研究課題/領域番号 |
23K03017
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分10040:実験心理学関連
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研究機関 | 杏林大学 |
研究代表者 |
渥美 剛史 杏林大学, 医学部, 助教 (90781005)
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研究分担者 |
井手 正和 国立障害者リハビリテーションセンター(研究所), 研究所 脳機能系障害研究部, 研究員 (00747991)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,680千円 (直接経費: 3,600千円、間接経費: 1,080千円)
2025年度: 1,560千円 (直接経費: 1,200千円、間接経費: 360千円)
2024年度: 1,560千円 (直接経費: 1,200千円、間接経費: 360千円)
2023年度: 1,560千円 (直接経費: 1,200千円、間接経費: 360千円)
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キーワード | 自閉スペクトラム症 / 感覚過敏 / 予測符号化 / マウスモデル / MRI / rTMS / MRスペクトロスコピー / 時間認知 / 自閉症 |
研究開始時の研究の概要 |
脳は、外界の予測モデルを入力情報に基づき適宜修正することで、感覚知覚を形成する神経レベルの推論を行っているとされる。神経の興奮/抑制バランスの変調は適切なモデル更新を妨げ、感覚信号の過剰な見積もりを生じうる。自閉スペクトラム症(ASD)では、感覚過敏が喫緊の課題であるが、脳内の抑制機能低下が広く報告されている。我々は、高次脳領域での抑制低下が適切な予測生成を妨げ、感覚刺激への過剰な応答を誘導すると考えた。本研究では、ASD者の予測生成困難と抑制低下が感覚過敏につながることを心理物理実験と脳イメージングにより明らかにし、磁気刺激介入やモデルマウス実験から、そのより因果的な関係を詳らかにする。
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研究実績の概要 |
自閉スペクトラム症(ASD)では、感覚過敏のような感覚の問題が喫緊の課題である。ASDの病因として、中枢神経系の興奮/抑制比の増大が考えられるが、それがどのように過敏性を生じているのかは明らかではない。 ASDの病態へ感覚入力に対する予測生成困難の関与が指摘されている。そこで、感覚過敏と時間処理精度が関連することから(Ide et al., 2019;Yaguchi et al., 2020)、予期せぬ刺激の呈示が時間認知に与える影響について分析した。実験では、視覚の時間順序判断(TOJ)課題の遂行中、標的刺激の周辺へノイズ刺激が与えられた。その結果、背景ノイズの強度増大に伴い時間処理精度は低下したが、定型発達(健常)群と比してASD群でそれが小さく、予期せぬ刺激が処理精度へ影響を与えづらい傾向にあった。またASD群では、質問紙で評価される感覚過敏の重症度が高く、感覚刺激の処理における予測生成の不全が過敏性に関与していることが推測された。 次いで、予期せぬ刺激の呈示が時間認知へ与える影響について、マウスをモデルとして自閉症リスク遺伝子の変異との関連を分析した。我々は、課題に無関係な視覚刺激呈示が、触覚標的刺激の時間順序の知覚を変容させるというPrior entry効果をマウスで見出している(Atsumi et al. in revision)。そこで、時間認知への関与が指摘されるBDNFの分泌を制御するCaps2遺伝子の欠失マウスを用い、TOJ課題への影響を分析した。通常の触覚TOJ課題では、Caps2欠失マウスでは時間処理精度が野生型マウスと比して低下している傾向にあった。Prior entry実験では、予期せぬ視覚刺激呈示により、強く判断がバイアスされた。時間処理精度が低い感覚鈍麻様なモデルマウスにおいては、予期せぬ感覚刺激には強く影響を受けることが推察された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究初年度に計画していた、予測性と感覚刺激処理との関連についての行動解析をこれまでの実績に基づき着実に進め、データが得られている。また、研究2年目に計画していた脳イメージングやMRスペクトロスコピーを用いた解析についても、障害当事者を対象に予備データを取得し始めている。研究初年度に実施した、予期せぬノイズ刺激が時間処理に与える影響については、定型発達者を対象に、頭部への磁気刺激が課題に与える影響を予備的に検討している。ASD当事者における興奮/抑制比の増大が予測性や過敏性へ与える影響を分析するため、行動抑制を評価する課題や、感覚刺激による学習から直接予測生成の過程を分析可能な実験プログラムも作成した。マウス研究では、自閉症リスク遺伝子の一つであるShank3の変異型系統を導入した。Shank3は、その欠失により中枢神経系での興奮/抑制バランスの増大や、感覚過敏様反応がみられる。研究3年目にかけてのモデルマウス実験において、必要な環境が整いつつある。マウスにおける侵襲的な実験では、抑制性神経活動を担うGABA受容体の拮抗薬を投与し、興奮/抑制バランスの不均衡が時間処理に与える影響を分析している。
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今後の研究の推進方策 |
研究初年度で得られた、予期せぬ刺激の呈示がASD者の時間処理に与える効果について、MRIを用い、予測誤差の検知や情動処理に関わる島皮質の活動との関連を分析する。我々は以前、ASD者における高い時間処理へ、特に左側腹側運動前野が関与していることを見出している(Ide et al., 2020)。この部位におけるGABA濃度の低下は、感覚過敏の高さとも関連がみられている(Umesawa et al., 2020)。運動前野は島皮質との双方向な解剖学的接続があり、これら神経回路における抑制性の低下が、ASDにおける予測生成の低下と感覚過敏の増強に関与していることが推測される。 そこで、機能的MRIを用いて、予期せぬ刺激呈示が時間処理に与える効果について脳イメージングによりその神経相関を明らかにし、MRスペクトロスコピーによりその関連脳活動へGABA濃度の低下が関与していることを明らかにする。また、初年度に作成した予測生成過程を直接評価する課題と行動抑制を評価する課題を併用し、MRI実験の結果との関連を精査する。さらに、初年度に進めていた磁気刺激実験について、サンプル数を増加させ、運動前野における神経可塑性が時間処理における予期せぬ刺激呈示の効果へどのように影響を与えるかを詳細に分析する。 マウス実験では、導入したShank3について時間処理特性を分析し、研究初年度に得られたような、予期せぬ刺激呈示が時間認知に与える影響をモデルマウスにおいて明らかにする。そのうえで、島皮質を中心とした神経回路における興奮/抑制バランスの変調が、刺激の予測性や処理精度の向上にどのように影響を与えるか、電気生理学・薬理学的な分析を進める。
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