研究課題/領域番号 |
23K03249
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分13010:数理物理および物性基礎関連
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研究機関 | 大阪教育大学 |
研究代表者 |
瀬尾 祐貴 大阪教育大学, 教育学部, 教授 (90439290)
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研究分担者 |
藤井 淳一 大阪教育大学, 教育学部, 教授 (60135770)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
3,640千円 (直接経費: 2,800千円、間接経費: 840千円)
2025年度: 1,170千円 (直接経費: 900千円、間接経費: 270千円)
2024年度: 1,170千円 (直接経費: 900千円、間接経費: 270千円)
2023年度: 1,300千円 (直接経費: 1,000千円、間接経費: 300千円)
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キーワード | 作用素論 / 量子情報幾何学 / 量子情報理論 / 行列解析 / 量子エントロピー / 量子情報幾何 / 作用素不等式 / 行列幾何平均 |
研究開始時の研究の概要 |
本研究の目的は、申請者がこれまで「作用素論」において研究を進めてきたヒルベルト空間上の作用素不等式及び行列解析の手法をもとにして、量子情報幾何学や量子情報理論などの分野のさまざまな幾何学的様相に絡んだ定量的な評価を中心に考察し、その幾何学的な構造の解明を作用素論の枠組みの中で構築することを目的とする。具体的な研究項目は、 ・作用素論に基づく量子情報幾何学や量子情報理論における幾何学的構造の解明とその応用 ・多変数作用素幾何平均の観点から量子情報幾何学や量子情報理論への応用 であり、近年急速に発展している量子情報幾何学や量子情報理論への大きな影響や新しい視点を与えるものである。
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研究実績の概要 |
作用素論及び行列解析の基礎研究と近年急速にその研究が進んでいる量子情報幾何学、量子情報理論、信号解析理論との作用素論的なつながりの発展が、両方の深化に重大な影響を及ぼすものと考えている。これまで研究してきた作用素平均・作用素不等式の基礎的な結果を、2012年にまとめ、ヒルベルト空間上の作用素そのものの不等式や作用素ノルム不等式などをもう一段階、上の視点から考察した。 そのような流れの中で、近年、甘利・長岡らによる量子情報幾何学や、林らによる量子情報理論などの分野の作用素論的な枠組みの構築の密接な関連の必要性が喫緊の課題として上がっている。しかし、量子情報幾何学や量子情報理論におけるさまざまな幾何学的内容は、量子化に伴い、多様な対応物が考えられているが、作用素の非可換性により、作用素の枠組みの中では、必ずしも具体的に明らかになっていない。また、行列や作用素の文脈での様々なエントロピーやダイバージェンスなどの評価を中心とした研究もその非可換性により進んでいるとは言えない。 この一連の動きに対して、私たちの従来の研究が、情報幾何学や量子情報理論の計量的な幾何学的構造の解明に、新しい視点で結びつくことの重要性に気付いた。申請者は、2019-2021年度の基盤研究(C)19K03542において、Lawson-Lim-Palfiaによって定式化された多変数幾何平均をより一般的な枠組みにまで拡張し、これにより古市-柳-栗山によるTsallis相対作用素エントロピーの実数全体のべきに対する構成とその基本的な性質を明らかにし、量子情報幾何学などの分野を含む様々な幾何学的様相に絡んだ計量的な評価を考察することが可能になった。申請者は毎土曜日に開催される藤井正俊教授との数学研究会で、共同研究者である藤井淳一教授と活発に議論を深め、日本数学会やRIMS研究集会等でその成果を発表している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
作用素不等式におけるこれまでの成果を踏まえ、その応用として、幾何学的な考察に基づいて、量子情報幾何学や量子情報理論との関連性やその応用、多変数幾何平均の理論とのかかわりを通して、作用素論的な視点から量子情報幾何学の幾何学的な構造の構築とその解明を目指す。そのために、2023年度は、精力的に作用素論と情報幾何学との関連を研究されている藤井淳一氏と、共同研究をさらに進め、この課題に精力的に取り組む。藤井淳一氏は、これまでの(基盤研究(C)(一般)23540200及び20540166)での研究成果をもとに、作用素論と情報幾何学との基本的な道具立てを揃えることに成功している。 申請者は、ヒルベルト空間上の有界線形作用素及び行列に関する作用素(行列)不等式とその応用に関する研究を進めてきたが、今回、申請者の作用素不等式の視点をもとに、量子Tsallis相対エントロピーに関する新しい性質をまとめ、RIMS研究集会で研究報告を行った。併せてこの結果を論文として現在まとめているところである。 また、イランのMoslehian教授、ヨルダンのKittaneh教授、ロシアのBikchentaev教授との共同研究で、作用素論の立場からGolden-Thompson不等式(これは、量子相対エントロピーを考察する場合、きわめて重要な役割を果たす基本不等式である)とそれに関連して量子Tsallis相対エントロピーを含む量子エントロピーに関する結果をまとめている。さらに、作用素の数域に関する不等式は、作用素のノルム不等式とは異なった性質を持ち、この方面の研究も量子情報理論を扱う上で重要な役割を果たすのではないかと考えている。この結果も論文としてまとめている。
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今後の研究の推進方策 |
作用素論の知見をもとに、量子情報幾何学、量子情報理論、信号解析理論の基礎研究に、さらにもう一歩踏み込んで、それらの幾何学的構造を明らかにし、その応用や従来の概念との関連性を見出していきたいと考えている。初年度での取り組みをさらに深め、共同研究者である藤井淳一教授と議論をする中で、微分可能多様体として正定値行列全体のなす空間の幾何学的構造をより明確にし、その上で展開される幾何学的構成をもとに、量子Tsallis相対エントロピーの持つ、諸性質を明らかにしたい。これに関連して、作用素論のグランド古田不等式が重要な鍵を握っていることが最近の研究によりわかってきた。量子エントロピーの枠組みのさらなら深化が認められるのではないかと期待している。そのことは量子情報理論の基礎研究の深化につながる。 また、量子エントロピーのさらなる物理量としてRenyiエントロピーは現在重要な性質の故に、多くの研究者によって研究されているが、私たちは作用素論の研究をベースに量子Renyi相対エントロピーのさらなる幾何構造の解析ができるのではないかと考えている。それは、藤井-亀井による相対作用素エントロピーを土台とする新たな量子エントロピーの枠組みでの構築である。これらに関する結果はまだまだ明確ではないが、作用素論での取り組みをさらに深めることでなんとか結果を出したいと考えている。そして、成果は日本数学会やRIMS研究集会また、海外での研究集会等で中間発表をしたいと考えている。
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