研究課題/領域番号 |
23K03245
|
研究種目 |
基盤研究(C)
|
配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分13010:数理物理および物性基礎関連
|
研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
金田 行雄 名古屋大学, 多元数理科学研究科, 特任教授 (10107691)
|
研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2027-03-31
|
研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
|
配分額 *注記 |
3,770千円 (直接経費: 2,900千円、間接経費: 870千円)
2026年度: 650千円 (直接経費: 500千円、間接経費: 150千円)
2025年度: 780千円 (直接経費: 600千円、間接経費: 180千円)
2024年度: 1,170千円 (直接経費: 900千円、間接経費: 270千円)
2023年度: 1,170千円 (直接経費: 900千円、間接経費: 270千円)
|
キーワード | 乱流の普遍的統計法則 / 高レイノルズ数 / 有限のレイノルズ数の影響 / 小スケール / 大規模直接数値シミュレーション / 乱流の統計理論 / 乱流の計算科学 / 直接数値シミュレーション |
研究開始時の研究の概要 |
乱流は日常生活や自然において、いつでもどこでもごく普通に見られる流れである。 それぞれの流れは境界条件や外力などに敏感に依存し、千差万別である。一方、その違いにも関わらず、十分高いレイノルズ数(流れの非線形性の強さを表す指標)の乱流中の十分小さい渦の統計には、何らかの普遍的な統計法則があると考えられている。 本研究では、計算科学および乱流の統計理論の視点から、その普遍的統計法則解明のための理論展開を目指す。また、レイノルズ数や渦のスケールが有限であることの影響も視野に入れて研究を進める。
|
研究実績の概要 |
本研究の目的は「十分高いレイノルズ数Reの乱流中の十分小さいスケールの普遍的統計法則はあるとすればどのようなものか?」、また「有限のReあるいはスケールの乱流統計への影響は定量的にどれほどか?」の答えに乱流の計算科学および統計理論の視点から迫ることである。本研究の2023年度における主な研究実績はおおむね以下の通りである。 A. 周期境界条件下の乱流(以下Box乱流と呼ぶ)の恣意的なモデルに頼らないという意味で直接的な数値シミュレーン(Direct Numerical Simulation: DNS)は高いReの乱流の統計法則解明のための有力な手掛かりを与えると期待されている。本研究ではBox乱流のDNSにおける丸め誤差の影響について調べた。その結果、長時間積分を伴う大規模なDNSでは丸め誤差の影響は無視できない可能性があることが示された。 B. 空間次元dが2≦d≦3の範囲にある一様等方性乱流にラグランジュ的繰り込み理論(Lagrangian Renormalized Approximation: LRA)を適用し、相似的エネルギーカスケードを示すスケール領域のエネルギースペクトルや2点間の縦速度差の歪度などの理論的見積りを得た。LRAは恣意的調節パラメーターを用いない統計理論である。 C. 流体中では流体運動に伴い物質や運動量などが輸送される。その輸送されるもののうち、流れには影響を与えないスカラー量をパッシブスカラーと呼ぶ。本研究では一様な空間勾配を持つパッシブスカラーの乱流拡散について、熱統計力学で良く知られている線形応答理論(Linear Response Theory:LRT)の考え方を拡大した理論を導いた。またDNSによる検証を行い、その理論がDNS結果とおおむねよく整合することが分かった。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2023年度は「研究の実績」の項で述べたA, B, Cを含む知見を得た。 A. 乱流のDNSの計算規模は一般にReの増加とともに急激に増大するため、高いReの乱流のDNSの実現のためには計算資源を最大限有効に使う必要がある。その視点からは倍精度ではなく単精度の演算を用いる方がメモリーの節約や計算高速化の意味で有利という考えがあり、実際これまで多くの乱流DNSで単精度演算が用いられてきた。一方、上記Aで得られた知見はその単精度演算使用については注意が必要であることを示し、今後の大規模DNS実行に関して有用であると期待される。 B. 一般に渦の力学は空間の次元によって異なり、乱流統計はその力学の違いに強く影響される。本研究ではLRAをd次元乱流(2≦d≦3)に適用し、よく知られた相似領域における2点間の縦速度差の歪度(確率分布関数の正規分布からの違いを示す代表的指標の一つ)の次元dによる違いを理論的に見積もることができた。このことは渦の力学あるいは空間次元と乱流統計の非正規性との関係についての理解に貢献すると期待される。 C. 本研究では一様な空間勾配下でのパッシブスカラーの乱流拡散の新しい理論を導くことができた。一部の統計量の非等方性のスケール依存性については、検証に用いたDNSのシミュレーション時間が十分長くない、あるいはReが十分高くない可能性は残っているけれども、他の統計量については理論とDNS結果がおおむね整合していることを示すことができた。 以上のことから本研究は「おおむね順調に進展している」と考えられる。
|
今後の研究の推進方策 |
「研究の実績」の項のA, Cに記した、乱流のDNSにおける丸め誤差の影響、およびパッシブスカラーの乱流拡散についての知見の論理的補強等を行いその成果をまとめる。また、引き続き乱流の計算科学的および統計理論的視点からの研究を進める。 計算科学的視点からは、計算資源の許す範囲でできるだけ高いReのBox乱流の大規模DNSの実行およびそのデータ解析などを行う。2024年度はとくに、渦集中領域と高エネルギー散逸率領域の相対位置やそれぞれの領域の空間構造などに着目してデータ解析を行う。また、これまでのDNSによるものも含め基本的統計量についてのデータの整理および解析を行う。 乱流の統計理論的視点からは、これまでの知見に基づいて引き続き有限のReの影響等についての理論展開を目指す。2024年度はとくに、非定常性が無視できない準一様等方的な乱流の統計における有限 のReと渦の大きさの影響を検討し、乱流のLRTの視点から近似理論の展開を目指す。実験的研究でよく用いられている格子を過ぎる乱流場とその中の乱流拡散について統計量の主流方向と主流に垂直な方向での違い(非等方性)に着目して近似理論の検討を行う。
|