研究課題/領域番号 |
23K03284
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分13020:半導体、光物性および原子物理関連
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研究機関 | 大阪公立大学 |
研究代表者 |
小栗 章 大阪公立大学, 大学院理学研究科, 教授 (10204166)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,290千円 (直接経費: 3,300千円、間接経費: 990千円)
2025年度: 1,170千円 (直接経費: 900千円、間接経費: 270千円)
2024年度: 1,430千円 (直接経費: 1,100千円、間接経費: 330千円)
2023年度: 1,690千円 (直接経費: 1,300千円、間接経費: 390千円)
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キーワード | 物性理論 / 近藤効果 / フェルミ流体 / 非平衡状態 / 超伝導 / 三体相関 / 数値くりこみ群 / 輸送現象 |
研究開始時の研究の概要 |
量子ドット等のメゾスケール系では、低温において局在した離散エネルギー準位を占有する電子と電極の伝導電子が強く相関した量子状態が形成され、Fermi流体と呼ばれている。この状態の性質は、相互作用の効果がくりこまれた少数の準粒子パラメータにより決定されるが、最近の研究によって、これまで認識されていなかった局在電子の三体相関の寄与が、電子正孔非対称や時間反転対称性が破れた場合に現れることが分かってきた。本研究では、量子ドット系の非平衡近藤効果や超伝導電極を含む多端子系におけるCooper対の非局所伝導の解析を通して、量子状態の三体的相関による効果の全貌を理論的に解明する。
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研究実績の概要 |
量子ドットや希薄磁性合金に代表される量子不純物系では、低温において電子間相互作用を通して強く相関したFermi流体状態が実現される。この量子状態は、不純物の周りに局在する電子数の違いによって、近藤状態や価数揺動状態を含む多彩な振舞いを示す。我々のこれまでの研究を含む最近の発展を通して、低エネルギーにおける輸送係数の振舞いに不純物電子間の三体相関が系統的に現れることが分かってきた。このような背景の下で、本研究では2023年度は、次にあげる項目に関する研究を進め、その下に補足する進展があった: 1) SU(N)量子ドット系の電気伝導に対するトンネル結合およびバイアス電圧の非対称性の効果 2) 多軌道系量子系の非線形電流ノイズおよび熱電気輸送係数に対する三体相関の寄与 3) カーボンナノチューブ量子ドット系における軌道分裂の効果 4) 超伝導接合系の交差Andreev散乱と近藤効果の競合の磁場依存性 上記 1)の研究では、まず輸送係数の第二主要項に対して、トンネル結合およびバイアス電圧の非対称性がある場合にも整理する一般公式を、Anderson不純物模型に基づき三体相関を考慮に入れて導出した。さらに、数値くりこみ群(NRG)を用いて、N=4およびN=6の場合における輸送係数を、局在電子数、電子間斥力の広範囲なパラメータ領域で詳細に調べ、研究成果の論文発表した(Phys.Rev.B)。また、2)では、同様の方針で熱電気輸送係数を含めた研究内容の論文を完成し投稿中(arXiv:2404.05947)。3)の研究も精力的に進め、日本および米国物理学会で口頭発表を行い、論文執筆中である。また、4)の超伝導電極に接続した量子ドット系に関しては、線形応答領域における非局所伝導度に対する近藤singletとCooper対の競合の磁場変化に関する成果を論文発表した(Phys.Rev.B)。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2023年度は本課題に関連する4編の論文を完成し、そのうち3編は既に出版され、1編投稿中である。上記「研究実績の概要」欄で部分的に述べた通り、特にこのうち2編では、本研究の中心課題である低エネルギーFermi流体領域において輸送係数の第二主要項に現れる局在電子間の三体相関の効果を系統的に調べた成果をまとめたものであり、研究計画の中で重要な通過点のひとつに確実に到達したものである。その他の2編の論文は、絶対零度の極限における量子ドット系のコンダクタンスの磁場依存性から、Zeeman分裂と近藤効果および超伝導近接効果との競合を、特性エネルギーの決定や交差Andreev散乱を含め最新の観点から、数値くりこみ群およびBethe仮説法を用いて詳細に論じたものであり、研究計画の次の段階へ進む重要な基礎を与えるものである。さらに、カーボンナノチューブ量子ドット系等の多軌道量子不純物系では、スピン自由度のみならず軌道自由度も外場によってエネルギー分裂を引き起こし、その影響によって様々な近藤状態や価数揺動状態が出現する。今年度は、このような状況において電子間の三体相関の効果がどのように現れるかについて研究を進め、確実に成果を得ており、今後さらに発展させる見通しがついている。
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今後の研究の推進方策 |
本研究の中心課題は、『メゾスケールの低エネルギー量子輸送における三体的Fermi流体効果』の全貌を理論的に解明することにあり、上欄に述べた現在の進捗状況を踏まえ、今後さらに発展させる。第1点目として、電子間のクーロン相互作用Uが無限大の強相関極限において、輸送係数の第二主要項に与える三体相関の寄与を明らかにする。近藤状態から価数揺動状態までの広範囲な局在電子の占有状況において、電子軌道数、およびトンネル結合・バイアス電圧の非対称性の影響を含めてパラメータの全領域における振舞い明らかにする。我々は、この問題に既に取り掛かっており、次年度はさらに総合的な検討を進め論文にまとめる。第2点目の課題は、スピン自由度に加えて軌道自由度を持つ系における局在準位の分裂による低エネルギー量子状態の変化が、三体相関の変化を通して輸送特性の振舞いに、どのような影響を与えるかを明らかにすることにある。この点に関しても、今年度の研究をさらに深く進め、量子ドット系および希薄磁性合金系の熱伝導度の第二主要項のを含めた理論解析を系統的に調べる。第3点目は、超伝導体と常伝導体からなる多端子の電極に接合された量子ドット系に関する研究である。特に交差Andreev散乱過程では、一つの常伝導電極から入射した電子が量子ドット付近でCooper対を形成して超伝導電極に伝播し、他の常伝導電極に正孔を出射する。低エネルギーではBogoliubov準粒子がFermi流体として振舞うため、非局所伝導度の温度依存性に三体相関による補正が現れるが、より詳細な検討を今後の課題として念頭に置いている。
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