研究課題/領域番号 |
23K03250
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分13010:数理物理および物性基礎関連
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研究機関 | 広島大学 |
研究代表者 |
樋口 克彦 広島大学, 先進理工系科学研究科(先), 准教授 (20325145)
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研究分担者 |
樋口 雅彦 信州大学, 学術研究院理学系, 教授 (10292202)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2027-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
3,640千円 (直接経費: 2,800千円、間接経費: 840千円)
2026年度: 1,040千円 (直接経費: 800千円、間接経費: 240千円)
2025年度: 1,040千円 (直接経費: 800千円、間接経費: 240千円)
2024年度: 1,040千円 (直接経費: 800千円、間接経費: 240千円)
2023年度: 520千円 (直接経費: 400千円、間接経費: 120千円)
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キーワード | 対密度 / 超伝導 / 第一原理計算 / 対密度汎関数理論 / 粒子数揺らぎ |
研究開始時の研究の概要 |
超伝導現象を第一原理的に解明する広く用いられている「超伝導の密度汎関数理論」の精度を決める量は,理論の中に現れる交換相関エネルギー汎関数です。この汎関数は,電子相関の様相を異常密度と電子密度の汎関数で書き表したもので、その近似形の改良が困難でした。最近われわれは,電子相関を直接あらわす物理量である「対密度」を用いると、超伝導状態で生じる「粒子数揺らぎ」が直接計算できることを発見しました。本研究では異常密度に代わって、この「対密度」を用いた超伝導第一原理計算理論(「超伝導のための対密度汎関数理論」)の開発を行います。
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研究実績の概要 |
超伝導に対する第一原理計算に基づく研究のほとんどは、オリベーラ・グロス・コーンによる「超伝導の密度汎関数理論」(以下OGK理論と呼ぶ)に立脚しています。OGK理論は、交換相関エネルギー汎関数の近似精度の問題や電子相関の様相を記述できないという問題点があります。本研究では、OGK理論を質的に超える第一原理計算理論「超伝導のための対密度汎関数理論」の開発を行っています。超伝導状態は二次簡約化密度行列の非対角成分だけでなく,対角成分である「対密度」にもその特徴が現れます。「超伝導のための対密度汎関数理論」は、超伝導状態における対密度の再現を保証する理論です。そのおかげで、超伝導状態で生じる「粒子数揺らぎ」だけではなく交換相関エネルギーを厳密に書きあらわすことができます。さらに、対相関関数や静的構造因子など電子相関をあらわす量も直接計算することができます。 本研究では、参照系を導入することで数値計算可能な形式に「超伝導のための対密度汎関数理論」を拡張することを目的1としています。本年度より、相互作用しない多数の最大ジェミナルからなる系を参照系に用いることを検討しています。最大ジェミナルとは、二次簡約化密度行列の最大固有値に対する固有関数のことです。本年度はまず最大ジェミナルについて詳細に調べました。具体的には、最大ジェミナルを用いてBCS基底状態のクーパー対のもつれエントロピー(EE)を詳細に調べました。その結果、超伝導状態の振る舞いに関する新しい知見を得ました。具体的には、BCS基底状態の最大ゲミナルのEEは、最大ジェミナルの占有数に対して対数的に振る舞い、従来のベル状態よりもはるかに大きいことが示されました。さらに、最大ジェミナルの占有数が4桁程度減少すると、1次相転移のように超伝導が有限のギャップを伴って消失することを初めて明らかにしました。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
「超伝導のための対密度汎関数理論」は、超伝導状態における対密度の再現を保証する新しい第一原理計算理論です。数値計算可能な形式に拡張するために、一つ一つ課題を解決していく必要があります。当初の目的1は、参照系を導入して数値計算可能な形式に拡張することです。どのような参照系を導入するかがキーポイントと考えられます。相互作用しない多数の最大ジェミナルからなる系は参照系の候補の一つです。本年度は最大ジェミナルについて詳細に調べ、研究実績の概要に記載した研究成果を得ました。参照系の策定に向け、順調に研究が進んでいると言えます。また、既に証明済みの対密度に関する変分原理を、仮想系を導入することなく直接利用する方法も検討を始めました。具体的には、既に開発済みの運動エネルギー汎関数およびエントロピー汎関数の近似形を用いて直接、超伝導状態の対密度を計算するというものです。後者の方法は当初の研究計画には記載されていませんが、本研究で検討していきたいと考えています。 以上より、研究全体では当初の予定通りおおむね順調に進展しているといって良いと考えられます。
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今後の研究の推進方策 |
次年度は、本年度の知見を基礎に、参照系を導入して数値計算可能な形式に「超伝導のための対密度汎関数理論」を拡張します。既に証明済みの基本的な二つの定理の証明(定理1:熱平衡状態の統計演算子と対密度の一対一関係、定理2:グランドポテンシャルの対密度に関する変分原理)を用いて、参照系におけるボゴリュウボフ・ドジャン型の有効方程式を導出します。具体的な数値計算を念頭におくと、参照系における運動エネルギー汎関数とエントロピー汎関数の開発が必要です。前者に関しては常伝導対密度汎関数理論で得た成果が援用できます。後者に関しては、既に近似的な汎関数は開発済みですが,参照系と現実系の差異の取り込みなどまだ課題が残っています。これについては結合定数積分を用いた技法でその課題を解決する予定です。 さらに目的2「「超伝導のための対密度汎関数理論」のBCS型超伝導体への適用」については、これまでに開発した常伝導対密度汎関数理論のプログラムコードの「超伝導のための対密度汎関数理論」への改良を進めます。また、ボゴリュウボフ・ドジャン型の有効方程式を近似的に解くために,ドジャンによる近似を用いる予定です。この近似は,常伝導状態に対する有効一粒子方程式の解を利用して超伝導状態を構成するというものです。そのために常伝導状態に対する有効一粒子方程式の数値計算プログラムコードの改良を進める予定です。
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