研究課題/領域番号 |
23K02841
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分10010:社会心理学関連
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研究機関 | 関東学院大学 |
研究代表者 |
大友 章司 関東学院大学, 人間共生学部, 准教授 (80455815)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
3,510千円 (直接経費: 2,700千円、間接経費: 810千円)
2025年度: 1,170千円 (直接経費: 900千円、間接経費: 270千円)
2024年度: 1,170千円 (直接経費: 900千円、間接経費: 270千円)
2023年度: 1,170千円 (直接経費: 900千円、間接経費: 270千円)
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キーワード | 摂食行動 / 社会的マーケティング / 衝動性 / 習慣 / 災害関連行動 / リスク / 動機システム / 不健康な食行動 / 安全確保行動 |
研究開始時の研究の概要 |
本研究では、不健康な生活習慣や安全確保行動におけるリスク格差行動について、a) 行動文脈が動機形成に及ぼす影響が、b)空間軸×時間軸で可変的に生じていることを明らかにすることで、いつ、どこで格差が生じているのかの場面を特定化するための研究を実施する。グラウンデッド認知モデルに基づく行動文脈が動機システムの枠組を、動機的ニーズマッピングの評価手法を応用することで実証的に検討する。それにより、リスク格差行動が、動機を形成する行動文脈そのものがリアルタイムに変動することにより生じる動的な現象であるという新たな枠組を構築し、現実問題の格差解消のための社会的マーケティングを実現する。
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研究実績の概要 |
本研究では健康問題や災害問題におけるリスク格差行動の社会的マーケティングの構築を目標に、グラウンテッド認知モデルによる動機システムの枠組みと、変動型のニーズを捉える動的ニーズマッピングを応用した研究を計画している。2023年度は、不健康で誘惑的な食品が溢れているフードアウトレット効果によるリスク格差行動を生じさせる生活環境問題を対象に、動機を取り巻く行動文脈の影響力の観点から検討する研究を実施した。具体的には、空腹でなくても食べてしまう代理摂食である菓子の摂食行動を対象に、2時点の縦断的web調査を実施した。調査では、菓子の摂食行動を食物摂取頻度法によりエネルギーベースで測定し、それらに対して、内的要因である味覚傾向、自己制御、習慣、衝動性と、環境要因である行動の安定性、食品のアクセシビリティがどのように関連するのかを検討した。その結果、菓子の摂食行動は、行動の安定性や食品のアクセシビリティと強く関連しており、内的要因との直接的な関連は強くなかった。その一方、行動の安定性は、衝動性のいくつかの側面によって摂食行動との関連性が調整されていた。このように、菓子の摂食行動の動機システムが内的要因と環境要因の相互作用より形成されていることが確認された。 また、健康リスク行動の研究の一環として、マスク着用行動の動機的プロセスの研究も実施した。マスクの着用行動が習慣化し、安定的に行動する傾向が強くなる一方、熱中症等の健康リスクには無頓着になる皮肉的な現象が明らかにされた。災害関連行動の研究ではモデリング解析を行い、災害の遭遇場面により行動パターンが変化する動機的ニーズマッピングが検討された。以上、社会的マーケティングを実現するための実証的な研究を行い、次年度以降の研究に発展させる成果を得ることができた。本研究成果の一部は、2024年の国際心理学会や日本社会心理学会で発表予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
食物摂取頻度法のエネルギー換算の観測方法が変更になったため、新たに摂食行動の測定方法を構築する必要があった。そのため、2023年度では、2時点の縦断的調査により、新たな摂食行動の測定と、その影響要因である環境要因、内的要因との関連性の検討を行った。その際、内的要因として、日本語版S-UPPS-P衝動行動尺度を加えて、衝動性が摂食行動に及ぼす影響を分析した。その結果、内的要因および外的要因と摂食行動との関連性が確認され、摂取エネルギーベースの客観的な行動データに基づく予測モデルの妥当性を確認した。また、衝動性による行動の安定性の摂食行動への影響の調整効果が確認された。負の切迫性や刺激欲求は高い人ほど、行動の安定性と摂食行動の関連性が強くなり、忍耐の欠如や熟慮の欠如が高い人は、行動の安定性と摂食行動の関連性が弱くなっていた。摂食行動が忍耐や熟慮の欠如といった場当たり的な衝動的要因に左右されやすいことが示唆された。摂取エネルギーベースでの菓子の摂食行動の測定を可能にしただけなく、衝動性と行動の安定性の相互作用による動機システムの新たな側面についても明らかにすることができた。これらは次年度以降の経験サンプリングのモデル研究に発展させる重要な成果となった。 さらに摂食行動の関連研究として、味覚教育が及ぼす効果の研究成果が論文としてまとめられた。災害関連行動では、災害時のイメージの防災行動への効果を検討した論文がまとめられた。また、防災行動の動機的要因のモデル研究や、災害時の安全確保行動を左右する内的要因を検討した研究が国内学会で発表された。レジリエンスや習慣が健康リスク問題への適応に及ぼす影響の研究が国際学会で発表がされた。以上のように、新たな測定方法によるモデル構築だけでなく、動機システムを検討する実証的な研究成果の発信を行った点を鑑みて、「おおむね順調に進展している」と評価した。
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今後の研究の推進方策 |
2023年度では、次年度以降の計画に向けて、調査システムの仕様変更への対応や食物摂取頻度法の基準の変更へ対応するため大幅な測定方法の更新を行い、新たな研究デザインを用いた行動予測モデルの妥当性を検証した。その結果、衝動性要因の調整効果など、個人的要因と環境要因の相互作用による動機システムを検証するための精度の高いモデルを構築することができた。災害関連行動では、実証的データを用いて空間軸×時間軸の動的ニーズマッピングのモデルの有効性を確認した。これらの成果を踏まえて、2024年度では、リアルタイムの計測手法である経験サンプルングを用いた、空間軸×時間軸で可変的に作用する動的ニーズの格差を検証する社会的マーケティングの研究を行う。その推進方策として、健康リスク行動と災害関連行動の測定プログラムを共通化することで、システム構築の時間的、費用的コストを削減し、研究の実効性を高める。さらに、これまでの縦断的調査では、測定手法の限界から環境要因と行動との関連性が強くなる傾向があった。経験サンプリングによるリアルタイムの計測により、内的要因である動機と行動との関連性を変動要因として捉えることを可能にする。健康リスク行動では、菓子の摂食行動を食物摂取頻度法の応用した摂取エネルギーベースの測定と衝動性などの内的特性を含めた動機システムの変動を計測する研究を実現する。災害関連行動では、風水害の災害状況の変化のシナリオをリアルタイムの時間軸と連動させ、警戒レベルごとの安全確保行動の人々の行動選択の動機システムの変動を計測する研究を実施する。 以上の推進方策に加え、これまでの研究成果を積極的に公表していく取組も行う。2024年度の国内外で研究発表を行うだけなく、Journal of Risk Researchなど国際誌に論文を投稿することで、研究プロジェクトの評価をより高めていく活動も進めていく。
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