研究課題/領域番号 |
23K03184
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分12020:数理解析学関連
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研究機関 | 広島大学 |
研究代表者 |
川下 美潮 広島大学, 先進理工系科学研究科(理), 教授 (80214633)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2028-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,680千円 (直接経費: 3,600千円、間接経費: 1,080千円)
2027年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
2026年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
2025年度: 1,170千円 (直接経費: 900千円、間接経費: 270千円)
2024年度: 780千円 (直接経費: 600千円、間接経費: 180千円)
2023年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
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キーワード | 時間依存型逆問題 / 近似解 / 漸近解 / 指数減衰誤差評価 / 空洞状態推定 / 介在物推定 |
研究開始時の研究の概要 |
時間依存型微分方程式に対する逆問題を囲い込み法で考察する際、穴や介在物などの内部情報は、観測データから定義される指示関数におけるパラメータを大きくするときの漸近挙動の解析を通じて取り出される。この漸近挙動の主要項は近似解を構成することで取り出せるが、問題はこの近似解と真の解との間の誤差評価を与えることにある。これらの逆問題では、基本的に考えている問題設定における「最短の長さ」が検出されるため、通常の方法による多項式程度の減衰評価は有効でない。この研究ではこれらの逆問題に応用可能な指数減衰型の誤差評価について研究し、時間依存型問題に対する逆問題において新たな知見を得ることを目指す。
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研究実績の概要 |
本研究の目的は時間依存型微分方程式に対する逆問題の囲い込み法による考察時に必要な近似解に対する指数減衰型の誤差評価方法の開発と検討である。数学的な逆問題の扱いでは、構成した近似解と真の解との間の誤差評価が重要である。対象の逆問題では、観測データを与え・採取する場所と推定したい構造物との間の距離(2点間の最小値)がスペクトルパラメータについて指数関数型の減衰項として現れる。そのため、誤差についてもそれよりも小さくなることを示す必要がある。これまでの微分方程式論における研究では、一般に、指数関数型誤差評価の導出は厳しいことが知られている。空洞の場合に限っては、ポテンシャル論により解を構成することを通じてこの問題を克服したが、その方法は空洞推定問題以外では機能しない。介在物推定問題などの他の場合にも適用可能な誤差評価方法が必要であり、この開発が本研究の目的である。 本年度は研究開始初年度であった。そのため、本研究の前段階に当たる研究課題で考察していた散乱型逆問題についての研究状況の整理を行った。前研究課題は新型コロナウイルス感染症の影響のため延長したが、本研究課題と密接に関係があるため同時に研究を行った。内部推定の対象としては主に空洞と介在物がある。今年度は空洞のみの場合に限定して考察を行った。空洞の情報を取り出すために漸近解を用いて反射波に対応する近似解を構成し、問題の核心である誤差評価を行った。境界が十分なめらかな場合は誤差評価は容易だが、微分可能性が少ないときの対応が問題であった。これについて、少なくとも4回微分可能の場合には誤差評価が完成し、最終的な結論を導いた(現在論文投稿中)。次は微分可能性がより弱い場合も同様の扱いが可能であるかどうかについて検討することが問題になる。この問題の考察の準備ができたのは今年度の重大な成果であると考えている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これまで継続して研究を続けていた空洞推定問題に限っても、空洞の境界の微分可能性が少ないときの対応が問題になっていた。「研究実績の概要」欄で述べたように、少なくとも4回微分可能の場合には誤差評価が完成し、自然な結論を得ることができた。その知見およびこの結論に至るまでの研究の蓄積から推察すると、もし微分可能性を2回微分可能まで弱くしたら、かなり難しくなり、今回開発した方法も適用できないことが予想される。しかし、2階導関数にヘルダー連続性を仮定すれば、従来の方法のままでは対応できないとは思われるが、議論を変更することにより、この場合はおそらく対応可能であるという見込みがほぼついている。ただ、この変更された議論はこれまでのものより込み入っているので、細部まで問題がないことについての検証が必要で、現在、この作業を行っている。まだ、介在物などの他の状況には対応出来てはいないが、当初計画から見て第一関門と見ていた空洞推定問題については無事解決したと考えている。このような状況を総合的に判断して、現在までの進捗状況は順調であると結論した。
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今後の研究の推進方策 |
令和5年度は概ね順調に研究が進展した。当初計画では、これまでの研究において得た誤差評価法を介在物も含む場合に適用し、パラメータ付きの楕円型正則性評価と超局所解析の手法を元にした方法が通用するかどうかを明らかにすることが次の課題として予定されていた。しかしながら、空洞推定問題であっても、まだ空洞の境界については4回微分可能性を必要としている。令和5年度の研究を通じて、この仮定はもう少し緩めることができそうな感触を得た。そこで、境界の微分可能性を2回とし、さらに2階導関数にヘルダー連続性があるという状況下で同様の結論が得られることを目指したい。当然、指示関数の主要項はこれまでと同じなので、最終的な結論は変わらない。問題は近似解の構成方法の研究、及び、近似解と真の解との間の誤差評価の可能性や方法について検討することである。境界の微分可能性をより弱めた場合は、これまでとは別の方法が求められるが、それについては恐らく克服できると考えている。令和6年度は、最初にこの問題に取り組みたい。 それが終わった次の段階が、誤差評価方法を上記の介在物も含む場合に適用し、パラメータ付きの楕円型正則性評価と超局所解析の手法を元にした方法の適用可能性について調べることになる。しかし、逆問題の設定上で重要になる別の問題がある。これまでは、反射波について近似解を漸近解を用いて構成していたが、入射波に当たるものはヘルムホルツ型方程式の基本解をそのまま利用していた。こちらについても近似解で代用できるかどうかについて検討することも必要である。もちろん、この場合も真の解との誤差の部分がどのようになるかが重要で、問題はこれまで扱っているものとほぼ同じである。このことに注意して、入射波の扱いについても改めて検討したい。
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