液を染み込ませたろ紙を電極間中央に置く方法で、誤差の小さい流体半径を得ることができた。得られた銅(II)イオンの流体半径は3.1(2)x10-10mであり、既報のものと比べると誤差の範囲内で一致していた。 同様の方法で他の有色遷移金属イオンでの測定も試みた。塩化コバルト(II)と硝酸クロム(III)を用いて電気泳動を行い流体半径を求めると、それぞれ3.4(4)x10-10mと4.2(2)x10-10mであった。既報の結果と比べると、コバルト(II)イオンは誤差の範囲内で一致しているが、クロム(III)はやや大きかった。ろ紙電気泳動を行う際は支持電解液として0.1mol/LのKNO3水溶液を用いているため、イオンの電荷が大きくなるとイオン間の静電相互作用が泳動距離に影響する可能性もあり、今後の検討課題である。金属間での差を比較すると、既報の数値の関係と同じ傾向を示しており、金属イオンの流体半径の大きさをろ紙電気泳動でも比較できることが明らかとなった。
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今後の研究の推進方策 |
令和6年度の予定では研究概要の(2)の錯イオンを用いた流体半径の算出と異なる電荷イオン間での評価、を行う予定である。三つの金属イオンで流体半径を算出できたので、配位子を有する錯イオンでも算出可能かどうか、検討を進めていく。配位子の大きさは変更可能なので、同じ中心金属を用いて流体半径を変えることができるため、純粋な流体半径のみの変更が可能である。また同じ配位子を用いて中心金属の電荷のみを変えた錯イオンを合成し、電荷の大きさが泳動により観測できるか、検討を進めていく。加えて令和5年度の研究結果から課題として上がった支持電解質の影響についても検討し、用いる支持電解質の種類や濃度を変えることで支持電解質の影響が少ない手法を模索する。
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