研究課題/領域番号 |
23K03255
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分13010:数理物理および物性基礎関連
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研究機関 | 国立研究開発法人物質・材料研究機構 |
研究代表者 |
田中 秋広 国立研究開発法人物質・材料研究機構, ナノアーキテクトニクス材料研究センター, 主幹研究員 (10354143)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
1,820千円 (直接経費: 1,400千円、間接経費: 420千円)
2025年度: 650千円 (直接経費: 500千円、間接経費: 150千円)
2024年度: 390千円 (直接経費: 300千円、間接経費: 90千円)
2023年度: 780千円 (直接経費: 600千円、間接経費: 180千円)
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キーワード | 量子スピン系 / 量子異常 / トポロジカル物質相 / ベリー位相 / ソリトン / スピンパリティー / スピンパリティー効果 / カイラル磁性体 |
研究開始時の研究の概要 |
スピンが整数値を取るか、または半整数値を取るかによって性質に差が現れることを「スピンパリティー効果」と呼ぶ。反強磁性スピン鎖におけるハルデインギャップ現象がその例として広く知られるが、申請者等はカイラル強磁性体においてもスピンパリティー効果が存在することを最近見出した。その有効理論が、トポロジカル相の有無の判定に用いられる量子異常のひな形のモデルと強い類似性を有することに着目して両者のつながりを明らかにし、この新規量子効果に関する知見、特にトポロジカル相との関係または相違を明らかにする。
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研究実績の概要 |
2023年初頭に東大総合文化研究科の加藤教授グループとの共同研究においてカイラル強磁性量子スピン鎖の磁化特性にスピンパリティー効果が表れることを理論的に見出し論文を発表した。その際私は、半古典近似に基づいて、数値計算で見つかった現象を定性的に説明できる低エネルギー有効理論を導出した。この理論からカイラルソリトンの集団座標についての有効作用を求めたが、これが高エネルギー物理学の研究者が近年研究している「t'Hooftアノマリーが起きる一体の量子力学のtoy model」と同一の型を持つことに気づいた。そこでこの類似性を、上記量子スピン系が一種のトポロジカル物質相であることを示唆するものと予想して、二つの理論のより詳しい比較を行った。その結果、カイラルソリトン系の作用のベリー位相項の係数がオーダー1であるのに対して、アノマリーを起こすtoy modelにおいては1/Nのオーダー(Nは系の長さ)であるという違いがあることが分かった。結局両者は異なるものであったが、スピン系に何らかの変更を施すことでアノマリーが出現する余地があると考えており、次に述べる通り、実際にそれに該当すると考えられる例を最近特定した。具体的には、上の共同研究の次のステップとして、異方性の強い反強磁性量子スピン鎖の有限系を扱い、そこでも磁化特性にスピンパリティー効果があることが分かり、現在論文を投稿中である。私はこの場合も半古典理論を構成してみたが、ここでもソリトンが重要となり、前述のものと同じ型の有効作用で記述できることも見出した。強磁性の場合と異なり、先のt'Hooftアノマリーのひな型の模型と係数も含めて整合する。この観点から今後、このスピン系の基底状態の性質を詳しく調べる価値があると考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
「実績の概要」欄で記した通り、本課題の主要な目的は、スピンパリティー(スピン量子数が整数か半整数かの別)に依存して定性的に異なる物性を示す量子スピン系に着目して(典型的なスピンパリティー効果であるHaldaneギャップ現象の例と同様に)何らかのトポロジカル物質相が創発する可能性を探ることにある。有効理論のレベルでこれを判定する方法の一つとしてt'Hooft量子異常の有無をチェックすることが考えられる。現在までに(1)2023年の論文で扱ったカイラル強磁性スピン鎖(2)その後に研究した異方性の強い反強磁性スピン鎖、の両者についてこのチェックを行った。((2)は現在投稿中。)前者では量子異常を起こすことが広く知られるtoy modelと同じ型のベリー位相項が得られるものの、その係数がこの効果の起きる条件を満たさないことが分かった一方、後者では条件を満たすことが分かった。当初の目論見では、前者の最も単純なカイラル強磁性体をターゲットとしていたがここでは予想とは違う結果を得た。しかし、条件を変えながら量子異常を起こす量子スピン系を実際に特定できることが具体的に分かったため、今後さらにこの方向の研究を詳しく行う見通しが立ったと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの研究から、異方的な反強磁性スピン系の有限系がある種の量子異常を起こしているという強い示唆を得た。これがどのようなトポロジカルな意味を持つのかを、物性に則して具体的に解明する必要がある。また「異方的相互作用を利用して特異な量子効果を創出する」というこの研究で開発したアプローチは、SU(2)スピン系に限らず、例えば冷却原子の研究の文脈で盛んに研究が行われているSU(N)スピン系やSO(5)スピン系にも拡張できると予想できる。これは冷却原子系の物理に新知見を提供できる可能性があると考えている。当初のターゲットであったカイラル強磁性体においても、相互作用を工夫して変更を加えることで、量子異常を起こす模型に帰着できる可能性はあり、引き続き検討を重ねていく。ところで異方的反強磁性体の研究においては、オンサイトの異方性が強い極限では一サイト問題に帰着する。すなわち、半整数スピン系の場合、異方性のために実効的に各サイトにスピン1/2のモーメントが分布する。これにサイト間をつなぐ相互作用を適切に導入すれば新規の量子効果を示す磁性体を設計できる可能性がある。様々な空間次元や格子構造、相互作用(異方的相互作用よりエネルギースケールの小さいものを用いる)を視野に、スピン液体を理論的に探索するルートとなり得るか、今後検討を加えていきたい。
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