研究課題/領域番号 |
23K03005
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分10040:実験心理学関連
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研究機関 | 専修大学 |
研究代表者 |
大久保 街亜 専修大学, 人間科学部, 教授 (40433859)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2028-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,680千円 (直接経費: 3,600千円、間接経費: 1,080千円)
2027年度: 1,300千円 (直接経費: 1,000千円、間接経費: 300千円)
2026年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
2025年度: 650千円 (直接経費: 500千円、間接経費: 150千円)
2024年度: 1,040千円 (直接経費: 800千円、間接経費: 240千円)
2023年度: 780千円 (直接経費: 600千円、間接経費: 180千円)
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キーワード | 表情 / 社会的機能 / 顔の信頼感 / 笑顔 / 信頼感 / 顔認知 / 文化 |
研究開始時の研究の概要 |
本研究では、「笑いによる信頼シグナル偽造説」の更なる検討のため、Martin et al. (2017)による表情の社会機能アプローチを援用し、信頼を偽装する笑顔の特徴を(1)対戦ゲー ムにおける表情筋の分析、(2)顔写真に対する信頼感の評定などの行動実験、(3)ベイジア ン・フィルタによるシミュレーションと分類、(4)多様性の差異に着目した日豪比較を中心とする文化比較を通じて検討する。
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研究実績の概要 |
笑顔は感情の表出であるだけでなく、社会的機能を有する。すなわち人間関係において重要な役割を果たす。例えば、自分の欲求や相手の要望に対する反応として笑顔を持ちいることで、コミュニケーションを円滑にしたり、人間関係における信頼を高めるなどの効果があることが知られている。申請者は、これまでの研究において金銭のやり取りで相手に損害を与えたり、相手を騙したりする人々が、偽りの笑顔で信頼感を高め不当な利益を得ることを見出した。そして、その結果に基づいて「笑いによる信頼シグナル偽造説」を立案した。ただし、笑顔には微笑みから高笑いまであり、種類も強さもさまざまである。また、愛想笑いから、軽蔑の笑いまで社会的機能も様々にある。これまでの研究では、どのような笑顔が信頼シグナルを偽装するか明らかでなかった。本研究では、Martin et al. (2017)による表情の社会機能アプローチを援用し、どのような笑顔が信頼を偽装するか検討した。Martin et al. (2017)は笑顔について、社会的機能から(1)報酬、(2)連繋、(3)支配の3つがあること、そして、それぞれに特徴的な表情筋の動きがあることを報告した。本研究では、Martin et al. (2017)による社会的機能に基づいた笑顔の分類に基づき、信頼シグナルを偽装する笑顔の特徴を実証的かつ多角的に検討する。心理学で伝統的な行動実験に加え、画像を用いる表情筋解析といった情報工学的アプローチ、ベイジアンフィルタを用いる統計工学的アプローチを用いる。そして異文化比較なども行う予定である。信頼を偽装する笑顔について、表情筋を含む客観的特徴とコミュニケーションにおける役割を解明し、日常への提言を試みる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度は、これまでの研究で撮影した表情画像について、画像解析を行った。具体的には、Okubo et al. (2017)で撮影した信頼できる表情を浮かべてもらった81人の顔写真について表情筋の動きを分析した。81人のモデルについて、信頼ゲームの成績を使用し、それぞれの信頼感を算出した。ゲームの対戦相手に損害を与え、自分の利益とする選択をした回数を信頼感の指標とした。その回数が少ないほど信頼感が高く、その回数が多いほど信頼感が低いこととなる。顔画像解析ソフトウエアOpenFace2.2.0を使い撮影された写真それぞれについて表情筋の動きを解析した。今年度は笑顔の特徴である大頬骨筋の収縮に焦点を絞った。信頼、連繋の笑顔では、大頬骨筋の収縮について右側と左側に差はほとんどなく、口角の左右どちらも同じくらい上昇し、結果として左右対称な笑いとなることが知られている(Martin et al., 2017)。一方、支配の笑顔については、大頬骨筋の収縮が左右どちらか一方で大きくなり、結果として、非対称な笑いとなる(Martin et al., 2017)。そこで、今年度は、大頬骨筋の収縮に伴う笑顔の非対称性と、信頼ゲームの成績から算出した信頼感との関係について、重回帰分析を用いた解析を行った。報酬の笑顔により信頼シグナルを偽装するなら、裏切り回数が多いほど口角の上昇が左右対称になると予測され、この結果は支持された。解析結果をまとめた論文は、現在、英語論文として国際的な学術雑誌に投稿され、審査を受けている。
また、次年度に実施予定である顔の評定課題顔に関する基礎的な情報を収集するため、顔の向きの効果に関する予備的な研究を行った。予備的な研究から思わぬ成果が得られたため、国際的な学術雑誌であるiPerception誌に投稿し、掲載された。
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今後の研究の推進方策 |
初年度において、顔写真に対する画像解析は一定の成果を上げることができた。この成果は現在投稿中である。ただし、一般論であるが、投稿された学術論文がそのまま採択されることはほぼない。今後、投稿した論文の改稿作業に大きな時間を取られることになるだろう。また、広くこの成果について研究者コミュニティーで認識をしてもらうため、左右差に関する国際学会であるNorthsea Laterality Meeting で口頭発表を行う予定である。すでに抄録は提出済みで口頭発表として採択された。学会の2024年に8月スコットランドで開催される。
初年度に行った顔写真に対する画像解析について一定の成果は得られているので、それらと報酬、連携、支配の3つの笑顔に対する観察者の認知の関連について、さらなる検討を進める。顔写真を用いた評定課題を行い、と報酬、連携、支配の3つの笑顔にどの程度当てはまるか参加者に判断をしてもらう。評定項目については、Rychlowska et al., 2017の質問項目を参考に作成予定である。また、それぞれの顔写真について信頼感についても評定を行う。「笑いによる信頼シグナル偽造説」から予測すると、信頼感の低い人物の信頼できる顔は、報酬の笑顔と判断されがちと予測される。これらの関係と評定された信頼感との関連を検討する。また、初年度に測定した笑顔の非対称性が、3つの笑顔の評定(報酬、連携、支配に関する評定)にどのように寄与するかも検討する予定である。
2024年度、申請者はニュージーランドにあるVictoria University of Wellingtonに在外研究のため1年間滞在する予定である。評定課題の進行状況にもよるが第5年度に計画されている異文化比較を前倒しで実施することも視野に入れて研究を進める予定である。
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