研究課題/領域番号 |
23K03162
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分12020:数理解析学関連
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研究機関 | 茨城大学 |
研究代表者 |
梅津 健一郎 茨城大学, 基礎自然科学野, 教授 (00295453)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
2,470千円 (直接経費: 1,900千円、間接経費: 570千円)
2025年度: 780千円 (直接経費: 600千円、間接経費: 180千円)
2024年度: 780千円 (直接経費: 600千円、間接経費: 180千円)
2023年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
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キーワード | 非線形楕円型境界値問題 / 劣線形境界条件 / ロジスティック反応項 / 正値解 / 変分解析 / 分岐解析 / 沿岸漁業収穫 / 非線形境界条件 / ロジスティック方程式 |
研究開始時の研究の概要 |
閉じた滑らかな領域において,人口動態論の沿岸漁業収穫に由来する非線形楕円型境界値問題を研究する.領域に対して領域の境界が沿岸を意味し,その収穫の様子は境界上においてある非線形境界条件によって定式化される.領域での魚量を表す境界値問題の非自明非負解(非負解であることが応用上意味がある)が収穫努力に従ってどのような振る舞いを示すかを解析学における最新の非線形理論を用いて考察する.収穫努力を表すパラメータに従った非自明非負解集合の大域的構造を明らかにすることによって,沿岸漁業収穫が魚量に与える影響を数理解析的に理解する.
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研究実績の概要 |
非線形境界条件を用いて沿岸漁業収穫現象をモデル化する.領域内部の魚量が,拡散効果を加味したロジスティック方程式に従っている.領域境界における沿岸漁業収穫モデルは D. Grass, H. Uecker, T. Upmann (2019)によって提唱された.この提唱はコブ・ダグラス生産関数に基づく.このとき,正値パラメータの変化に依存した非自明非負解(以下,解)の特性を研究した.ここで,正値パラメータは漁業収穫の効果を表す物理量である. ディリシレ固有値問題の第一固有値にしたがって,すでに次の結果が研究代表者により得られている.第一固有値が1より小さいとき,非自明非負解集合(以下,解集合)は単純であり,パラメータに関して解の大域的存在が成り立つ.また,解の大域的一意性が期待される.他方,1より大きいとき,解集合は単純とは言えず,十分大きいパラメータ値に対して解の非存在が成り立つ.また,十分小さいパラメータ値に対しては解の多重性が成り立つ.より詳しくは,解集合において折り返し点をもつ連続体が存在する. 今年度は,臨界条件である,第一固有値がちょうど1のときに解の存在およびそのパラメータ依存性を研究して,非臨界条件の場合に対応する結果を得た.非線形理論の標準的な手法は直接使えないため,変分解析および分岐解析において臨界版に向けた理論の改良を行った. 2023年7月に,当該分野における指導的な研究者であるJulian Lopez-Gomez教授 (Universidad Complutense de Madrid, Spain)を本研究課題助成により茨城大学金曜セミナーに招聘した.Lopez-Gomez教授には表題「Nodal solutions for a class of degenerate BVP's」により講演を依頼した.講演の際,分岐解の構成について貴重な知見を得た.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
臨界状況における困難さは次の2点である. (1)非自明非負解の漸近挙動は0に崩壊することが必要である.このとき,ディリシレ固有値問題の第一固有値に付随する非負値固有関数に向かって,解の正規化はあるノルムを保存しながら収束する.結果として,このことが臨界状況においてある種の共鳴を生じさせ,議論の展開に障害を与えた. (2)解析対象の非線形境界条件は自明解のまわりで特異性をもつ.そのため,標準的な分岐理論を直接適用することが困難であった. (1),(2)の困難さを克服するために,(1)に対しては非負値固有関数を用いた関数空間の直交分解を考えた.補空間において方程式を解析して,ある種のエネルギー不等式を導いた.このエネルギー不等式を用いて解の先験的な漸近挙動を評価した.(2)に対しては問題の正則化を考えた.正則化問題に対して分岐理論を適用して分岐解を得た.加えて,分岐解の特性を評価した.その後,位相的手法に基づく極限操作により,もとの考察対象の問題に帰着した.このようにして非自明非負解集合を特徴付けた.実際,第一固有値がちょうど1であるという臨界状況において(これは1次的要因),べき乗型非線形境界条件のべき値の分類によって(これは2次的要因),本質的に異なる3種の非自明非負解集合の姿が明らかになった.この結果はすでに得られている非臨界状況のそれと矛盾がないことが確認できた.
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今後の研究の推進方策 |
非負解の安定性の考察を行う.自明解の安定性については,いまだに十分な結果を得られていない.強正値性をもつ正値解のクラスに制限して議論を行うとき,優解劣解の構成による比較原理によって安定性の議論は有効に進む.しかし,境界でゼロ点をもつ非自明非負解を含めるとこの議論はうまく働かない.他方,線形化安定性の議論に乗せることを検討しても,非線形境界条件が自明解のまわりでフレッシェ微分可能でないので方程式の線形化を行うことができない.収穫効果が小さいところでは漸近安定な正値解が存在することは得られている.自明解が安定であることを検証できれば,双安定現象(条件付き生存)を確立することができて応用上意義深い.現在は,先行研究の技法の改良を探っているのと同時に,新たな技法のヒントを得るために研究協力者と議論を重ねている. ところで,現在の設定では境界で一様な収穫効果を仮定している.問題の改良版として変係数を導入して,境界の場所毎に収穫効果の重みを付ける設定は応用上より現実的であり興味深い.
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