研究課題/領域番号 |
23K03271
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分13020:半導体、光物性および原子物理関連
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
井口 敏 東北大学, 金属材料研究所, 准教授 (50431789)
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研究分担者 |
池本 夕佳 公益財団法人高輝度光科学研究センター, 分光推進室, 主幹研究員 (70344398)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,680千円 (直接経費: 3,600千円、間接経費: 1,080千円)
2025年度: 650千円 (直接経費: 500千円、間接経費: 150千円)
2024年度: 780千円 (直接経費: 600千円、間接経費: 180千円)
2023年度: 3,250千円 (直接経費: 2,500千円、間接経費: 750千円)
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キーワード | 磁気光学効果 / 偏光特性 / 有機磁性体 / 磁気光学カー効果 / 分光 / 偏光 / 有機分子性結晶 |
研究開始時の研究の概要 |
磁性体表面で直線偏光が反射すると楕円偏光になる.この現象を用いると磁性やスピン流の発生を検出できるが,それを超えて磁性関連現象をより深く理解し解明するには,その楕円偏光から非対角光学応答を算出する必要がある.しかし,その方法は,等方性結晶の場合とは異なり,異方性結晶においては未知であった.本研究に先立ち我々はより広く適用可能な基本原理(公式)を見いだした.本研究ではまず,この基本原理を元に現実的な計測法を確立する.またこの式から,我々はこれまでの計測では物質内の詳細な異方性を見逃していたことに気づいた.偏光解析により「真の異方性とは何か」を探究する.
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研究実績の概要 |
本研究は,異方的な光学特性とは何かを深く探るものである.有機結晶は低対称なものが多く異方性の理解とそれに基づく正しい測定結果なしには,その量子的理解は進みにくい.特に対称性の低さに由来する非対角光学応答とともに磁性や時間反転対称性の破れに起因する反対称な非対角光学応答も存在しうるため,それらをどのようにすれば正確に測定でき,それらを正しく判別出来るのか,またその測定結果から物理を議論するために必要な非対角誘電率や伝導度はどのようにして得られるのかに着目している.異方的光応答を理解し,偏光解析を組み合わせることで,単純な異方性の現象論から物質内の量子的起源の実証にまで異方的な光物性の理解を高めることが最終的な目標である. 本年度はまず,最近,我々が見いだした異方性の顕著な有機強相関電子系における赤外磁気光学効果のスペクトル測定原理と,磁気光学効果と非対角光学伝導度とを結びつける一般関係式を発表した. これは理想的な場合を想定したものであり,特に磁気光学効果に代表される非対角光学応答は対角応答の100分の1から1000分の1程度の小さなものであるため,現実の測定系に適用するには光学素子や試料の微調整の方法や効率的な測定方法が必要である.光学素子等のずれに起因する誤差も上記の測定原理から計算で求めることができる.その計算を元にした調整方法を確立できたので対角成分を出来るだけ排除した測定ができるようになった.これらを用いて直方晶の有機磁性体 kappa-(ET)2Cu[N(CN)2]Cl の非対角伝導度スペクトル測定を行い,実験および解析等は概ね出来ている.現在,それらをまとめた論文の準備中である.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
上記の様に,非常に小さな非対角光学応答を正しく測定するには,巨大なノイズである対角の光学応答をいかに排除するかが重要である.我々が得た測定原理を用いれば,光学素子のずれが測定スペクトルに及ぼす影響を数式的に理解でき,また,実際にも数式通りに振る舞うことが確認出来た.このため,効率的な調整方法をあらかじめ想定することができ,SPring-8の限られた測定時間にも関わらず,測定に割ける時間を増やすことができ,研究を加速した. また,これまで2行2列の光学誘電率テンソルを求めることを中心に考えていたが,透磁率テンソルを顕わに考えてもマクスウェル方程式の正確な解を考えることができるようになった.これは,非対角応答スペクトルを実際に測定していく過程でより深い理解が得られたためである.このことが本研究の主たる目的である有機磁性体 kappa-(ET)2Cu[N(CN)2]Cl の磁気光学効果を理解する上で非常に重要であろうということが分かってきた.このことは当初予定していなかったことだが,より一般の偏光特性の理解に大いに繋がるものである.
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今後の研究の推進方策 |
まず,上記にも書いたが,有機磁性体 kappa-(ET)2Cu[N(CN)2]Cl の磁気光学効果,特に最近注目されている交替磁性体としての性質に関する論文をまとめるとともに,学会等での成果発表も行っていく予定である. また,本課題で購入した光弾性変調器等を利用した光学系の構築とともに,より対称性の低い有機結晶での非対角応答や偏光特性の測定方法の確立や正しい光学伝導度の導き方を検証していく予定である.いくつかの有機物質では既に測定を開始しており,より低対称な結晶系では対角成分に由来する非対角応答も確実に存在することも分かってきているので,これらを元に,正しい光学応答テンソルを得る方法を確立していく. 理論研究は実験に比べて進んでおり,上記の有機磁性体kappa-(ET)2Cu[N(CN)2]Clの他にも同様のメカニズムで磁気光学効果が発現しうると言われる物質(遷移金属酸化物など)も増えてきた.いずれも異方性が重要な役割を果たしているが,そのために実験が進みにくいことも確かである.本課題の成果は理論の実験的検証を正しく行える重要なものであるため,正しさ,確実さ,一般性などを念頭に進めていく予定である.
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