研究課題/領域番号 |
23K03222
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分12040:応用数学および統計数学関連
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
大川 博督 早稲田大学, 高等研究所, 准教授(任期付) (40633285)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
1,430千円 (直接経費: 1,100千円、間接経費: 330千円)
2025年度: 390千円 (直接経費: 300千円、間接経費: 90千円)
2024年度: 780千円 (直接経費: 600千円、間接経費: 180千円)
2023年度: 260千円 (直接経費: 200千円、間接経費: 60千円)
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キーワード | 境界値問題 / ニュートン法 / 非線形最適化 |
研究開始時の研究の概要 |
本研究の目的は、近年新たに提案されたニュートン法の拡張であるW4法を応用した最適化ソルバーを用い、これまで実現できなかった安定かつ高速で実用的な高密度天体の構造解析手法を確立することである。非線形連立方程式の解法には17世紀に開発されたニュートン法、特に最適化問題の解法としては計算コストを変数Nの2乗にまで抑えることに成功した準ニュートン法が用いられることが多い。これらニュートン法型解法の問題点である大域的収束性を大幅に改善したW4法は回転星の平衡形状を求めることに成功した一方、オリジナルのニュートン法と同様に変数Nの3乗の計算コストが必要となる。本研究では安定で高速な準W4法の開発を目指す。
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研究実績の概要 |
本研究の目的は、近年新たに私達が提案したニュートン・ラフソン法の拡張であるW4法を応用した最適化ソルバーを用い、これまで実現できなかった安定かつ高速で実用的な高密度天体の構造解析手法を確立することである。ニュートン・ラフソン法は、非線形連立方程式を解く一般的な手法であり、多くの業界では短くニュートン法とも呼ばれる。ニュートン法はある近似解から反復的に解を求める数値解法であり大きく二つの特徴がある。一つは計算過程で逆行列を必要とするためその計算コストが求めたい変数の数Nの3乗に比例することであり、もう一つは局所的収束性の良さの反面、大域的収束性が無いことである。前者については多くの研究があり、準ニュートン法などのように変数Nの2乗まで計算コストを落とせる場合があることが知られている。しかし後者については、ニュートン法においてうまく変数の初期推量をする以外に一般的方法はなかった。そこで私たちは以前、大域的収束性を大幅に改善した新たな非線形連立方程式の解法(W4法)を提案し、W4法を応用し高密度回転星の平衡形状を求めることに成功した。しかしながらW4法はヤコビアン行列の分解のため、計算コストとしては従来のニュートン法と同様に変数Nの3乗となることがわかっていた。つまり、大域的収束性の担保と計算コストの大幅な削減を同時に実現することが本研究で求められることである。本年度の研究では、まず高密度天体の構造解析で解くべき偏微分方程式を確認した。境界条件および解くべき変数を整理することで、解きたい偏微分方程式が帰着する非線形連立方程式を確定した。さらにW4法における計算コストの削減案を模索中、従来のW4法では解くことの難しい設定で解けるような行列分解を開発することに成功し、論文としてまとめ国際誌に投稿することができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ブラックホールや中性子星などの高密度天体の構造解析とは、アインシュタイン方程式やオイラー方程式などから構成される偏微分方程式を妥当な境界条件のもとで満足する解を得ることである。特に星が回転を持つ場合は最適化問題のようにニュートン法で解かれることが一般的である。ニュートン法はある近似解をもとに反復的に真の解を求める数値解法であるが、優れた局所的収束性を持つものの大域的収束性を持たないため、あらかじめ解に近い答えを与える必要がある。変数として何を解くかということによってあらかじめ良い答えの推量ができるかがどうか決まるため、これまで構造解析する際には角運動量分布や状態方程式に対しいくつか仮定をする必要があった。本研究においてはニュートン法の大域的収束性を改善したW4法を用いるため、まずはそのような仮定をせずに偏微分方程式を扱うことを確認した。角運動量などの物理量を流体素片に付随するものとしてラグランジュ的に扱うことで、解くべき変数が流体素片の座標となることを確認し、さらに偏微分方程式を差分化し座標の関数として非線形連立方程式を構築することができた。得られた非線形連立方程式に対してW4法を適用する際に利用すべき行列分解を探っていたところ、方程式の性質上従来のW4法でも解くことの難しかった初期値からでも解を得られる行列分解を開発することができた。本件は論文としてまとめ国際誌に投稿し査読中であり今年度の成果として挙げられる。
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今後の研究の推進方策 |
今後の方針としては、まず開発できた新たな行列分解を足がかりにより計算コストに優れた行列分解を模索することである。また、星の構造解析に対する計算コストの削減という点では、アインシュタイン方程式を解く重力ソルバーとオイラー方程式を解く流体ソルバーを片方の変数を固定した状態で交互に解き全体の式を満たすようにイテレーションさせる方法が有効であることがわかっている。それぞれのソルバーで用いるW4法の行列分解をそれぞれ解くべき方程式の性質によって決めることで全体の計算コストを削減できると考えられる。したがってW4法そのものの省コストな行列分解を開発することとさらにその分解が各ソルバーに対して有効か否かを逐次判定し確認していくことが重要である。
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