研究課題/領域番号 |
23K03294
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分13030:磁性、超伝導および強相関系関連
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
日高 宏之 北海道大学, 理学研究院, 助教 (90466459)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,680千円 (直接経費: 3,600千円、間接経費: 1,080千円)
2025年度: 1,300千円 (直接経費: 1,000千円、間接経費: 300千円)
2024年度: 1,300千円 (直接経費: 1,000千円、間接経費: 300千円)
2023年度: 2,080千円 (直接経費: 1,600千円、間接経費: 480千円)
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キーワード | 空間反転対称性を持たない金属磁性体 / 交差相関応答 / 電流誘起格子歪み / 非線形ホール効果 / 奇パリティ多極子 / 磁気圧電効果 |
研究開始時の研究の概要 |
空間反転対称性を持たない結晶においては、一見通常の磁気・電気秩序でも「空間反転操作に対して奇の対称性(パリティ)を持つ多極子の秩序」としてみなせる場合がある。この奇パリティ多極子秩序下では電流誘起磁化のような交差相関応答の発現が期待されるが、理論から予測される応答と実験結果が合致しない例も見つかっている。上述のような問題を内包する電流誘起磁化の発現が報告されている金属磁性体に対して、新たに別の交差相関応答である「磁気圧電効果(=電流誘起格子歪み)」および「非線形ホール効果」の検証を行うことで、多角的な視点からこれら磁性体における特異な秩序状態の詳細について明らかにすることを目指す。
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研究実績の概要 |
固体中における多彩な秩序状態は一般に、電荷・磁荷分布の異方性を特徴づける「多極子」で表現することが出来る。この多極子は、物質の持つ空間反転対称性と時間反転対称性の偶奇性を用いて分類する事が出来る。特に、結晶構造に空間反転対称性を持たない固体中では、空間反転操作に対して奇関数となる「奇パリティ多極子」が秩序し、通常の金属では発生しえない物理応答、例えば電流によって誘起される磁化や格子歪みなどが観測される可能性がある。本研究では、奇パリティ多極子秩序の候補である金属磁性体において、「電流誘起格子歪み」および「電流誘起磁化に起因した非線形ホール効果」を用いた多角的な実験的研究を行い、それらの奇パリティ多極子秩序状態の詳細を明らかにすることを目的としている。 2023年度には、研究代表者が保有する電流誘起格子歪み観測のための「多重環境下熱膨張測定システム」のさらなる高精度化および効率化を行い、磁気トロイダル双極子秩序物質UNi4Bにおける「電流誘起格子歪み」の検証を行った。UNi4Bではこれまでの研究から電流誘起磁化の発現が報告されており、理論的には同時に電流誘起格子歪みの発現も期待される。2023年度の研究においては、電流誘起歪みはこれまでのところ観測されていないが、同時に行った磁場中熱膨張測定から磁気相図を作成し、本物質の特異な磁気秩序状態の解明に繋がりうる重要な情報が得られている。また、非線形ホール効果については現在測定システムの構築中であり、次年度以降に本格的な測定へと着手する予定である。 また上記の研究に加えて、局所的に空間反転対称性を持たない金属磁性体であるCeCoSiにおける異方的磁気相図に関する研究など、他の物質系への研究対象の拡張も行っている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
2023年度に主として行った研究は、局所的に空間反転対称性を持たない金属磁性体UNi4Bにおける電流誘起格子歪みの検証である。UNi4Bは過去の研究から、低温20K以下の反強磁性秩序相において磁気トロイダル双極子秩序に起因した電流誘起磁化の発現が知られている。しかし、観測された電流誘起磁化は理論(群論)的に期待される結果とその発現方向などの点で合致していないなどの疑問点も残されている。そこで本課題では、異なる交差相関応答である電流誘起格子歪みを用いてその疑問点を解決することを目指している。測定には、多重環境下測定(極低温・強磁場・電流)が可能な高精度熱膨張測定システムを用いた。これまで、電流誘起格子歪みの発現が期待される特定の電流方向、歪み方向に対する実験を行ってきたが、測定精度内で電流誘起格子歪みは観測されていない。併せて、強磁場下熱膨張測定も行い、磁性と格子の結合に関する調査と詳細な磁気相図の作成も行っている。 一方で、非線形ホール効果を用いた研究については、測定システムを新規に構築する必要がある。そのために購入予定であった測定器の価格が、申請時の見積もりより大幅に値上げされており初年度の予算内で必要な測定機をすべて揃えることができていない状況である。 上記の研究以外にも、局所的に空間反転対称性を持たないいくつかの希土類系・ウラン系金属磁性体の関連物質の実験的研究も行っている。特に、奇パリティ多極子秩序候補物質CeCoSiの起原が未解明の低温秩序状態に関する詳細な磁気相図を作成し、その理解につながる重要な研究成果を得ている。
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今後の研究の推進方策 |
基本的には当初の研究計画に従い研究を進める。 磁気トロイダル双極子秩序物質UNi4Bの電流誘起格子歪みの研究についての今後は、2023年度に行ったものとは異なる電流方向・歪み方向での検証を引き続き行う。また、低温秩序相における磁場-温度相図についてのさらなる研究を推し進めるために、磁場中熱膨張測定に加えて電気抵抗や磁化などの詳細な測定を行うことも計画している。 非線形ホール効果を用いた研究については、2024年度予算で最低限必要な機器を揃える予定である。これらの機器を用いて高精度ホール効果測定システムを新たに構築し、テスト測定を終えた後に、実際の対象物質における研究に着手する予定である。 また、他の局所的に空間反転対称性を持たない希土類系・ウラン系金属磁性体の関連物質に関する開発・研究も継続して行い、奇パリティ多極子秩序のもたらす新奇物性研究の新たな舞台を開拓することを目指す。
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